最終話
僕はもう一度雪が降る外に目を映した。
ごめんねと手紙が入ったチョコレートを残して小雪さんが居なくなったあの日をもう一度思い出した。
もう5年も経った。
あれから何度か恋もした。
自分から想いを告げて、そして玉砕した。10回も。
その度に敦は晩酌に付き合ってくれた。
「次こそ行けるぞ」
敦の口癖だった。
小雪さんが居なくなったあの日も敦と飲み明かした。敦の前で号泣した。想いのうちをぶちまけた。それが恋だ、と偉そうに敦は言った。
彼もまた同じ道を歩んで来たそうだ。もっと辛いこともあったらしい。だけど彼女達には感謝していると敦は言った。
彼女達がいたから今の俺は居る、と。
だから彼は言う「次こそ行けるぞ」と。
雪はすっかり家々を白く染め上げていた。
傘をさし行き交う人々の白い息が見えた。
なぜ小雪さんが居なくなったか、今となっては判らない。あの時、相談に乗っていたらひょっとして幸せな未来が待っていたのかもしれない。
だけどあの時の僕にはそれが出来なかった。それだけのことだ。
告白することにためらい、ヘタレだった僕は彼女のおかげで少し成長できたのだろうか。
あれから10回玉砕した。いいじゃないか。何も踏み出せなかった5年前には考えられないことだ。
少し成長しているじゃないか。僕。
雪のバレンタインデーに思い出された甘酸っぱい思い出は、僕に成長を知らせてくれた。
小雪さんは元気だろうか。
今日もあの笑顔を誰かに見せているのだろうか。
元気なはずだ。元気であって欲しい。
そして同じく雪のバレンタインデーをきっかけに僕の事を思い出してくれれば嬉しい。
あの日、ブースにひっそりと置かれていたチョコレートのように彼女の中に少しでも僕の居場所があるのなら。
そんな女々しい事を考えながら、僕は敦の「今日、どう?」というメールに一言「良いよ」とだけ返信した。
終
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