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岩竜討伐《1》

 朝だ。見慣れない天井にぼぉっとしていると頭がゆっくりと覚醒して来る。ここはゾルドにあるフラン家の客室。昨日は夕食を頂いた後、部屋に戻るとそのままベッドに潜り込んだんだった。



「……風呂に入りたいな」



 俺はどちらかと言うと朝風呂派だ。理由は眠気覚ましにもなるし、1日サッパリとした気分で過ごせるからだ。

 部屋を出て風呂場へと向かう。そこはシャワーだけの風呂だったが文句は言うまい。シャンプーやボディーソープの類いも無いが、文明的に仕方無い事だろう。


 冷たいシャワーを浴び、頭を完璧に目覚めさせ、サッパリとした気分で部屋に戻るとリリーが朝食の準備が出来たと呼びに来た。丁度良いタイミングだな。

 朝食の席に着くとリールさんとカイゼルさんは既に席に着いていた。



「すいません、遅れました」

「いやいや、私達も今来たところです。さぁ朝食を取りましょう」

「「「「いただきます」」」」



 4人揃って食事の挨拶をし、朝食に手を付けていく。今朝のメニューは焼き立てのパンにコーンスープ、それにサラダだけだったが、量が十分で満足出来た。



「ゼロさんは今日はいかがお過ごしになる予定ですか?」



 カイゼルさんが口を開く。



「今日からは冒険者として働こうかと思います」

「ふむ、ならば何か仕事を頼みたい時にはギルドを介して頼む事に致しましょう」

「そうして頂けると助かります」

「うむ。さて、仕事に掛かるとするか」



 一堂集まっての朝食が終わると早速仕事だ。フラン家の屋敷を出てギルドへと向かう。やはり電気の無い世界だからなのか、朝から市場は賑わっていた。そんな喧騒を横目で見つつ、目的地であるギルドへと足を進める。

 剣と盾の描かれた看板が目印のギルドに到着すると、早速掲示板に目を通していく。文字が読めなかったらどうしようかと思っていたが、何とこの世界の文字は日本語で書かれていた為心配は杞憂に終わった。

 テンプレってありがたいな。



「ん〜、やっぱコレかな……」



 選んだ依頼は『ゴブリンの討伐』だった。駆け出しの冒険者なのだから、初依頼はやはりここら辺が欠かせないだろう。ゴブリン1体討伐に対して小銀貨1枚、100セル(約1000円)というのも働き甲斐がありそうだ。

 依頼書を手にしてカウンターへと向かう。



「いらっしゃいませ。本日はどの依頼を受注なさいますか?」

「これでお願いします」



 ギルドカードと依頼書をカウンターに提示する。



「えっと、こちらの依頼はDランクです。ゼロさんはまだFランクなのですが、宜しいですか?」

「はい、問題無いです」

「畏まりました。では説明をさせて頂きます。」



 受付嬢の説明が始まった。

 依頼人はギルドから。この町、ゾルドを南に出て1時間程歩いた先にある森でゴブリンの目撃情報があったとの事。ゴブリンのような魔獣は放って置くと爆発的にその数を増やす事から、少なくとも10体は倒して来て欲しいそうだ。

 討伐部位はゴブリンの左耳。ギルドから麻袋を渡された。これにゴブリンの左耳を回収して来いとの事だろう。



「それではご武運を願っています」

「どうもです」



 ギルドを出て南門へと向かう。基本的にゾルドの町を出る際には検閲は何も無いようだ。ただ町に入る時には身分を証明しなければ入れないようだった。



「まぁのんびり行くとするか」



 これでもこっちは鬼オン時代最強と呼ばれたキャラクターの能力付きだ。そう簡単に死ぬ事は無いだろう。



「F3!」



 インベントリを開く。多くのアイテムの中にHP回復のポーションも多々ある。まぁ何とかなるだろう。

 そう考えながら南の森へと足を進めた。






   ※ ※ ※ ※   



 単純に結果から言おう。ゴブリンとの戦闘は楽勝だった。スキルである『二撃必殺』が出る暇すら無い。全てのゴブリンがアマテラスとスサノオの一撃に沈んだ。間違える事無く左耳の回収も行った。最初はグロかったが10体を超えた辺りからは慣れてしまったのか、何も感じなくなった。



「それにしても随分倒したな」



 30体までは数えていたが、そこから先は数えていない。後はギルドに戻り報酬を受け取る時に分かるだろう。



「さて、そろそろ帰るかな」



 日は真上まで上っているし、依頼の分は十分に狩っただろう。初仕事にしては上々の滑り出しのはずだ。満足しながら来た道を戻っていく。何のトラブルも無く依頼を達成出来た事は満足だが、何だか物足りないのも事実だ。これならギルドに戻った後、もう一仕事こなしてみようか?

 そう考えながら歩いていると、『気配感知』に数人が引っ掛かった。



「そこの藪の中……隠れているのはバレてるぞ。素直に出てきたらどうだ?」



 そう告げると渋々と言った表情を浮かべながら4人の男達が現れた。



「死にたくなかったら金目の物を置いていけ!」

「特に金目の物は持ち合わせていないんだが……何だ、お前等物取りか?」

「そうだ、大人しく従った方が利口な選択だぜ?」



 4人の男達は抜き身の剣をギラつかせながらそう告げてくる。



「ふむ……魔眼発動」



 スキル『魔眼』を発動させると4人の男達はビシリッと固まって動かなくなった。



「なっ!何をした!」

「何って……動きを封じ込めただけだけど?」

「くっ!」

「あぁ無理無理。俺の意志が無いと解除は不可能だから」



 実際は俺より格上の人なら解除(レジスト)出来るし、3時間も経てば効果は消えるだろう。魔眼の力も完全ではないのだ。だが俺はそう言って男達の横を通り抜ける。



「後で町の衛兵に告げておくから、それまで我慢するんだな」

「くそっ!覚えてやがれ!」

「はいはい、負け犬の遠吠えとして覚えておくよ」



 正直な所覚える気は無い。町に戻り衛兵に告げておけばそれで解決するのだから。



「さて、2回目の依頼は何にするかな」



 俺は意識を午後から受注する依頼に切り替え、町を目指して歩き進んだ。





   ※ ※ ※ ※   



「はい、ゴブリン73体の討伐を確認しました。こちらが報酬になります」



 町に戻った俺は早速衛兵に賊の事を報告し、ギルドへと戻ってきた。今回の報酬は銀貨7枚と小銀貨3枚、合計7300セルになった。日本円にして7万3000円程。駆け出し冒険者しては上出来じゃないだろうか。



「それにしてもかなり討伐して来ましたね」

「あぁ、1体倒すとその血の臭いに連れられたのかワラワラと集まって来ましたからね。討伐証明の左耳を集める方が苦労しましたよ」

「……ゼロさんはまだFランクだというのに前途有望のようですね」

「そうですかね?」

「そうです!これならCランクまであっという間に登り詰めそうです!」



 聞いた話によるとCランクで漸く1人前の冒険者として扱われるそうだ。ランクの上昇は依頼による規定のポイントを溜め、ギルド直々に指定した依頼を達成する事で上昇するそうな。



「しかし、これだけの数のゴブリンがいたとは……最近魔獣の発見報告が増えているみたいですし、何かあるのでしょうか?」

「さぁ?駆け出しの冒険者な俺にはさっぱりです」



 これが初依頼なんだから他の依頼状況なんて知る由もない。だが、魔獣が活発化しているだなんて何とテンプレ通りの展開なんだろうか?その内魔王登場とかしそうだな。



「さて、次は何を受けようかな……」



 報酬を受け取るとカウンターを離れ、再び依頼が張られている掲示板へと移動する。掲示板には所狭しと依頼書が張られている。その1つ1つを吟味し、次に受ける依頼を探すのだが、これと言って目に止まるような依頼は無かった。仕方無いと諦め、少々遅めの昼飯を食べる事にした。

 ギルドの2階は飲食出来るスペースとして解放されており、俺はここで食事をする事に決めた。



「ご注文は何になさいますか?」

「ん、お任せでお願いします」

「はい、それでは日替り定食でよろしいですか?」

「じゃあそれで」

「畏まりました。日替り定食1つでーす!」



 注文が終わると俺は周りに意識を向けた。奥の方ではまだ日が天辺に上った時間帯だというのに酒を酌み交わしている冒険者達がいる。彼等はいつ依頼をこなしているのだろうか?



「おいおい、いつからギルドは託児所になったんだ?」



 酒の匂いをプンプンさせながら1人の男が近寄って来る。何とテンプレな奴なんだ。



「坊主は帰って母ちゃんと遊んでな!」

「……臭い」

「はぁあ?」

「酒臭いから息を止めろって言ってるんだが?」

「テメェ喧嘩売ってんのか!」

「先に因縁を吹っ掛けて来たのはそっちだろ?それに俺はこれから昼飯だ。出来れば落ち着いて食べたいんだ。だから俺に構うな」

「良い度胸じゃねぇか……表に出やがれっ!」



 ホント何処までもテンプレな奴だな……仕方無い、軽くお灸を据えるとするか。


 ギルドの外に出ると既に見物人が集まっていた。そりゃあ抜き身の剣を持った男がギルドから出て来れば何事かと集まるわな。



「逃げ出すなら今の内だぞ!」

「はいはい、分かった分かった。それで?勝敗はどうやって決めるんだ?」

「勿論てめぇが降参するまでだっ!」



 そう告げながら剣を振り回して来る男。『神速』スキルから見れば隙だらけの攻撃だ。軽く左に避け、交差した瞬間に男の顎に掌底を1発叩き込み脳を揺らす。



「がっ!」



 ガクンッと膝から崩れ落ちる男。ふむ、これで勝負は決まっただろう。



「見世物じゃないんだ。さっさと散ってもらうとありがたいな」



 集まっていた傍観者達にそう告げ、俺はギルドの食事処へと戻った。



「お強いんですね」



 料理を運んできた給士の女性にそう言われた。



「あれは俺が強いって言うよりも相手が弱すぎだ」

「あの方はCランクの冒険者ですよ!?」

「あれでCか……本当に楽に登り詰めそうだな」



 鬼オンの能力からすれば、今の『(ゼロ)』の力はまだまだ氷山の一角に過ぎない。それでCランクの冒険者を圧倒出来るのなら、俺が本気を出したらどうなるんだろう?……試してみるか。


 日替り定食を平らげると俺は再び掲示板の前に立った。この中から1番クラスの高い依頼書を探し出す。



「これか」



 見付かったのは『岩竜の討伐』という物だった。どうやらゾルドから西に四半日程歩いた鉱石採掘場に岩竜が現れ、そのまま居座ってしまったらしい。採掘場は緊急閉鎖され、どうにもならずギルドに依頼を持ち込んだようだ。

 依頼書を剥ぎ取り受付嬢の下へと持っていく。



「……本気ですか?」

「勿論本気ですよ?」

「はぁ……良いですか!?岩竜は飛べはしませんが一応竜種です!その硬い外殻は並大抵の武器では傷1つ付けられませんよ!?」

「重々承知してます」

「ギルドが付けた依頼のランクはBランクです!Bランクの冒険者でさえ徒党を組んで挑んでも倒せるかどうかという依頼なんですよ!?」

「Cランク持ちならさっきそこでぶっ倒しました。それからすると、俺はCランク同等かそれ以上の強さを持っている事になりませんかね?」

「……分かりました。どうやら本気のようですね」

「勿論本気です。冗談や酔狂で竜なんか相手にしませんよ」



 まぁ称号に竜殺し(ドラゴンキラー)があるので何とも言えないが。



「……分かりました。それではこの依頼を受理します」

「お願いします」



 カードを提示して岩竜討伐の依頼を受理する。



「岩竜の換金部位は角と爪です。まぁ無理だとは思いますが、もし討伐が出来たのなら換金部位の剥ぎ取りを忘れないで下さいね?」

「了解です」



 さて、これでこの依頼は俺の物になったわけだ。目的地の鉱山までは徒歩で約四半日とある。行って戻ってくるだけで半日掛かるならさっさと出発した方が良いだろう。



「さて、少し急ぐかな」



 依頼は今日中に片付けておきたい。急がないとフラン家での晩飯の時間に間に合わなくなってしまう。居候の身として、それだけは注意しなければ。

 西門を通り衛兵の姿が見えなくなった所で俺は一旦キャラクターを変更した。



「F2!」



 タイプは魔法職(ソーサラー)を選択する。ソーサラーの見た目もメインのアサシンタイプと同様に銀髪をオールバックにして後ろで縛ってある。まぁ見た目で区別は付かないだろう。



「F1!」



 続いてキャラのステータスを表示する。



『氏名:ゼロ レベル400(EX)


称号:一騎当千

   大魔導士スペルマスター


ステータス

HP:25000

MP:50000

STR:500

DEX:4000

SPD:3000

INT:5000(EX)


装備

頭:鬼王の冠+10

胴体:宵闇のローブ+10

足:宵闇のブーツ+10

武器:理力の杖+10


獲得スキル

・キャラクターチェンジ

・詠唱破棄

・思考操作

・魔力吸収

・千里眼

・気配感知


祝福

魂の管理者』



 ステータスもきっちりと受け継いでいるようだ。これなら問題は無い。

 杖を使って地面に魔法陣を描く。これは転移用の魔法陣で、長距離を移動するなら必須魔法の1つだ。鬼オンの時代なら拠点地を設けてそこに飛べば良かったが、生憎とこの世界ではまだ拠点となる場所を設けていない。拠点の設置も今後の課題だな。

 魔法陣を描き切った後は再びキャラクターを変更しメインに戻る。



「さて、行くか」



 目指すは岩竜が住み着いた採掘場だ。俺は気持ち足早に、目的地へと急いだ。






   ※ ※ ※ ※   



 採掘場に到着したのは辺りが夕焼けに染まり出した頃だった。採掘場には分かりやすく岩竜の物と思われる足跡が残っている。1メートル以上あるそれは、岩竜の大きさも表している。恐らくは10トントラック程の大きさが推測出来る。



「普通の剣では傷付ける事さえ出来ない、か……」



 ギルドの受付嬢の言葉を思い出す。これでもアマテラスとスサノオは鬼オンでは最強クラスの武器だ。それに強化も+10とマックスまで強化してある。それでも効かないとなると、奥の手を出さざるをえないが……



「取り敢えずは戦ってみてからだな……」



 気持ちは鬼オンでボスモブと戦う前のような感覚だ。だが、現状はリアルである。敗北イコール死を意味する。軽く緊張しながら俺は採掘場の中へと入って行った。

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