岩竜討伐《2》
岩竜の足跡を頼りに採掘場の中を進んでいく。途中細い分かれ道もあったが、岩竜の体格を考えるとスルーして正解だろう。足跡も真っ直ぐに採掘場の奥へと進んで行っている。その足跡を追うように俺は採掘場の奥へと進んでいった。
開けた場所に出た。どうやらここが採掘場の最奥のようだ。しかし岩竜の姿は無い。
「藻抜けの殻、か?」
再度辺りを見渡してみても他の魔獣の気配すらしない。
「ここまで来てハズレって事は無いよな?」
誰かに言うでもなく呟く。再度辺りを見渡してみると、岩竜がこの場所に居座った理由が発見できた。
「卵、か……」
そこには5、6個の卵が鎮座していた。こんな所にあるという事は岩竜の物で間違いないだろう。つまり卵を孵化させる為にこの場所を選んだって事だ。
「此処じゃなく他所に住み着いたのなら孵化させる事も出来ただろうな」
卵を手に取り壁にぶつけて破壊する。第2、第3の岩竜が生まれ出ない為の対策だ。6個あった卵全てを叩き割る。親の岩竜には悪いが、被害は出る前に叩かなければ。
ズシンッ!
突如採掘場内に広がる振動。俺の気配感知にも反応があった。どうやらこの卵の親がやって来たようだ。
ズシンッ!!
徐々に振動が強くなる。その分近付いている証拠だ。背中の愛刀を抜き、これからくるであろう驚異に準備を整える。
「グオォォォォッ!」
大きな雄叫びと共に現れたのは予想よりも一回り大きく、体全体を岩石に包まれたドラゴン、岩竜だった。
大事な産卵場所にいる邪魔者に気付いたようで、こちらに対して強烈な殺気を放って来ている。
「……腐っても竜種、か」
視線だけで人を殺せそうな威圧感を放ち、1歩1歩こちらに近寄って来る。その動きは緩く、気を付けていれば攻撃に当たる事は無いだろう。
そう分析すると軽く震える足に活を入れ、一気に飛び出す。
「グオォォォォッ!」
「はぁぁぁっ!」
左右に体を動かし、フェイントを交えながら距離を詰める。先ずは小手調べである。硬いと評判の身に纏った岩石に、アマテラスとスサノオは通じるのか。それを確かめなければならない。スローな爪による攻撃を掻い潜り、零距離まで詰め寄る。逆手に構えたアマテラスとスサノオで左前足を斬り付ける。ギィンッ!ギィンッ!と音を立て岩石の鎧には斬り傷を付ける事が出来た。
「ちっ!」
アマテラスとスサノオなら岩石の鎧に斬り傷を付ける事が出来るのは分かった。
だが問題はその装甲の厚さだ。
二撃必殺の効果を待つには岩石の鎧の奥、本体にダメージを与えなければならない。だが鎧の厚さがそれを阻んでいる。何度か同じ箇所に攻撃を繰り返したが、その厚さによってダメージを与える事は出来なかった。
「出来ればこのままで倒したかったが……仕方無いっ!」
噛み付きを避けながらバックステップで距離を取る。
「F2!」
キャラクターチェンジを素早く済ませ、俺はソーサラーへと変わる。本気の戦闘モードに変わった為、溢れ出る魔力によって体がフワリと浮き上がった。スキルである詠唱破棄と思考操作により、俺の周りに無数の魔法陣が浮かび上がる。その数10個。その何れもが炎系中級魔法であるフレイムバーストである。
「セット!」
狙いを定め、一斉に射撃する。フレイムバーストは着弾すると弾け、岩石の鎧を砕いていく。
「セット!」
効果があるのが分かったら、後はゴリ押しするだけである。10個の魔法陣から次々とフレイムバーストを放っていく。距離を取りながら魔法を放つ俺は、言うなれば移動式砲台と言った所か。
鬼オンでの強さを存分に発揮しながら目の前の岩竜に視線を向ける。所々岩石の鎧に皹が入り、その装甲が剥がれてきている。あと少しと判断し、更にフレイムバーストを解き放っていく。
「ギャオォォォッ!」
遂に装甲が剥がれ、魔法が岩竜に直撃する。その瞬間、岩竜が雄叫びを上げた。魔法に対する耐性は低いのだろうか?
それを証明するかのようにフレイムバーストを食らい続けている岩竜は、身動きが取れないでいる。
「弱点が分かれば案外脆いもんだな」
恐らく今まで魔法をこれだけ連発出来る人がいなかったのだろう。これだけ如実に効果が現れるのに、Bランクの魔獣とは思えない。
「セット!」
岩竜の鎧は所々弾け飛んでおり、その身を露にしている。あと少し魔法を放ち続ければ討伐は完了するだろう。
そんな調子で魔法を放っていると、岩竜が口を開いた。最後の足掻きかと思っていると、咆哮と共に無数の岩石を吐き飛ばしてきた。
「ガアァァァッ!」
フレイムバーストと吐き出される岩石が相殺し合い、ダメージを与える事が出来なくなった。
「ちっ!」
やはり腐っても竜種。一筋縄ではいかないようだ。
だが、今の岩竜は身に纏っていた岩石が剥がれ落ちている。今ならソーサラータイプに頼る必要は無いだろう。
「F2!」
素早くメインキャラに戻ると、吐き出される岩石を避けながら距離を詰めていく。
零距離。俺の射程圏での戦い、スピードに自信がある俺に有利な戦闘に持ち込んだ。
「疾っ!」
素早く左右の四連撃を繰り出すと、岩竜の額に十字傷が2つ出来上がった。そこから岩竜の血が勢い良く飛び散る。
「血が赤い魔物もいるのか……」
午前に相手したゴブリンは血が紫色だったが、岩竜は深紅の血を垂れ流している。後はスキル、二撃必殺が発動するのを待つだけだ。
重厚な岩石の鎧が無くなったお陰で幾分か素早くなった岩竜だが、まだまだ神速スキルから見ればスローな動きだ。これなら十二分に戦える。振り下ろされる爪を掻い潜り、岩竜の腹の下へと潜り込む。そこは岩石が剥がれ落ち、岩竜の体が剥き出しになっていた。
「おらおらおらぁっ!」
スピードに任せてアマテラスとスサノオを振りまくる。正に乱舞と言った方が良いだろう。型など存在しない猛攻を仕掛ける。
十字傷が無数に浮かび上がった所で岩竜の体がビクンッ!と震えた。二撃必殺の効果が現れたのだろう。腹の下から抜け出し距離を取る。岩竜はゆっくりとその場に倒れ込んだ。
「念には念を入れて、と……」
頭頂部にアマテラスとスサノオを突き刺し、脳を破壊する。これで完全に息の根を止める。
「さて、討伐部位の剥ぎ取りだ。確か角と爪だったな……」
角はあれだけのフレイムバーストを受けていながらも傷は1つも付いていない。竜種の力の象徴なのだろう。慎重に根本から剥ぎ取る。爪も丁寧に剥ぎ取っていく。左右の爪、計8つの剥ぎ取りを完了するとインベントリに仕舞う。これで後は依頼達成の報告をするだけだ。
「後は……岩竜の鎧も少し剥ぎ取っていくかな」
まだ多少残っている岩竜の装甲を剥ぎ取っていく。硬いと評判の竜種の代物だ。上手く使えば何かしらの素材になるかも知れない。
「よしっ、エスケープ!」
岩竜から剥ぎ取りを終えると、拠点への帰還呪文を唱える。拠点の設置はしていないが、ここまでの道すがら、目印となる魔法陣は描いた。一瞬にしてそこまで転移する。
「帰還完了っと……」
辺りの気配を伺い誰もいない事を確認すると、地面に描いてある魔法陣を足で消す。これで後はギルドに帰って報告するだけだ。
「よしっ!」
全力とまではいかないが、何となく達成感は味わえた気がする。これならこれからは高ランクの依頼だけを受注してもいいかな?
少し歩くとゾルドの門が見えてくる。衛兵にギルドカードを提示して町に入る。俺は真っ直ぐにギルドへと向かった。
ギルドの報酬カウンターには依頼達成の報告をする人で列が出来ていた。俺もその列へと並ぶ。1組、また1組と捌けていき、俺の番が回ってきた。
「いらっしゃいませ。依頼の品とギルドカードをお願いします」
俺はインベントリから岩竜の角と爪を取り出し、ギルドカードを提示した。インベントリから角と爪を取り出した瞬間、辺りが騒がしくなったが気にしない。
「これはっ!……依頼であった岩竜の物ですね!?少々お待ち下さい!」
受付嬢は慌てて席を立ち、角と爪を持ってギルドの奥へと姿を消した。
暫く待っていると受付嬢は戻ってきた。
「岩竜の角と爪、本物と確認出来ました!こちらが報酬の金貨30枚になります!」
カウンターに金貨が入った小袋がドサッと置かれた。その瞬間周囲からおぉっ!と声が上がる。小袋を受け取り懐に仕舞う。苦労の対価として計算すれば、金貨30枚は若干貰いすぎな感じがするが、くれる物は貰っておこう。
「またのご利用をお待ちしています!」
「どうも」
受付嬢に一礼するとギルドの外へと出る。これで今日の仕事は終了だ。
「んーっ!」
背伸びをして全身の緊張を解す。ポキポキッと小気味良い音を鳴らし、次いで全身を弛緩させる。
「ふぅ……」
冒険者稼業の初日としては上々の滑り出しじゃないだろうか。これから受ける依頼のランクも粗方検討が付いた。これからも何とかやっていけそうだ。
詳しい時刻は分からないが、太陽は沈み始めている。これならフラン家での夕飯にも間に合うだろう。
「♪〜」
鼻唄混じりでフラン家へと戻る。フラン家の門前にはシュウトさんが立っていた。
「シュウトさん、お疲れさまです」
「ゼロさんこそ。冒険者初日はどうでしたか?」
「ん〜、ボチボチって所ですかね。また明日も依頼を受けるつもりです」
「駆け出しの冒険者に回される依頼は地味な物が多いですが、それに飽きないように頑張って下さい」
「地味な依頼ばかりじゃありませんでしたよ?依頼2件を受けて、それなりに稼ぐ事も出来ましたしね」
「それなりに、ですか?」
「はい。岩竜討伐の報酬って結構するんですね」
「岩竜と戦ったんですか!?」
「えぇまぁ。思っていたよりも倒し易かったです」
「……ゼロさんには驚かされてばかりですな」
神妙な表情を浮かべるシュウトさん。まぁFランクの駆け出し冒険者が岩竜と戦うなんて、普通の感覚なら無謀も良いとこだろうな。
「まぁこれからもガンガン依頼をこなしていくつもりですし、岩竜はその前哨戦みたいな物です」
「岩竜が前哨戦ですか……いやはや、人は見掛けによらない物です」
シュウトさんと軽く会話をしてフラン家に入る。取り敢えずあてがわれている自室に戻ろうと廊下を進むとリリーと出会した。
「今から夕飯ですと呼びに行くところでしたから、丁度良かったです」
「そっか。間に合って良かったよ」
取り敢えず装備を外しインベントリに仕舞うと食堂へと足を運ぶ。食堂ではカイゼルさんとリールさんが既に食事を始めていた。
「すいません、遅くなって」
「いやいや、冒険者として仕事をしてきたのですから遅くなって当然です。どうぞ気にせずに」
「はい」
席に着くと俺の分の料理が運ばれてきた。何の肉かは分からないが、今日はハンバーグがメインのようだ。
「それで、冒険者として仕事をしてみてどうでしたか?」
食事の頃合いを見計らってカイゼルさんが聞いてくる。やはり興味の対象になるか。
「そうですね……登録したてですから最下位のFランクからスタートしましたけど、そう苦には感じませんね。それに今日はBランクの依頼をこなしましたし」
「「「Bランク!?」」」
3人が3人とも驚いた表情を浮かべた。
「はい。丁度岩竜討伐の依頼が出ていたのでそれを受注しました」
「それで?」
「単身で採掘場に乗り込み、俺が生きてここにいるのが答ですね」
そう告げると3人は何とか納得したようだ。
「冒険者として仕事を始めて初日で岩竜を倒すとは……将来は有望ですな」
「まぁ偶々ですよ。岩竜だったから倒せただけかも知れませんしね」
過度な期待を抱かせる事の無いように、釘を刺すのも忘れないでおこう。誰が何と言おうと、まだFランクである事に変わりは無いのだ。出来る事は限られているのだから。
食事も終わり自室へと戻る。インベントリから装備を取り出し手入れをしていると、扉をコンコンとノックする音が聞こえた。
「はい、開いてますよ」
扉を開けて入ってきたのはリリーだった。
「お邪魔します」
愛剣の手入れを中断し、リリーに椅子に座るよう促す。俺はベッドに腰掛けたままだ。
「ゼロさん……無理はしていませんか?」
「無理?……あぁ岩竜の事か」
「はい……ゼロさんが強いのは分かりました。それでも岩竜に1人で挑むなんて無謀も良いとこです!」
「勝算はあったんだ。無理はしてないよ」
「それでもです!ゼロさんに何かあったら……そう思うと我慢出来ません!」
「そっか……ありがとな」
そう告げてリリーの頭を撫でる。前の世界では独りっ子だったが、妹ができるとこんな感じなんだろうか?
「無理はしないと約束するよ。それならリリーも安心だろ?」
「……絶対ですよ?」
「あぁ。約束する」
俺の言葉に安心したか、リリーは約束を取り付けると満足して部屋を出ていった。俺は途中だった愛剣の手入れを再開し、丁寧に磨き上げていった。
「……よしっ!」
キラリと輝きを取り戻した刀身を眺め満足する。
次いで取り掛かったのは防具の手入れだ。攻撃は一撃も食らっていないが返り血は浴びた。宵闇シリーズは返り血を浴びる事で防御力がアップしていく装備だが、磨いていくと輝きを取り戻していった。
丹念に満足のいくまで磨きあげる。元の輝きを取り戻した甲冑に満足すると装備の手入れは終了だ。
「ふぅ〜」
これで今日やるべき事は全て終了した。後は寝るだけだ。ベッドに横たわり瞼を閉じる。思い起こすのは今日討伐した岩竜との戦いだ。
ソーサラータイプでゴリ押しし、岩竜の装甲が破れたら二撃必殺を待つという、俺にしか出来ない戦闘手段を取ったが、キャラクターチェンジというスキルを上手く使った結果だろう。メインのアサシンタイプだけなら苦戦していただろうな。
「あれでBランクか……明日からは同じランクかAランクの依頼を受ける事にするか」
この世界ではまだ本気で戦っていない。キャラクターチェンジを生かせば、まだまだ強さを発揮出来るはずだ。
「……ワクワクしてきたな」
この世界に来てまだ日は浅いが、こんなにもリアルが充実するとは思ってもみなかった。
勿論冒険者として働く上で死とは隣り合わせだが、今の所戦闘で負ける気がしない。
「さっさと寝て明日に備えるか!」
電気の無い世界、夜は早い。部屋の灯りを消すと、そのまま睡魔に身を委ねた。




