悪役令嬢と聖女は、恋より友情を選びました
「オリヴィア様」
「はい?」
「私、ずっとお会いしたかったんです!」
王宮の庭園。
聖女リリアナは、キラキラした笑顔で悪役令嬢オリヴィアを見つめていた。
オリヴィアは警戒した。
(来た……!)
聖女。
皇太子クリストファーが想いを寄せている女。
本来なら、自分の婚約者を奪う恋敵。
そして、自分を破滅へ追いやるヒロイン。
「……私に何か?」
「お友達になってください!」
「…………はい?」
予想外すぎた。
「お友達です!」
「なぜ?」
「だって!」
リリアナは身を乗り出した。
「オリヴィア様、すごく楽しそうなんですもの!」
「……」
「皇太子殿下に『お前を愛することはない』って言われて」
「はい」
「普通なら泣くところですよね?」
「まあ、普通は」
「なのにオリヴィア様ったら!」
リリアナは楽しそうに笑った。
「『自由だー!』って叫んでました!」
「見てたんですか!?」
「窓から」
「最悪の場面を見られてる!」
「しかもそのあと契約書を書いてましたよね?」
「……」
「『相互不干渉・ATM契約書』」
「忘れてください」
「無理です」
リリアナは笑いながら言った。
「私、オリヴィア様のこと好きです」
「……え?」
「恋愛的な意味じゃなくて、友達として!」
オリヴィアは固まった。
「……私、悪役令嬢ですよ?」
「知ってます」
「高慢で、性格が悪いと言われています」
「でも私には優しいです」
「皇太子殿下の婚約者です」
「だから?」
「あなたは聖女ですよ?」
「だから?」
「……」
二人は顔を見合わせた。
「仲良くしちゃダメですか?」
「……」
オリヴィアは少し考えて。
「……お肉、食べます?」
「食べます!」
即答だった。
「では友達ですね」
「はい!」
「契約成立です」
「友情に契約書はいらないですよ!」
「必要です」
「いらないです!」
こうして。
悪役令嬢と聖女の友情が始まった。
---
翌週。
「リリアナ様! 新作のポテチがあります!」
「食べます!」
「この前いただいた聖女特製クッキーもあります!」
「交換しましょう!」
「最高です!」
「最高ですね!」
二人は仲良くお菓子を食べていた。
そこへクリストファーが来た。
「……何をしている」
「お茶会です」
「二人で?」
「はい!」
「……私も参加していいか?」
「ダメです」
「即答!?」
オリヴィアが真顔で言う。
「女同士の友情に皇太子は不要です」
「なぜだ!」
リリアナも頷く。
「殿下がいると話しにくいです」
「聖女まで!?」
二人は顔を見合わせる。
「ねー」
「ねー」
「仲良くなるな!」
クリストファーは頭を抱えた。
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さらに数週間後。
「オリヴィア様!」
「どうしました?」
「聞いてください!」
リリアナが泣きそうな顔で駆け込んできた。
「私、聖女だからって、みんな勝手に期待するんです!」
「……」
「清楚で、優しくて、いつも笑ってて、誰にでも平等でいろって!」
「わかります」
「え?」
「私も悪役令嬢だからって、勝手に『高慢で意地悪』だと思われています」
「……」
「人間なんですから、そんなに一種類じゃないですよね」
「オリヴィア様……!」
二人は固く手を握った。
「私たち、頑張りましょう!」
「はい!」
「聖女らしくなくても!」
「悪役令嬢らしくなくても!」
「好きなものを食べて!」
「好きなところへ行って!」
「好きな人たちと笑いましょう!」
「はい!」
その後ろで。
「……私は?」
クリストファーが寂しそうに立っていた。
オリヴィアとリリアナが同時に振り返る。
「「ATMは黙っててください」」
「私は皇太子だぞ!!」
王宮に、二人の笑い声が響いた。
――恋敵になるはずだった悪役令嬢と聖女。
けれど二人が選んだのは、恋愛ではなく。
一緒にお菓子を食べ、一緒に愚痴を言い、一緒に笑える最高の友情だった。




