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012

 それは昼休みのことだった。突然、有栖川から連絡があり俺たちは体育館裏に呼び出された。


 羽白と有栖川は既に集まっていた。

 二人とも微妙に距離をあけて立っている。

 そして、お互いが視界に入らないようにしているように見えた。

 俺たちが到着するまでどんな気まずい空気が流れていたのだろう……。


「おう、来たか」


 有栖川が俺たちに気づいて手を振った。


「弁当も食べないで来たんだぜ? 何の用だよ」

「それは、もちろん……俺たちの復讐についてだ」


 有栖川はにやりと口角を上げた。


「物騒なことを言いやがる……」

「前にも少し話したが……前世の俺はこの学校を退学した。あのクソ篠崎と色々あってな」


 それは知ってるけど……。


「断る」


 復讐だ? そんなことするわけないだろ。


「なんで!?」


 俺の返事に有栖川は心底驚いている様子だった。いや、受け入れるわけないだろうが。


「俺たちが復讐するメリットはないだろ」

「はぁあ? 人の体使っておいて何言ってんだ!」

「好きでこうなったわけじゃねぇよ!」


「……榊、お前は手伝うよな?」

「確かに、黒木の言う通りメリットはないな」

「いや! お前は俺だろ!?」

「かつてはそうだった。だが、今は違う」


 榊はわざとらしく髪をかき上げた。


「おい! 名言っぽく言ってんじゃねぇ!」


 有栖川は首を素早く羽白の方へ向けた。


「高井! お前は俺の気持ちわかるよな!? 俺の復讐に協力してくれれば俺もお前の復讐に協力するぜ?」

「ぼ、僕が!? 復讐!? し、しししないよ!」

「あぁ? なんでだよ! お前、自分の写真をば」


 羽白は手で有栖川の口を塞いだ。


「ちょっと! やめて! 言わないで!」


 有栖川はフガフガ言いながら必死で抵抗している。

 しかし、羽白は有栖川が落ち着くまで手を離さなかった。


 どうやら、腕っぷしは羽白の方が強いようだ。


「お前……あのこと言ってないのかよ」

「……黒木君たちには言わないで。ちゃんと、自分で話すから……いつか」


 あのことって、写真をばら撒こうとした件のことだろう。この世界では起こらなかったことだから、羽白は俺たちがその事件を知らないと思っている。


 ……まぁ、俺も榊も原作で読んだから知ってるんだけど。


「復讐はしないって……だったら、なんでお前もこの学校に来たんだよ」

「それは……」


 羽白は下を向いて口をつぐんだ。


 そういえば、俺も羽白が敢えて前世と同じ学校を選んだ理由を聞いていなかった。


「有栖川はなんで復讐したいんだ?」


 榊……知ってるくせにわざと聞いてるだろ。


「ここでは龍ヶ崎って呼べ! ……退学の原因はだな」


 有栖川は前世で退学に至った理由を語り始めた。


 久しぶりに登校した龍ヶ崎は、美少女たちに囲まれている篠崎を目撃する。そんな篠崎にイラついた龍ヶ崎は、彼をパシリにして数日こき使ったそうだ。

 ところが、その状況に耐えかねた篠崎が反発し、殴り合いの喧嘩に発展した。それから、龍ヶ崎は暴力事件を起こしたとして退学処分となった。


「お前らもむかつくだろ? あんな、パッとしないのがモテてるのは!」


 いや、コイツ……普通に嘘ついているじゃねえか。

 原作ではこうだ。星空の策略で龍ヶ崎は赤西に恋をするのだが、赤西の幼馴染である篠崎の存在が目障りになりパシリ扱いにする。しかし、それに反発した篠崎と殴り合いになりかける。龍ヶ崎が篠崎に殴りかかろうとしたとき、止めに入った赤西に龍ヶ崎の拳が当たってしまう。ちょうどその時、先生たちが駆けつけて、後日、龍ヶ崎は退学処分になったのだ。


「まぁ、気に食わないのは確かだな」

「榊!?」

「だって、断然俺の方がモテるだろ」

「榊……」


 まぁ、早瀬もイケメンとか言ってたしな……。


「それで、復讐って具体的にどうするんだ?」

「ふふふ、聞いて驚くな」


 有栖川はあざとく口を手のひらで隠した。とっさに可愛いと思ってしまった自分が許せない……。


「つまり、篠崎よりモテるやつを作ってアイツに俺と同じ悔しさを味わわせるんだ!」

「は?」

「高井、黒木。お前たちがそのモテる男子候補だ!」

「いやいや……バカか? お前」

「バカじゃない! いいか? この俺を見てみろ。可愛いだろ? 綺麗だろ? 撫でたいだろ?」

「はぁ」

「それに、高井だって美少女だ」

「ぼ、僕が!?」

「つまり、俺と高井がお前たちに惚れているようにみせれば、奴は絶対に悔しがる! 正直、ルックスだけで言えば、俺も高井も湖月や星空に勝っているからな!」


 発想がバカすぎる! しかし、自分の武器を弁えているのは……正直、想定外だった。


「それに、俺の影響力を舐めてもらっちゃ困るぜ? 俺がお前らに夢中だということが知れ渡れば、たちまち、お前らは学校中の人気者になるぜ? あの有栖川家のご令嬢を射止めた男子ってな!」


「……」


 榊もこれには開いた口が塞がらない様子だ。


「計画内容が凄すぎて言葉も出ねぇか。まぁ、それも仕方ない。俺はこの人生で学んだんだよ。強さは力だけじゃないってことをよ! 知恵、美貌、金! そのどれもが俺の強さになるのさ!」


「なぁ、有栖川」

「だから龍ヶ崎って呼べ!」

「お前はさっき、湖月たちよりも可愛いって言ってたけど、俺は赤西のほうが可愛いと思うな」

「へっ?」


 榊の一言で有栖川は急にたどたどしくなる。


「な、なななんでそんなこと急に言うんだよ」

「いや、だって篠崎ハーレムの中に赤西もいるし」

「いやいや、あの子は、ほら普通じゃん? なんか、別に嫉妬の対象にはならんでしょう?」

「俺は篠崎に嫉妬してるけど」


 更に榊が追い打ちをかける。


「は!? お前! 星空に告白したんじゃねぇのかよ!」

「それはそれとして」

「はああ!? ……あぁ、こんな時間か。とにかく! 俺の作戦は実行するからな! お前らが嫌がろうが無理やりでも教室に行ってやる! わかったな! それじゃ!」


 有栖川は顔を真っ赤にして走り去った。


 ……なんてわかりやすい反応なんだ。


「なぁ、榊……」

「ん?」


 俺は榊の肩に手を乗せた。


「それはそれとしちゃダメだぞ」



 俺たちも帰ろうとしたところ、羽白は暗い顔で俺たちを引き留めた。


「有栖川さんが言ってたこと……いつか、ちゃんと話すね」


 本当は知っているんだ。けれど、原作で読んだから知ってるなんて言えるわけがない。


「気長に待つさ」


 羽白と別れた後、俺は榊に今日の有栖川について聞いてみた。


「アイツの目的、絶対、赤西絡みだよな?」

「そうだな。多分、まだ好きなんだよ。赤西のこと」

「しかし、好きっつってもどうすんだろう」

「……どう気持ちと向き合えばいいのか。どう折り合いをつければいいのか……。まだ、ちゃんとわかってないんだろう」


 榊の言う通りだと思う。龍ヶ崎だって羽白と同じで、好きな人を傷つけてしまったことを今でも後悔している。そして、彼女への想いは転生した後もなお続いていたのだ。


 近くにいても何もすることができない。何をしたって龍ヶ崎として向き合うことなんてできない。

 そんな現実の中、少しでも前に進もうとしているのだろう。


 正解の道がわからなくても、足を止めることができないんだ。


 羽白も同じことを思っているのだろうか。


 彼女が湖月のいるこの学校へ来たのは、高井が与えた傷と高井が受けた傷を精算したいと思っているからなのだろうか。


「そういえば、お前の推しも赤西だったよな。黒木」

「まぁな」

「ライバル登場だな」

「お前みたいに真正面から告白なんてしないがな」


「それで、黒木。どうする? 有栖川の復讐劇」

「そうだな……。まぁ、少しくらいは付き合ってやってもいいか」

「ありがとう」

「なんで、お前が感謝するんだよ」

「そりゃあ、半分は俺だからな」


 少しくらいとは言ったものの、本音を言えば、今のアイツには前世のような結末をなぞってほしくない。

 だから、そうならないように全力で助けてやりたいと思っている。


 だって……道を踏み外しそうになったとき、引っ張り上げてくれる誰かが必要だろう。


 しかし、同時にこうも思う。

 

 助けてくれた誰かが、一緒に踏み外してしまったら、その罪悪感に耐えられるだろうかと。

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