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ワンダフルコネクト ~エミルとドラゴンのアドベンチャー~  作者: 稲葉トキオ
エピローグ エミル・スターリングと約束の旅立ち

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第265話 そのころとこれから

「ぐっ……! おのれ、スターリング姉妹め……こ、こんなはずでは……」


 中央広場から少し離れた路地裏にて――浄化魔法の影響で【バラタノオロチ】から吐き出されたマグニフが、必死に地べたを這っていました。


 服は泥と血で汚れ、全身には無数の擦り傷が走っています。ギルドを、ファーブリアの町を、裏から操っていた男の面影は、もはやどこにもありません。


「惨めったらありませんね。あれだけ粋がっていたというのに」


 そこへ、元上司であるギルドマスター・アンリが現れます。


「……私を……笑いに来たのか……?」


 マグニフは這いつくばったまま、ギロリとアンリをにらみつけました。


「その通りです。はっはっはっはっは」


 アンリはいつも通りの無表情のまま、棒読み感丸出しの笑い声をあげます。


「ふざけやがって……!」


 そう思うのも当然の態度でした。


「もちろん、それだけではありませんけどね」


 アンリは、つかつかとマグニフのもとへ歩み寄ります。


「貴方は、誰が手を下すまでもなく死罪は確定でしょう。それすら楽と思えるような酷い拷問を受け、全ての情報と知識を搾り尽くされた上でね」


「……っ!」


 冷たい目と声で淡々と恐ろしいことを語るアンリに、さすがのマグニフもおののいているようでした。


「出来れば、私がその役を担いたかったところなのですけれど……貴方を泳がせてしまった失態を犯した以上、任されることはないでしょう。王都へ引き渡され、最新鋭の魔法の実験台にでもされちゃうかもしれませんねえ」


「ひっ……」


 マグニフの顔が、みるみる青ざめていきます。


「だから……」


 ゴチーン!


 次の瞬間、アンリは思いっきり、這いつくばるマグニフの股間を蹴り上げました。


「ごぉっ――!?」


 カエルが潰れたような悲鳴をあげ、マグニフの体がびくんと跳ねます。


 そして悶絶したまま白目をむき、彼は今度こそ意識を失ってしまいました。


「……今のうちに、最大級の報復をさせて頂きます」


 アンリは満足げな顔を浮かべて白衣をひるがえし、中央広場へ戻っていくのでした。



 ☆ ☆ ☆



「くふぅ~! 最大級のキラキラだったねー、キラキラ……」『キュ~……』


 街はずれでは、筋骨隆々少女レイチェルとパートナーの【キンイロハネウサギ】・キラキラが、道ばたに大の字になって寝転がっていました。


 最大級のキラキラ――浄化魔法と女神の祝福の光に、すっかりうっとりとしていたようです。


 しかし、そんな満足げな表情とは裏腹に、彼女は全身汗びっしょりで、指一本動かす力も残っていません。


 くせっ毛の長い金髪ポニーテールはぼさぼさに乱れ、汗でしっとりと肌へ張りついています。むき出しの肩や腹筋には玉のような汗が浮かび、豊かな胸は荒い呼吸に合わせて大きく上下していました。


 だらしなく舌を出しながら笑う姿は、疲れ切っているのに妙に色っぽく、それでいて大型犬みたいな愛嬌がありました。


 それもそのはず。ファーブリアの町全体を浄化した、エミルとシロンの巨大魔法。その発動を支えた、町を囲む白い円――あの大規模な簡易魔法陣を描いた中心人物こそ、レイチェルだったのです。


 魔法陣というものは、描いている間じゅう、絶えずマナを消耗し続けます。


 体力自慢のレイチェルをもってしても、描けたのは全体の四分の一ほど。しかし残りは、あらかじめイザベルたちが描いていた線と、ほかの協力者たちによって補われ、ついに完成へと至ったのでした。


 また、イザベルから借りた暑苦しい黒マントのおかげで、イバラに捕らわれずに済んだのも幸運でした。


 戦いそのものには加われなかったことを、本人も少し悔しく思っています。


 それでも今回の作戦において、彼女が最大の功労者のひとりであることに疑いはありません。


 ぐぎゅるるるる……


「……あれ?」


 しかし、燃え尽きる時間すら与えないとばかりに――彼女のおなかから、すさまじい音が響くのでした……



 ☆ ☆ ☆



 それから、一夜明けて――


「おはようございます! エミルさん! シロン!」『キュー!』


「おはよう、エイミー、ユール」『おっはよー!』


 宿屋“子うさぎ亭”の食堂で、エイミーとユール、そしてエミルとシロンが朝のあいさつを交わします。


 窓から差し込む朝日が、昨夜の激戦が嘘だったかのように穏やかな空気を照らしていました。


「あれ? エイルさんは?」


「まだベッドの中。きのう、ほとんど寝てなかったみたいだから。でも、さすがにお昼前には起きると思うよ」


 神降ろしの儀が終わって解散したあと、みんな泥のように眠ってしまったため、くわしい事情は聞けずじまいでした。ですが、エイルは夕冠の神殿で別れたあと――まる一日、なにかを追いかけ続けていたようでした。


「そうですか。……その、ユーリさんは?」


 エイミーは、どこか照れくさそうにたずねました。


 それも当然です。きのう勢いあまって、ユーリに愛の告白をして――そして、みごとに玉砕してしまったのですから。


「ユーリもまだ寝てるよ。なにしろ、ゆうべはひと晩じゅう、何度もトイレに起きてたみたいだから」


 きのうユーリは、決闘でひん死の重傷を負っていたところを、イザベルの秘薬によって無理やり回復させられ、なんとか動いていた状態でした。


 しかし、その薬には後から、とんでもない下痢と嘔吐を引き起こすという副作用があったのです。つまりユーリは、ひと晩じゅう、そのツケを払っていたというわけでした。


「エミルちゃん! おっはよー!」『キュー!』


 ゆうべチェックインしたレイチェルとキラキラも、食堂へ降りてきました。どすんどすんと床を揺らしそうな勢いで駆け寄ってきます。


 くせっ毛金髪ポニーテールをぶんぶん揺らしながら、大きなリュックごと豪快に体をゆさぶるたび、むっちりした太ももや腕の筋肉が健康的に躍っていました。


 しかも朝からテンション全開なのか、満面の笑みでエミルたちへ思いっきり手を振っています。


 実はレイチェルも、ユーリと同じ秘薬を飲んでいたのですが――


「レイチェルは……元気そうだね」


 実際、ゆうべのユーリは顔面真っ青で、今にも死にそうな声をあげながらトイレへ駆け込んでいました。それを見ていたエミルとしては、同じ薬を飲んだはずなのに、朝からぴんぴん飛び回っているレイチェルが、もはや別の生き物に思えてきます。


 むしろ、タンクトップ越しでも分かるほど張りつめた筋肉と生命力が、「ちょっとおなかを壊したくらいじゃ止まらないよ!」と言っているようでした。


「うん! いっぱいスッキリしたから、いっぱい元気になっちゃった! あんなにすごいの出たの、はじめてだよ~! エミルちゃんにも、見せたかったな!」


 レイチェルはえへへーっと白い歯を見せながら、ばきばきに割れた腹筋を両手でさすります。そのたびに健康的な白い肌がつやりと汗ばんで光り、いかにも元気のかたまりといった雰囲気でした。


「べつに見たくないし、そういう話はしないで」


「それにここ、食堂なんですよ! TPOをわきまえてください!」


 エミルとエイミーは、そろってぴしゃりと言いました。


「えへへー」


 怒られているのに、レイチェルはどこかうれしそうです。むしろテンションが上がったのか、レイチェルはにへらーっとだらしなく笑いながら、たくましい肩でエミルへぐいぐい甘えるように寄ってきます。


 筋肉のついた大柄な体は迫力満点なのに、その表情は子どもみたいに無邪気そのものでした。


 しかも距離感が近いせいで、汗と太陽みたいな匂いがふわっと漂い、エミルは少しだけたじろぎます。


「エイミーも、元気そうでなにより」


 エミルはレイチェルを押しのけながら、ふっとやわらかくほほえみながら言いました。


「とーぜんです! あたしはエミルさんたちご姉妹みたいな、すごいウィザードになるって決めましたから! あんなことでへこたれてられません!」『キュー!』


 エイミーは大きく胸を張ります。ベレー帽の上で寝そべるユールも、「その意気だよ!」と言っているようでした。


 けれどそのようすには、無理やり元気を作っているような、ほんの少しの強がりも見え隠れしています。


 失恋の傷が、ひと晩で消えるはずもありません。


「そうだ、エミルさん! きょうの新聞、見てください!」


 エイミーは思い出したように新聞を取り出し、エミルへ見せつけました。


「『うわっ!?』」


 思わず驚きの声が漏れる内容でした。


 その一面記事には――


 “最年少マスターウィザード、エイル・スターリングの妹エミル、ファーブリアの町を救う! 新たな英雄伝説の幕開け!”


 ……という大見出しと共に、エミルの活躍ぶりや人々の称賛の声が、これでもかというほど書き並べられていたのです。


「どーです!? すごいですよね! エミルさん、もうすっかりこの国の大スターですよ!」


 エイミーは新聞の向こう側から、誇らしげに顔を輝かせていました。


「う……うん……すごいね……」


 対するエミルは、引きつった表情のまま固まっています。


 新聞記者たちのフットワークの軽さにも驚きましたし、一気に自分が、お姉さんに匹敵するほどの有名人になってしまったことに、頭が追いついていないようでした。


『むらのおとーさんとおかーさんも、きっとびっくりしてるね!』


 シロンはまったく気にしていないようすで、純粋にうれしそうです。


「まったくもってオドロキだよ。まっ、俺様のきらめきには劣るがね」


 テーブルで優雅にモーニングティーを飲んでいた男性も、さわやかに言いました。


 ……ん?


 だれだ、この人。


 あまりにも自然に会話へ入ってきたので、誰も疑問に思いませんでしたが……気づけば、見覚えのない男性がテーブルについていました。


 黄色い髪を後ろで結び、中分けした前髪を垂らした――なんというか、チャラそうなイケメン顔。


 白いファー付きコートの下には、これまた黄色く派手なスーツ。さらに右肩には、同じく黄色い小鳥を乗せています。


 全身から、「俺様を見ろ!」と言わんばかりのキラキラしたオーラを放っていました。


「「あーーーーーっ!!!」」


 エイミーとレイチェルが、驚愕の絶叫を重ねます。


 あまりの大声に、エミルとシロン、それにユールまでびくっと肩を震わせました。


 特にレイチェルの声は、とんでもない大音量でした。筋骨隆々の大きな体をのけぞらせ、豊かな胸をぶるんっと揺らしながら絶叫したせいで、食堂の窓ガラスまでびりびり震えています。


 それでも本人は興奮で目をキラキラさせており、まるであこがれのヒーローに会えた子どものようでした。


『し、しってるひとなの?』


 シロンは耳をふさぎながらたずねます。


「し、知ってるもなにも……!」


「マスターウィザードの一人、“世界最速の光星”――ランス・グランシャリオさんだよ!」


 エイミーとレイチェルの紹介を聞き、エミルとシロンも顔を見合わせ――そして一拍遅れて。


「『えええ~~~っ!!!』」


 食堂じゅうに響くほどの絶叫をあげるのでした。

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