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ワンダフルコネクト ~エミルとドラゴンのアドベンチャー~  作者: 稲葉トキオ
第4章 エミル・スターリングと新たな英雄の誕生

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第258話 私こそが天使さま

【白羊天使マルアリエル】――


 ふわふわとしたピンクの長い髪に、たれぎみの大きな緑のひとみ。丸みを帯びた幼い顔立ちに、全体的にむっちりとした豊満な体つき――その姿はアリエスとうりふたつ、いえ、上位互換ともいえるほどによく似ていました。そこにヒツジのツノと純白の翼を備えた、高位のワンダーです。


 実は彼女は、アリエスの家を代々守護してきた天使であり、アリエスが大好きだったお母さんが亡くなったとき、パートナー契約を受け継いだ存在でした。


 天使らしく、強大なチカラを持つ反面、ウィザードのマナを際限なく消耗してしまうため、長時間の顕現はできません。そんなピーキーな性質ながらも、その存在はアリエスをファーブリアの町でも指折りの実力者へと押し上げてくれました。


 けれどアリエスには、悩まない日はありませんでした。天使を長く呼び出しておけないこと、そのチカラを十分に引き出せていない自分の未熟さ――それらが、いつも胸に引っかかっていたのです。


 そんなとき、エミルと出会い、彼女は自分の中の弱さに気づきました。自分がどれほどもろく、ワンダーやまわりの人たちに頼り、助けられていたのかということに。


 その影響なのか、パートナーの痛みが伝わる"反動体質"に目覚めます。彼らがどれほど自分たちのためにがんばってくれていたのか、自分がどれほど彼らに痛い思いをさせていたのか――それにも気づかされたのです。


 そしてアリエスは考えました。パートナーたちのために、愛する人たちのために、自分にはなにができるのだろう、と。


 そう思ったとき、ふっと思い出したのは、ちょっぴり気になる年下の男の子――ユーリがくれた感謝の言葉と、やわらかなほほえみでした。それから、最愛の親友ベルディアが、いつも自分に向けてくれる笑顔のことも。


 アリエスは、ついに理解します。自分が持っている力の正体を。それはけっして敵を打ち倒すための強さではありません。相手の心と体に寄り添い、いやし、なごませ、あたためる――その豊満な体に見合った、やさしく大きな包容力だったのです。


 思えばそれもまた、亡きお母さんから受け継いだものでした。つらいとき、悲しいとき、弟や妹に隠れて、お母さんにそうしてもらってきたのですから。


「……天使さまっ!」


 アリエスはレイホースの馬上で、両手を大きくひろげました。その姿はまるで、天使アリエルをその身に受け入れるかのようです。


 頭上に浮かぶ天使アリエルがほほえむと、アリエスの体が両手を広げたまま、すーっと浮かび上がっていきました。


「アリー……?」


 彼女を背にしていたベルディアも振り向き、おどろきの声をもらします。


 宙に浮かんだアリエスは、天使アリエルと両手を取り合い、まるでダンスを踊るように空中で回りはじめました。


 うりふたつの顔同士が、鼻と鼻が触れ合うほどの距離で向かい合い、やさしくほほえみ合います。まるで親子のように、姉妹のように。


『アリエス……私はこのときを、ずっと待っていたよ。あなたがほんとうの意味で、私を求めてくれるときを……』


「私もです、天使さま。エキシビションのときのキズは、大丈夫ですか?」


 アリエルをエミルにあずけたあと、彼女が参戦した二大ギルドマスターとのエキシビションマッチ――そのときアリエルは、全身を焼かれ、さらに顔の半分をつぶされるほどの重傷を負いました。その痛みは、彼女とつながっていたアリエスにも、かすかに伝わっていたのです。


『だいじょうぶだよ。天使だもの。エミルちゃんだって、うまくやってくれていたしね』


 アリエルは指先で自分の左のほほをなぞり、やわらかな肌をくに、と軽く押してみせました。ついさっきまで大きな損傷を受けていたとは思えないほど、なめらかでつややかな頬が、ふんわりと戻ります。


 アリエスはそっとその頬に手を添え、指先で確かめるように触れました。あたたかく、やさしい感触に、胸の奥の緊張がほどけていきます。


「よかった……ほんとうに……」


 ほっとしたようにほほえむアリエスに、アリエルもいたずらっぽく目を細め、ふわりと身を寄せました。


「……あのとき、私はあなたを完全にエミルちゃんにゆずって、ウィザードをやめるつもりでした。……でも、いまはちがいます。私はもう、二度とあんなことは言いません。私の愛するものを守るため、これからもずっと、私に……チカラを貸してください!」


 アリエスのひとみには、うっすらと涙がにじんでいました。それでもその表情はまっすぐで、強く、決して揺らぎません。胸の前でぎゅっと手を握りしめると、豊かな体がわずかに震え、その想いの強さがそのまま伝わってきます。


『……うん』


 アリエルはやさしくうなずき、包み込むようなほほえみを向けました。そっとアリエスの手を取り直し、その指先に自分の指を絡めるように重ねます。


『もちろんよ。エミルちゃんといっしょも心地よかったけれど……やっぱり私にとってのいちばんは、あなたたち家族といることなんだって、私も気づけた! その中でも、アリエスがいちばん特別! だって、いままでの契約者の中で、あなたがいちばん、私とそっくりなんだもん!』


「ありがとうっ! うれしいっ! なら……さっそくやろう! 私たちの愛するもの、ぜーんぶ守っちゃうために!」


『そうだねっ! 私とあなたなら、できないことなんてない!』


 ふたりは見つめ合い、同じ想いを確かめるように、満開の笑顔を向け合いました。


 そしてふたりの体がまばゆい光を放ち、ふたつのシルエットがひとつに重なっていきます。


 同時に、バラタノオロチの紫の花弁から、毒々しいブレスが放たれ、ふたりへと襲いかかりました――!


「いけないっ!」


 レイホースを駆るベルディアが、思わず声をあげました。


 しかし――そのブレスは光に触れたとたん、霧のようにほどけ、かき消えていきました。


「えっ……」


 ベルディアは、ふし目がちな翡翠のひとみを大きく見開き、おどろきに息をのみます。


 やがて光がやわらかく弱まり、その中から姿をあらわしたのは――天使アリエル。けれど、その姿はどこかちがっていました。


 アリエスがそのまま成長したかのように、より長くなった髪と整った美貌。さらに豊満さを増した体つき。そして服装は――羊毛のようにもこもこした純白のチューブトップにミニスカート、同じ素材のエルボーグローブ、ブラウンのサンダルと、どこかふだんのアリエスに近いものへと変わっていました。


 そして――左肩から胸、脇腹にかけて残る深いツメのあとと、両の二の腕にくっきり刻まれた、つかまれてできたアザ。


 最愛の親友ベルディアは、それをひと目で見抜き、翡翠のひとみをうるませます。あれはまさに――アリエスと天使がひとつになった証。


 ふだんからアリエスを、自分にとっての天使だと思ってやまなかったベルディア。その彼女が、本物の天使として目の前に立っている――その事実に胸がいっぱいになり、涙があふれて止まりません。


「私こそが、この町を守護する愛の天使……アリエス・リテラチア! 悪い子はみーんな、私がおねんねさせてあげるっ!」


 天使と一体化したアリエスは、愛嬌たっぷりの笑顔と豊満な体をいっぱいに使い、彼女らしいキメポーズを決めました。


 腰に手を当て、ぐっと胸を張ると、ふわりと片足を上げて軽やかに体をひねります。その動きに合わせて、もこもことした衣装がふわりと揺れ、やわらかなラインが強調されました。


 にこっと大きく笑ったかと思えば、すぐにパチンとウインク。さらに肩をすくめて首をかしげると、全身を弾ませるようにぷりっとポーズを決めます。まるで「私のこと、見て見て!」と言わんばかりの、元気いっぱいで愛らしいキメポーズでした。


「あははっ! アリエスさん、今度こそ完全復活だね!」


 空を飛ぶシロンに抱えられているエミルも、心からうれしそうに笑顔を咲かせます。


「やっぱりアリエスさんって、ステキな人だな……」


 同じくクリスに抱えられているユーリも、どこか胸が高鳴るのを感じているようでした。


『守護天使……なら、せいぜいこの町を守ってみなさい!』


 マグニフが挑発的に叫ぶと、バラタノオロチの無数の花弁がいっせいに天へ向き――その口から黒い火の玉のようなものを次々と発射しました。


 火の玉は空中で大きくはじけると……無数の流星となって、ファーブリアの町じゅうへ降り注ぎます!


「いけません! あれでは……!」


 シムルグアゲハの背にエイミーとともに乗るアンリが、空をあおぎながら、わずかに焦りをにじませました。


「だいじょうぶ! ぜーんぶ私が守っちゃう!」


 天使となったアリエスが、パチンとウインクを決め、くるりと空中で一回転します。その一瞬、長いピンクの髪がふわりとひろがり、やわらかな香りが風に乗って漂います。同時に軽く腰をひねり、ちらりとこちらを見てほほえむその仕草は、誰もが見とれてしまうほどでした。


 そして両手をバッ! と大きくひろげると……上空に白い光の膜がひろがっていきました。それは広大なファーブリアの町全体を覆うほどの規模となり、まるで巨大な傘のように、降り注ぐ流星をやさしく弾き、消し去っていきます!


『なんですと……!?』


 マグニフが、驚愕の声を響かせました。


「悪い子は、ねんねしなさいっ!」


 アリエスはほっぺをふくらませて「むっ」と小さく顔をしかめると、「めっ!」と人差し指を突き出しました。その声はやさしいのに、しぐさはどこか小悪魔的で、いたずらっぽい可愛らしさにあふれています。


 そして、両手にやわらかな光を集めると、それをふんわりとすくい上げ、くちびるを小さくすぼめ、ふわりと胸を上下させながら息をため込み――まんまるなほっぺにつめこんで、ふうーっと吹きかけます。その仕草ひとつひとつがやわらかく、見ている者の心を自然と引きつけていました。


 光は綿毛のように舞い上がり……よく見ると、それはヒツジの毛のような形となって、バラタノオロチの巨大な体へとまとわりついていきました。


 すると、その動きはみるみる鈍くなり……まるで力を抜かれていくかのように、イバラの体がしなだれていきます。


『な……なんだこれは……体に……力が……入らない……?』


 バラタノオロチと一体化しているマグニフ自身にも、その異変ははっきりと伝わっているようでした。


「すごい……これがアリエルの……ううん、アリエスさんの、ほんとうのチカラ!」


 エミルは、胸を震わせながらつぶやきます。


 以前、危機をだれよりも察知できることがアリエスの才能だと伝えたことがありました。けれど――彼女の本当の才能は、それではありません。


 ふわふわとした髪、丸みを帯びた幼い顔、そして豊満な体に見合った――包容力と、やさしく大きな心。危機察知は、そこから生まれた副次的なチカラにすぎなかったのです。


 それはユーリも、エイミーも、そしてもちろんベルディアも、同じように感じていました。三人とも、アリエスの包み込むようなやさしさに、何度も心をいやされ、救われてきたのですから。


 空中にたたずむアリエスは、ふわりとひろがる髪、やさしく細められたひとみ、ほんのりと上気した頬――そのすべてが調和し、可憐さと大人びた美しさが同時にきらめいています。


 ゆったりとした仕草で髪をかき上げ、にっこりとほほえむその姿は、見る者の心をやさしく包み込むようで、見惚れずにはいられません。


 ファーブリアの最終決戦――天使となったアリエスの降臨によって、戦いの流れは、確実にこちらへとかたむきつつありました。

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