EP08.アリス
世界の軍事サイボーグ技術を牛耳るその巨大企業が裏で組織した『グライア』がついに世界征服の野望を果たさんと動き出した。
試作段階の特殊破壊兵器の実験も兼ねて、多くの兵器を着々と準備した彼らは、突如として我が国政府へ『北海道を無条件に譲渡せよ』と要求した上に、短期間の期限を切ってきた。
その要求を通すために人間の常識を遥かに超えた絶望の軍勢を北海道主要都市の全天を埋め尽くすように展開させた。
もちろん我が国は反対、北海道を軍事利用することを警戒する我が国の友好国も反対した。
だが軍事力を背景にしたグライアとの戦闘を行うことになれば、期限内にすでに主要都市に配置された兵器から人々を避難させることは不可能だった。
それほどまでに広い北海道・・・
グライアの狙いは独立国を作ることだと思われた。
一箇所あたりの戦力は以下であり、主要都市の上空への配備は終わっていた。
・ 自律型暗殺ドローン:数十万機
・ サイボーグ制御・無人超音速戦闘機:数千機
・AI制御自立型巡航ミサイル:数十万発
「我々に従え。拒絶すれば、この国が壊滅するほどの破壊を与えるだろう、そう、我が新兵器の実験場となるだろう」
譲渡しろと言っている期限内に譲渡すれば、北海道は彼らの手に渡るだけだ。
だが期限が来た場合、グライアから宣戦布告されるものと思われた。
それと同時に、最初に彼らの狂気の兵器群が北海道へ侵攻するだろう。
次に我が国の主要都市や軍事基地への攻撃の予測された。
敗戦と同時に北海道は譲渡対象であり、戦争への賠償金も出すことになるだろう。
今回明確に分かったのは、グライアは数カ国の連合国の軍隊と戦争をしても勝てるほどの軍事力を持っていることだった。
焦りもあったのだろうか、友好国の軍艦フォーミュライがボーダーラインを割ってしまった。
期限内警告ということだろうか、フォーミュライのみにグライア側の攻撃が始まった。
実はフォーミュライは最新攻撃兵器を搭載する戦艦だった。
攻撃を迎撃するために応戦を始めた。
「AI迎撃システム、迎撃開始!!」
フォーミュライの最高性能を誇る有人戦闘機スクランブル部隊、および最先端の迎撃ミサイル艦隊がただちに戦闘状態に入り、フォーミュライは最大の火力で応戦した。
しかし――最新兵器を搭載したフォーミュライであったが文字通り赤子のように蹂躙された。
「なんだ!? 敵の戦闘機、動きがおかしい! 機動力が非常識すぎる!」
「パイロットの肉体限界(G)を無視してやがる……! 旋回半径が通常機の10分の1だ、追いつけるわけがない!」
グライアの放った『サイボーグ制御戦闘機』――それは、サイボーグ化された人間の生体脳をコックピットのAIと直接融合させた、ある意味で生きたまま機械のパーツにされた狂気の兵器だった。
恐怖も、躊躇も、肉体の限界すらない。マシンの持つ100%の最高性能に、人間の「殺意の意思」が極限までシンクロしたそれは、空を舞う凶悪な悪魔そのものだった。
「だめだ! 到底、人間が乗って戦う有人兵器が、敵う相手じゃない……っ!」
防衛軍の最新鋭機が、次々と火を噴いて海へと撃墜されていく。
結局最新鋭感と言えどもあっさり沈没した。
「ふふふ、如何かな、君たちの最新鋭兵器など、こんなものだよ。
次は本土側の首都や主要都市でも攻撃しようか?それより要求を飲んだ方が簡単だとは思わないか?」
嘲笑うかのように最後通告をしてくるのだった。
北海道の主要都市に配置された数万のドローンのうち、数百の編隊となって本土へ向かった。
誰もが、国家崩壊するほどの兵器での脅しにこの国の終わりを確信した。
今回の事件が発生し、国家安全局は大変な荒れ模様となっていた。
「正気ですか、本部長! あんな『化け物』を現実の戦場に解き放つなんて、狂気の沙汰だ!確かに国を揺るがす事件ではあるが・・・」
「やめてくれ、彼女の脳波がネットワーク全体に逆流すれば、我が国の防衛システムはおろか、東日本すべての電子インフラが数秒で完全崩壊するぞ!」
ワイワイと会議は続いたが、対処方法はなかったためその案は了承された。
そして国家安全局からの連絡を受け警察機構では対応をすることになった。
警察機構の最高機密会議室。
モニターの向こうの政府高官や軍事学者たちが、顔を真っ青にして激昂していた。
彼らが恐れているもの――それは、特例対策室『NUE(鵺)』の最深部に君臨する少女、桜川有巣の本格投入だった。
「静粛に」
国家安全局の本部長が冷徹な声で一喝する。
「大丈夫だ、このために開発した彼女の力を制限できるシステムをな。
彼女の脳と現実世界を繋ぐ、新たな制御型多重拘束マシン――『リトルワールド』だ」
それは、巨大な球体型のカプセルに、無数の超伝導光ファイバーの「縛鎖」を絡みつかせた異様な装置だった。
アリスが仮想空間で発揮する「神の領域のマルチタスク処理能力」。そのま現実に繋げば世界が壊れる。ゆえに『リトルワールド』は、彼女の脳波に1万以上のプロテクトをかけ、その絶対的な力を【100分の1】にまで強制収束・拘束・制御するために作られた、いわば神殺しの檻だった。
「100分の1に抑え込んでなお、一国を滅ぼしうる。……だが、綺麗事を言っている猶予は我々にはない」
本部長が画面を切り替えると、そこに咲穂dの最悪の宣戦布告が映し出された。
その時。特例対策室『鵺』の司令室で、巣鴨課長は冷や汗を流しながら、藤堂本部長からの直通コマンドを入力していた。
「……本当に、やるのかよ・・・
アリスはまだ子供だぞ・・・」
巣鴨がマイクに向かって呼びかける。
「アリス、聞こえるか?」
地下の暗闇の中。拘束マシン『リトルワールド』の中心で、眠り続ける少女・アリスの睫毛がかすかに震えた。
『――ふふ。巣鴨課長、そんなに怖がらなくて大丈夫よ。アリスの眠りを妨げるお邪魔虫をちょっと退治するだけだから、すぐよ、すぐに帰ってくるから心配しないで』
アリスの脳波が、マシンの拘束具をパキパキと鳴らしながら『100分の1』の出力で現実にプラグインされた。
発進シーケンスが開始される。
『リトルワールドへのリモートアクセス開始を確認。
リトルワールド起動!!
浮上後発射ハッチ開口!!
ゆっくり全身願います』
『システム、展開。じゃあ、行ってきます。すぐに帰ってくるけどね。』
巣鴨は理解できない宝庫王に飛んでいったアリスの真意がわからなかった。
「本当に、不思議だ、来栖もそうだったがアリスも、どうやらネットを最大限に使えるようだ。
信じられないけどあの方角に何があるというのだろうか?
目的地はどこなんだ?
というかネットから相手の機器まで遡って、機器を乗っ取ってしまうなんてどうなっているんだ?
やっぱサイバーな世界に住んでいる奴らは違うということか?
じゃあレオンにもそんな芸当できるのかな?」
アリスのリトルワールドの到着地点は、東京湾上空であった。
その時リトルワールドに向い多数の飛行物体が飛来する。
その中のミサイルがリトルワールドに当たる。
いや当たっていない・・・
爆発することもなく、周りを明るく照らすライト。
その前まであった光源=ドローン、サイボーグ戦闘機、数万のミサイルの推進炎が、文字通り、一瞬ですべて「消灯」した。
「……え?」
レーダー監視員が間抜けな声を出す。
爆発すら起きなかった。
ただ、狂気のようにシンクロしていたグライアの全兵器の電子頭脳、生体脳、そしてミサイルの誘導チップが、アリスの超広域への攻撃により完全に、同時に「黙らされた」のだ。
それは電波ではない、なぜなら対ジャミングの処置をされた兵器であったから。
それでは何が起こったのか?
それは・・・アリスは針のような硬貨弾丸を発射していた。
そのコントロールはリトルワールドからアリスが電波ではない何かを使ったという。。。
全ての兵器の装甲の弱点を狙い、そして制御機器にのみ照準を当てた。
膨大な数と広範囲にばらけた機器全てを把握し破壊したというのだ。
アリスにとっては、こんなことは、100分の1の力であっても「まばたき」をする程度の作業に過ぎなかった。
推進力を失った数十万の鉄塊が、ただの無機質なゴミとなって、雨のように東京湾の海へとドボドボと落ちていく。
数分前まで国を滅ぼそうとしていた絶望の軍勢が、たった一瞬で、一発の銃弾も使われることなく虚無に帰された。
「な……なんだ、これは……」
司令室のモニターを見上げていた巣鴨は、全身の血が引いていくような衝撃に震えていた。
もはや、一国の軍事力すら遥かに凌駕する、絶対的な神の権能。
巣鴨はその力は聞いていたリトルワールドの力ではないような気がした。
もしこれがネットによるウイルスやジャミングでできるなら、それは来栖でもできそうなことだからだ。
「そういえば、アリスの能力は並列頭脳と並列計算能力と量子制御とかいっていた。
けど、リトルワールドの力とは違うな・・・
リトルワールドは有限の兵器を扱うというのが本筋だ・・・
今回確かに無数のピン(針状鋼弾丸)を使っただけだ」
「なにより恐ろしいのは、アリスの本当の力……。100分の1に抑え込んでこれなんだよな……」
巣鴨は、自分が預かってしまった『子供たち』のあまりの規格外の恐ろしさに、ただ驚愕し、立ち尽くしていた。
本人には捨てたと言ってある、本当の力を出せるマシンが、まだあることが恐ろしかった。




