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第百六十二話:盤上の外
薄暗い室内。
灯りは、一つ。
それだけで十分だった。
「……失敗か」
男が、静かに呟く。
アルトゥール。
その表情は、変わらない。
驚きも。
焦りもない。
「まぁ、いい」
一拍。
「元より、あれは捨て駒だ」
淡々と、言う。
事実として。
「……」
机の上には、いくつかの書簡。
そして。
簡素な地図。
指が、ゆっくりと動く。
ある一点で、止まる。
「アスティリア」
その名を、口にする。
軽く。
だが。
確実に、捉えている声音で。
「やはり、面白い」
わずかに、口元が歪む。
笑みとも言えない。
ただの、興味。
「レオナール」
一拍。
「いや」
言い直す。
「リディア・アルヴェーヌ」
正確に。
今の名で。
「……なるほど」
小さく、頷く。
何かが、繋がったように。
「確信した」
それだけだった。
だが。
十分だった。
「……ならば」
指が、再び動く。
今度は。
別の地点へ。
「次は、こちらだな」
静かに、決める。
迷いはない。
盤面は、見えている。
すべて。
その上で。
「さて」
一拍。
「どこまで抗える?」
問いは、誰にも向けられていない。
だが。
確かに、投げられていた。
遠く。
王都へと。




