第百六十一話:偽使
場の空気が、凍る。
グランディルの問いに。
使者は、答えない。
「……」
沈黙。
わずかに、呼吸が乱れる。
「ぐっ……」
言葉が、詰まる。
視線が、泳ぐ。
その一瞬で。
すべてが、十分だった。
「……衛兵」
グランディルの声が、落ちる。
冷たく。
迷いなく。
「この者を捕えよ」
一拍。
「伝達魔法の残滓が無いか、調べよ」
「「はっ!!」」
即座に動く。
距離が詰まる。
逃げ場はない。
「待て――」
言いかけた瞬間。
腕を取られる。
抵抗は、出来ない。
連行される。
そのまま。
扉の向こうへ。
音が、遠ざかる。
沈黙が、戻る。
「……」
誰も、すぐには口を開かない。
だが。
全員が理解していた。
あれは、使者ではない。
「……妙だとは思っていた」
グランディルが、静かに言う。
「早すぎる」
一拍。
「いかに友好国といえど」
「ここまで迅速に動けるはずがない」
事実を、並べる。
冷静に。
「つまり」
視線が、わずかに鋭くなる。
「事前に情報が流れていた」
断定だった。
逃げ場はない。
「……」
空気が、重く沈む。
外ではない。
内だ。
この国の中で。
誰かが。
動いている。
「……アルトゥール」
誰かが、名を呟く。
低く。
確信を含んで。
「……十中八九、あの男だろうな」
グランディルが、淡々と続ける。
怒りはない。
だが。
見逃しもしない。
「……」
場の空気が、変わる。
今度は。
敵が、はっきりと見えた。
外ではない。
内にいる。
しかも。
確実に。
こちらを見ている相手が。




