表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【二度目の政治は、恋に厳しい】〜宰相令嬢リディアの奮闘録〜  作者: 春野 清花
第七章 才覚証明編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

191/195

第百六十話:照会



 静かな時間だった。


 言葉にしていないものが、まだ残っている。


 あと一歩。


 踏み込めば届く距離。


 その時だった。


 扉が、叩かれる。


 控えめに。


 だが、はっきりと。


「……失礼いたします」


 侍従が、一歩踏み込む。


 その表情は、硬い。


「陛下」


 一拍。


「隣国ヴェルクスより、使者が到着しております」


 空気が、変わる。


 一瞬で。


「……通せ」


 グランディルが、短く言う。


 数秒後。


 扉が開く。


 現れるのは、整った装いの男。


 徽章は、見慣れぬもの。


 だが。


 格式は高い。


「アスティリア王、グランディル陛下」


 形式的な礼。


「ヴェルクス王国より、正式な照会を預かっております」


 差し出される、一通の書簡。


 逃げ場のない形で。


「……」


 グランディルが受け取る。


 開く。


 視線が走る。


 そして。


 止まる。


「……ほう」


 低く、呟く。


 その一言で、場の温度が下がる。


「読み上げよ」


 侍従が受け取る。


「――ヴェルクス王国は、貴国に対し照会する」


 一拍。


「帝国宰相レオナール・ヴァイスに類する知識及び思考を有する人物の所在について」


 沈黙。


 完全な。


「当該人物が存在する場合」


 一拍。


「国際均衡の観点より、身柄の引き渡し、もしくは共同管理を求める」


 言葉が、落ちる。


 冷たく。


 理屈だけで構成されたような文章。


「……」


 誰も、動かない。


 だが。


 全員が理解する。


 これは偶然ではない。


 知っている。


 誰かが。


 流したのだ。


 この情報を。


 リディアへと、視線が集まる。


 逃げ場はない。


 完全に。


 “対象”として。


 沈黙の中。


「……」


 ユリウスが、ゆっくりと前に出る。


 視線は、書簡へ。


 そして。


「……その国のやり方は、よく知っています」


 静かに、言う。


 感情は抑えている。


 だが。


 完全ではない。


 その一言に、重みが乗る。


「……ほう」


 使者の視線が、動く。


 ユリウスへ。


 観察するように。


「貴方は……」


 一拍。


「ヴァイスの血筋、ですか」


 空気が、さらに冷える。


「……確かに、私はその国で育ちました」


 ユリウスは、静かに言う。


「恩があることも、否定はいたしません」


 一拍。


 視線が、使者へ向く。


「ですが」


 わずかに、声が落ちる。


「それとこれとは、別です」


 はっきりと、言い切る。


 揺るがない。


「父上を差し出す理由にはなりません」


 空気が、張り詰める。


 完全に。


 線が、引かれた。


 沈黙が、張り詰める。


 ユリウスの言葉が、線を引いた。


 その上に。


 さらに、重ねるように。


「……ならば」


 アランが、一歩前に出る。


 迷いはない。


 もう、引かないと決めたからだ。


 視線は、使者へ。


 真正面から。


「王太子として、答える」


 その一言で。


 場の空気が変わる。


 個人ではない。


 国家の言葉になる。


「その要求は、受けられない」


 はっきりと、言い切る。


 迷いなく。


 揺るがず。


「……」


 使者が、わずかに目を細める。


 だが、アランは続ける。


「理由は二つ」


 一拍。


「第一に」


「当該人物は、我が国の貴族である」


 リディアへ、わずかに視線を向ける。


 それから戻す。


「よって、他国の要求により身柄を引き渡す義務はない」


 理で、断る。


 隙なく。


「第二に」


 一歩、踏み込む。


「彼女は“物”ではない」


 言葉が、落ちる。


 強く。


「共同管理などという発想自体」


「人としての尊厳を欠く」


 断言だった。


 揺るがない。


「……」


 空気が、静まる。


 だが。


 まだ終わらない。


「そして」


 一拍。


 視線が、さらに鋭くなる。


「それでも尚、求めるのであれば」


 低く。


 だが、明確に。


「それは外交ではなく、圧力だ」


 線を引く。


 はっきりと。


「我が国は、それに屈しない」


 言い切る。


 完全に。


 王太子として。


 その場に立っていた。


「……」


 沈黙。


 だが。


 今度のそれは。


 押し返した後の静けさだった。


 沈黙の中。


 グランディルが、ゆっくりと口を開く。


「……妙だな」


 低く、落ちる。


 その一言で。


 空気の質が変わる。


「……何が、でございますか」


 使者が問う。


 だが。


 グランディルは答えない。


 視線を、巡らせる。


 この場にいる者全員へ。


「この場で行われた会話は」


 一拍。


「極めて限定された者しか知らぬ」


 事実を、置く。


 静かに。


「にも関わらず」


 さらに続ける。


「貴国は“レオナールに類する存在”と」


「極めて正確に言い当てている」


 言葉が、落ちる。


 重く。


「……さて」


 一拍。


 視線が、使者に戻る。


「どこから、その情報を得た?」


 逃げ場のない問い。


 場が、凍る。


 今度は。


 別の意味で。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ