第百五十八話:父の背中、王の責
「……気のせいです」
即答だった。
グランディルは、しばらく無言で息子を見つめる。
それから。
小さく、息を吐いた。
「……まぁよい」
それ以上は追及しない。
意味がないと分かっているからだ。
「で」
一歩、踏み込む。
「どうするつもりだ」
問いは、短い。
だが、逃げ場はない。
「……どう、とは」
アランがわずかに眉を寄せる。
「分かっているだろう」
視線が鋭くなる。
「リディア嬢のことだ」
言葉が、落ちる。
重く。
「……」
アランは、沈黙する。
視線を逸らさない。
だが、すぐには答えない。
「……お前は」
グランディルが続ける。
「選ばせる立場ではない」
一拍。
「選ぶ立場だ」
静かに、言い切る。
「……」
その言葉が、刺さる。
逃げていた部分へ。
正確に。
「相手の出方を待つな」
「都合の良い結果を期待するな」
一歩、さらに近づく。
「王になる者が」
一拍。
「覚悟を他人に委ねるな」
断言だった。
完全に。
「……っ」
アランの表情が、わずかに歪む。
図星だった。
「……だが」
グランディルの声が、少しだけ落ちる。
硬さが、わずかに緩む。
「相手は、あのレオナールだ」
一拍。
「容易ではない」
事実として、認める。
だからこそ。
「だからこそ、だ」
視線が、まっすぐ向く。
「逃げるな」
短く。
だが、強く。
「……」
アランは、何も言わない。
言えない。
だが。
視線は、逸らさない。
「……父として言う」
グランディルが、静かに続ける。
「選べ」
一拍。
「後悔のない方を」
それだけだった。
余計な言葉は、ない。
「……」
そして。
「王として言う」
空気が、変わる。
再び、引き締まる。
「選んだ以上」
一拍。
「最後まで、貫け」
逃げ道は、ない。
「支えるな」
「並び立て」
重く、言い切る。
「出来ぬなら」
一瞬の間。
「最初から、手を出すな」
完全な沈黙。
言葉が、残る。
重く。
深く。
「……」
アランは、ゆっくりと息を吐く。
そして。
「……はい」
短く、答える。
それだけだった。
だが。
先ほどまでとは、違う。
迷いは、残っている。
それでも。
逃げてはいない。
その声だった。
「……よろしい」
グランディルが、わずかに頷く。
それで、十分だった。
扉の向こうには。
選ばれるのを待つのではなく。
選ばれるべき相手がいる。
あとは。
踏み出すだけだ。




