第百五十二話:受け止めるという選択
沈黙が、重く落ちる。
誰も、すぐには言葉を継げない。
その中で。
リディアは、ゆっくりと息を整える。
視線を、逸らさない。
逃げない。
もう、決めているから。
「……事実は、変わらない」
静かに、口を開く。
「レオナールは、殺された」
一拍。
「それを行ったのが、ヴァル」
言葉を、置く。
曖昧にしない。
誤魔化さない。
「……それでいい」
はっきりと、言い切る。
場が、揺れる。
「……は?」
アランの声が漏れる。
理解が追いつかない。
「……それでいい、とはどういう意味ですか」
ユリウスの声が、落ちる。
敬語は崩れない。
だが。
抑えきれていない。
明らかに。
「父上を殺した相手を」
一拍。
「受け入れると、おっしゃるのですか」
丁寧な言葉。
だが、その奥にあるものは怒りだった。
「……何故ですか」
問いは静かだ。
だが、重い。
逃げ場のない形で。
「……そのままの意味よ」
リディアは、変わらず答える。
揺れない。
「事実は、消えない」
一歩、踏み出す。
「だから」
一拍。
「消そうとしない」
まっすぐに。
言い切る。
「……」
ルカの視線が、鋭くなる。
だが。
止めない。
見ている。
その選択を。
「……私は」
リディアは続ける。
「その上で、選ぶ」
言葉が、静かに落ちる。
「……今のヴァルを」
一瞬だけ。
ヴァルに視線を向ける。
それから、戻す。
「信じる」
断言だった。
迷いは、ない。
「……っ」
ユリウスが、言葉を失う。
怒りと、理解できない感情が混ざる。
それでも、視線は逸らさない。
「……変わったからよ」
リディアは、短く答える。
それだけだった。
「過去は変わらない」
「でも」
一拍。
「人は、変わる」
静かに。
だが、強く。
言い切る。
「……」
ルカの視線が、わずかに揺れる。
その言葉に、引っかかるものがあった。
それでも、何も言わない。
「……だから」
リディアは、続ける。
「私は、過去ごと引き受ける」
逃げない。
切り離さない。
すべて含めて、そこに立つ。
「……それが」
一拍。
「私の選択よ」
言い切る。
静かに。
だが、揺るがず。
沈黙が、落ちる。
今度は。
否定ではない。
受け止めるかどうかを問う沈黙だった。




