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【二度目の政治は、恋に厳しい】〜宰相令嬢リディアの奮闘録〜  作者: 春野 清花
第七章 才覚証明編

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第百五十一話:告げられる過去


 空気が、張り詰める。


 先ほどまでのざわめきは、完全に消えていた。


「……で」


 ルカが、低く言う。


「説明してもらおうか」


 視線は、リディアではない。


 その背後へ向けられている。


「……出てこい」


 一拍。


 影が、揺れる。


 足音はない。


 だが。


 そこに、現れる。


 ヴァル。


 何も言わず、ただ立つ。


 感情は見えない。


「……」


 アランの目が細まる。


「お前が、護衛か」


 短く、問う。


「……そうだ」


 低く、答える。


「いつからだ」


 ルカが続ける。


「……契約時から」


 曖昧な言い方。


 だが、誤魔化してはいない。


「……一つ、聞く」


 ユリウスが一歩踏み出す。


「お前は、何者だ」


 静寂。


 ヴァルは答える。


「……殺し屋だ」


 その言葉が、落ちる。


 重く、静かに。


「……過去に」


 一拍。


「レオナールを、殺した」


 時間が、止まる。


「……は?」


 アランの声が漏れる。


 理解が追いつかない。


「……お前が?」


 ユリウスの声が落ちる。


 低く。


 震えを含んで。


「……そうだ」


 ヴァルは否定しない。


 逃げない。


 ただ事実を置く。


「……ふざけるな」


 ユリウスが踏み出す。


 抑えが効かない。


「……父上を」


 声が歪む。


「殺した奴が」


 さらに一歩。


「何で、今ここにいる」


 怒りだった。


 純粋な。


 理屈ではない。


「……説明しろ」


 ルカが、低く言う。


 その声は抑えられている。


 だが、完全ではない。


「……何故、生きている」


 視線が外れない。


 ヴァルから、逸らさない。


 その奥にあるのは、怒り。


 だが、それだけではない。


 もっと深い。


 個人的な。


 どうしようもない感情。


 奪われた側の、視線だった。


「……」


 ヴァルは沈黙する。


 わずかに、視線が動く。


 リディアへ。


 だが、すぐに戻す。


「……契約だ」


 短く言う。


「今は、守る側だ」


 それだけだった。


「……」


 納得できるはずがない。


 だが、それが事実だった。


 場の空気が、軋む。


「……リディア」


 アランが、初めて名を呼ぶ。


 戸惑いと、警戒と。


 わずかな恐れが混じる。


「……お前は」


 言葉を探す。


「知っていたのか」


 問いが、落ちる。


 逃げ場のない形で。


「……」


 リディアは、答えない。


 一瞬だけ、目を伏せる。


 それから。


 顔を上げる。


「……ええ」


 はっきりと。


 迷いなく。


「知っていたわ」


 その言葉が、すべてを決める。


 沈黙が、落ちる。


 今度は。


 完全に。


 逃げ場のない現実として。

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