第百五十話:知っている者、知らない者
「……待て」
アランが、一歩前に出る。
視線は鋭い。
先ほどまでの動揺はない。
「護衛、だと?」
低く、問う。
「影に入っているとは、どういう意味だ」
当然の疑問だった。
そのまま、踏み込もうとする。
だが。
「……なるほど」
横から、声が入る。
ルカだった。
アランの言葉を、遮るように。
「そういうことか」
納得したように、呟く。
「……何がだ」
アランが、眉を寄せる。
だが。
その問いには、ルカは答えない。
代わりに。
「最初から、か」
短く、言う。
リディアを見る。
その視線は、確認だ。
「……ええ」
リディアは、あっさりと頷く。
隠す気はない。
「……やはりな」
さらに、もう一人。
ユリウスが、口を開く。
わずかに、息を吐くように。
「気配がなさすぎた」
当然のように言う。
「普通ではないとは思っていたが」
一歩、踏み込む。
「そこまでとはな」
完全に、理解している側の声音だった。
「……おい」
アランの声が、わずかに強まる。
「説明しろ」
視線が、ルカとユリウスに向く。
だが。
二人とも。
リディアを見ている。
完全に。
アランを介していない。
「影に潜むタイプか」
ルカが、淡々と分析する。
「気配遮断、暗殺寄りだな」
「ええ」
ユリウスも、頷く。
「護衛というより、処理役だ」
「……」
アランが、口を開く。
だが。
言葉が、続かない。
会話の流れに、入れない。
「……おい」
もう一度、言う。
今度は、少しだけ強く。
だが。
届かない。
「配置はいつだ」
ルカが問う。
「……初めて会った時に」
リディアが答える。
「……は?」
アランが、固まる。
「……最初からか」
ユリウスが、わずかに目を細める。
「徹底しているな」
「必要だったもの」
リディアは、当然のように言う。
「……」
アランが、完全に取り残される。
理解が追いつかない。
情報が、足りない。
だが。
会話は、止まらない。
「主従関係は?」
ルカが問う。
「契約よ」
短く答える。
「……なるほど」
完全に、納得している。
「……おい」
三度目だった。
今度は、はっきりと。
「俺にも分かるように説明しろ」
だが。
返ってきたのは。
「後で」
リディアの一言だった。
あっさりと。
それだけで。
会話が、次に進む。
「……」
アランは、言葉を失う。
そのまま。
取り残されたまま。
立ち尽くしていた。




