第百四十九話:影の介入
試験が、終わる。
張り詰めていた空気が、ゆるやかにほどけていく。
評価は、まだ下されていない。
だが。
場の視線は、変わっていた。
「……」
リディアは、静かに息を吐く。
終わったわけではない。
だが、一つは越えた。
そう感じていた。
だからこそ。
気が緩んだ。
その、瞬間だった。
風が、切れる。
「――っ」
咄嗟に、身を引く。
だが。
遅い。
視界の端に、刃が映る。
届く。
そう、思った瞬間。
金属音が、弾ける。
鋭く。
強く。
「……?」
目の前で。
襲撃者の動きが、止まっている。
喉元に、刃。
押し当てられている。
いつの間にか。
そこに、あった。
気配は、ない。
最初から、そこにあったかのように。
「動くな」
低い声。
その響きに。
リディアだけが、反応する。
息を、吐く。
(……ああ)
思い出す。
当たり前のように。
ずっと、そこにあったものを。
「……ヴァル」
名前が、零れる。
自然に。
迷いなく。
襲撃者が、崩れ落ちる。
抵抗もなく。
そのまま、沈む。
静かに。
音もなく。
「……」
沈黙。
それから。
ざわめきが、爆発する。
「誰だ……!?」
「今のは……」
「どこから現れた……!?」
当然の反応だった。
誰も、認識していない。
そこにいたことすら。
「……」
アランの視線が、鋭くなる。
リディアと。
その背後。
見えない何かへ。
「……リディア」
低く、問う。
「今のは、誰だ」
答えは、一つだった。
「……ああ」
リディアは、少しだけ考えるように間を置いて。
「私の護衛」
あっさりと、言う。
それだけのことのように。
「……は?」
空気が、止まる。
「影に入ってるの」
補足する。
簡単に。
隠す様子もなく。
「……」
理解が、追いつかない。
当然だ。
「ずっと前から」
さらに、付け加える。
「守ってもらってる」
悪びれもなく。
当然の事実として。
そこに置く。
「……」
沈黙。
完全に。
思考が、止まる。
「……おい」
誰かが、呟く。
「そんな話、聞いてないぞ……」
その通りだった。
誰も、知らない。
知らされていない。
だが。
「……言ってないもの」
リディアは、さらりと言う。
それだけだった。
場の空気が。
完全に、別の意味で固まっていた。




