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【二度目の政治は、恋に厳しい】〜宰相令嬢リディアの奮闘録〜  作者: 春野 清花
第七章 才覚証明編

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第百四十八話:現実の使い方



 沈黙が、場を満たす。


 先ほどの言葉は、重いままだ。


「……」


 リディアは、ゆっくりと息を吸う。


 視線は逸らさない。


 そのまま、受け止める。


「ご指摘は、理解できます」


 静かに、言う。


 否定しない。


 最初から。


 ざわめきが、わずかに揺れる。


 予想外だったからだ。


「政治が現実を扱うものであること」


「感情や利害、伝統を無視できないこと」


 一つずつ、なぞる。


「すべて、その通りです」


 はっきりと。


 認める。


 場の空気が、変わる。


 反論が来ると思っていた場所に。


 肯定が落ちたからだ。


「……」


 貴族の目が、細まる。


 警戒。


「だからこそ」


 一拍。


「それらを、前提として扱う必要があります」


 言葉を、置く。


 静かに。


 だが、確実に。


「感情は排除すべきものではなく」


「制御すべきものです」


 ざわめきが、広がる。


「利害も同様です」


「存在する以上、無視するのではなく」


「構造として組み込むべきです」


 一歩、踏み出す。


「そして」


 一拍。


「伝統は」


「変化を拒む理由ではなく」


「変化を支える基盤となり得ます」


 空気が、止まる。


 誰も、口を挟まない。


「……」


 貴族の表情が、わずかに変わる。


 先ほどまでの確信が、揺らぐ。


「ご懸念の通り」


 続ける。


「私の立場は、不安定でしょう」


 自ら、認める。


「ですが」


 一拍。


「不安定であることは」


「欠陥ではありません」


 静かに。


「変化の余地がある、ということです」


 その言葉が、落ちる。


 重く。


 深く。


「……」


 場の誰もが、言葉を失う。


「現実を理由に排除するのではなく」


「現実を前提に設計する」


 まっすぐに、見る。


「それが、政治ではないでしょうか」


 問いではない。


 確認でもない。


 ただ、提示する。


 そのまま。


 答えとして。


 沈黙が、落ちる。


 今度は。


 完全に。


 試される側が、変わっていた。


 そのはずだった。


 だが。


 その空気の中で。


 一人だけ。


 違うものを見ている男がいた。


 アルトゥール。


 視線は、リディアに固定されている。


 動かない。


 だが、その奥で。


 何かが、軋む。


(……この小娘)


 表情は変えない。


 だが。


 思考は、激しく巡る。


(……言っていることが)


 一拍。


(……レオナールそのものではないか)


 確信だった。


 偶然ではない。


 類似でもない。


 “同じ”だ。


 かつて。


 自らが、排除した。


 あの男と。


 同じ思考。


 同じ結論。


 同じ危険性。


(……あり得ん)


 だが。


 目の前にある。


 否定できない。


 現実として。


 そこに立っている。


(……ならば)


 結論は、一つだった。


 静かに。


 指先が、わずかに動く。


 ほんの一瞬。


 気付く者は、いない。


 だが。


 離れた位置で。


 それを、見ている影があった。


 グレゴール。


 わずかに、目を細める。


 理解する。


 言葉は、いらない。


 それで、十分だった。


 ゆっくりと。


 わずかに、頷く。


 命令は、下された。


 ここではない。


 だが。


 確実に。


 終わらせるための。


 静かな合図が。


 交わされていた。


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