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【二度目の政治は、恋に厳しい】〜宰相令嬢リディアの奮闘録〜  作者: 春野 清花
第六章 理外之情編

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第百四十二話:今、ここで



 膝をついたまま。


 息が、うまく吸えない。


 ――私の想い人です。


 その言葉が、何度も反響する。


 胸の奥で。


(……逃げ場はない)


 分かっている。


 最初から。


 分かっていたのに。


 ここまで来るのが、遅かった。


「……」


 指先に、力が入る。


 床を掴むように。


(……このままなら)


 何も言わなければ。


 何も選ばなければ。


 終わる。


 きれいに。


 あの時と同じように。


 ――言えなかった。


 ――伝えなかった。


 ――間に合わなかった。


(……嫌だ)


 はっきりと、思う。


 あの後悔を。


 もう一度、なぞるのは。


(……もう)


 ゆっくりと、顔を上げる。


 視界が戻る。


 目の前に、アランがいる。


 青灰色の瞳が、こちらを見ている。


 逃げない。


 今度は。


「……リディア」


 戸惑いを含んだ声。


 それでも、離れない。


「……」


 呼吸を整える。


 一度。


 深く。


 それから。


 手をついて、立ち上がる。


 足は、震えている。


 それでも。


 止まらない。


 一歩。


 踏み出す。


 距離が、縮まる。


 視線が、重なる。


 逸らさない。


「……殿下」


 声は、少しだけ震えている。


 それでも。


 届く。


「……まだ」


 一拍。


「返事をしていません」


 場が、静まる。


 全ての視線が、集まる。


 だが。


 関係ない。


 今は。


「……今」


 息を吸う。


 逃げない。


 もう。


「――します」


 言葉が、落ちる。


 はっきりと。


 迷いなく。


 胸の奥が、熱い。


 それでも。


 目を逸らさない。


 青灰色を、見つめたまま。


 今度は。


 逃げなかった。

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