第百四十三話:言葉になるもの
静まり返る。
誰も、口を開かない。
視線だけが、集まる。
それでも。
もう、揺れない。
「……殿下」
呼ぶ。
まっすぐに。
青灰色の瞳が、こちらを見る。
「……私は」
一拍。
言葉を選ばない。
もう、選ばない。
「宰相になりたい」
最初に、それを置く。
逃げではない。
捨てないという宣言。
「それは、変わりません」
はっきりと。
揺るがない部分を、先に示す。
場の空気が、わずかに動く。
だが。
続ける。
「……だから」
息を吸う。
「貴方の隣に立つことが」
一瞬、言葉が詰まる。
それでも。
「正しい選択なのかは、分かりません」
正直に。
飾らずに。
そのまま。
伝える。
沈黙が落ちる。
だが。
今度は、逃げない。
「……でも」
視線を、逸らさない。
「分からないまま、終わるのは」
一拍。
「……嫌です」
胸の奥が、強く打つ。
言葉が、形になる。
「私は」
ゆっくりと。
「分からないものの方が、残ると知りました」
あの違い。
あの揺れ。
それを、そのまま。
「安心するものではなくて」
「……心が、動くものを」
選ぶ。
それが、怖くても。
それでも。
「……貴方の言葉が」
一拍。
「消えません」
はっきりと。
もう、否定しない。
「だから」
息を吸う。
これが、答え。
「……私は」
一歩、踏み出す。
距離を、詰める。
逃げない。
もう。
「貴方の隣に、立ちたい」
言い切る。
そのまま。
迷いなく。
静寂が、落ちる。
誰も、動かない。
ただ。
アランだけが。
わずかに、息を呑む。
その瞳が、揺れる。
初めて。
はっきりと。
感情が、溢れる。
そして。
そのまま。
リディアを、見つめたまま。
動けずにいた。




