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余命一年の無気力悪役令息なのに、ヤンデレ皇太子と天才たちが命の共有契約を迫ってくる  作者: 月夜 闇花


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第14話「悪役令息の幸福な終焉」

 日が落ち、空が深い藍色に染まる頃、三人は逃げるようにして離宮へと帰ってきた。

 重厚な扉が開かれると同時に、彼らがまとっていた英雄としての仮面は音を立てて崩れ落ちる。


「ああ、ルシル。君から離れている半日が、ひどく永遠のように感じられたよ」


 真っ先に歩み寄ってきたアルフレッドが、ルシルの手を取り、その手袋越しに自身の唇を押し当てた。

 彼の呼吸はわずかに乱れており、どれほど急いで戻ってきたのかが伝わってくる。

 アルフレッドは仕立ての良い式典用の軍服を乱暴に脱ぎ捨て、ただの一人の男としてルシルにすがりついた。


「群衆の視線などどうでもいい。俺はただ、君の顔が見たかった」


 ガレッドが兜を外し、赤銅色の髪を揺らしてルシルの傍らに片膝をついた。

 彼はルシルの膝の上に、式典で授与されたばかりの黄金の勲章をそっと置く。

 国からの最高の栄誉すら、彼にとってはルシルへの貢ぎ物の一つにすぎない。


「僕の魔法も、あんな愚鈍な民衆のために使うのはただの時間の無駄だ。君の体温を保つ魔石を調整するほうが、よほど意味がある」


 ノアは眼鏡を外し、疲れたようにルシルの肩へともたれかかった。

 式典の熱気など彼らの中には微塵も残っていない。

 ただ、ルシルの魔力と体温に触れることで、干からびた喉を潤すように安堵の息を吐いている。

 三方向から絡みつく重たい熱に、ルシルは静かに目を伏せた。

 かつては、彼らの存在が恐ろしく、息が詰まるように感じていた。

 しかし、命を共有し、彼らの感情の波に長く触れ続けるうちに、ルシルの心もまた確実に作り変えられていた。

 もう、この熱がない世界に戻ることはできない。

 誰からも愛されずに死んでいく運命だった自分が、彼らの狂気によってここまで生かされ、甘やかされている。

 それは、前世でどれほど望んでも手に入らなかった、重すぎるほどの愛情だった。

 ルシルは静かに手を伸ばし、肩にもたれかかるノアの灰色の髪を撫でた。

 次いで、膝をつくガレッドの頬に指先で触れ、最後にアルフレッドの大きな手を両手で包み込む。

 自ら彼らに触れるという初めての行動に、三人の動きがぴたりと止まった。


「……あなたたちは、本当にばかですね」


 ルシルの声は静かで、どこまでも穏やかだった。


「私のような悪役令息のために、英雄としての栄光も、自分自身の命も、すべて投げ出してしまうなんて」


 ルシルの言葉に、アルフレッドが青い瞳を揺らし、甘く囁く。


「君がいない栄光など、ただの灰と同じだ。君が生きているこの部屋だけが、私の世界のすべてだよ」


 ガレッドがルシルの指先に額をこすりつける。


「俺の剣は、君の命を守るためだけに存在する。それ以上の誇りなどない」


 ノアがルシルの体温を確かめるように、さらに体を密着させた。


「君の魔力回路と僕の命が繋がっていること以上の奇跡なんて、この世には存在しないんだ」


 三人の言葉には、一片の嘘もなかった。

 彼らはルシルを愛し、ルシルを縛り、ルシルに縛られている。

 ルシルは小さく顔をほころばせ、彼らの熱を全身で受け止めた。


「わかりました。……私はもう、どこへも行きません」


 その言葉は、彼らの魂に永遠の鎖をかける誓いだった。


「あなたたちの命が続く限り、私もこの鳥籠の中で、あなたたちとともに生きていきます」


 ルシルの静かな宣言に、三人の目に深い歓喜の光が灯る。

 もはや、ここから逃れることはできない。

 逃げる気すらない。

 アルフレッドがルシルの唇を塞ぎ、ガレッドがその手を強く握り、ノアが首筋に甘い印を刻む。

 三つの熱がルシルの体内で溶け合い、一つの巨大な奔流となって命を燃やし続ける。

 ルシルは彼らの腕の中に深く沈み込み、甘く温かい絶望と幸福の狭間で、静かに目を閉じた。

 彼らの異常な執着が織りなす物語は、ここに一つの終焉を迎える。

 それは乙女ゲームのヒロインが迎えるべき輝かしい結末とは違う。

 誰の目にも触れない密室で紡がれる、歪で、恐ろしいほどに甘やかな、悪役令息のための幸福な終焉だった。

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