神座
第99話です。
春宮を後にし、一行は秋宮へ。
そこで待っていたのは、これまで出会った神々とは少し雰囲気の違う存在でした。
今回もよろしくお願いします。
少しすっきりした表情を見て安堵していたのも束の間、次は秋宮に向かっていた。
澪が今までになく、積極的に手を引いて進んでいる。
初めての行動だったので、少し困惑した状態で手を引かれていた。
その様子を見ながら、静流と野乃花ちゃんは微笑みを浮かべている。
自分が困惑する様子は見たことがないと思うが、なぜか生暖かい微笑みを浮かべていた。
前回の移動の際に、来た道を戻るようなイメージとなってしまったので、今回は春宮から秋宮への移動も車で移動する。
秋宮の駐車場に車を停め、歩くことを想定して持ってきたボディバッグを肩にかける。
改めて秋宮を見て、事代主との邂逅が待っているのだと、肚に落とした。
山王台にかかる橋を渡り、境内のほうに進んでいく。
下調べをしているときに、ここに城があったことを知ったので、そこでの出来事に思いを馳せる。
もしかすると、物語にある女性武将とも逢えるのではないかと考えていたが、そういったことはなかった。
複数の小さな社があるので、それぞれにお参りをして、いのめ広場と絵馬回廊に向かう。
女性が好きそうな色恋の話も含まれているようだったが、自分としては魔除けと招福が目当てになっていた。
猪の目の石を見つけてという話なので、その謂れに合わせて探してみると確かに九つ見つけることができた。
内心、幸先がいいなと思いつつ、先に進み巨大な杉の木と遭遇する。
こちらに来てから、巨木との出会いが多いなという言葉が、何となく頭の中を過ぎった。
「諏訪大社って、大きな木が多いよね。」
「そうだな、何か理由があるんだろうか。」
「下社のほうはご神体だって情報を見た記憶があるけど、どうしてなんだろうね?」
静流にしては珍しく、最後まで情報を追いかけていないようだった。
というよりは、情報量が多すぎて、何が正しいかも検証できないような状況なのだろう。
自分も少し下調べをしてみたが、複数の情報があり、そのソースの正しさが分からなかった。
「ん-、神様が座ったりとかするんじゃないかなぁ。」
野乃花ちゃんが唐突によくわからないことを言った気がした。
ただ、よく考えてみると「神座」というやつがあるくらいなので、野乃花ちゃんの解釈も間違えていない気がする。
まして、ここは神社の類なので自然物崇拝が伝わっていても不思議ではないと思った。
いつもながら、彼女の言っていることは曖昧に聞こえるが、肝要なところは正しくついてくる。
「神座ってこと?」
「そんな感じ?仏壇とかで蓮に座ってる人いるよね~。」
「ダメだ、それ以上は帰ってから陽向に聞くぞ。」
野乃花ちゃんの想像が遠くに行きそうになったので、慌てて止めておいた。
改めて杉の木を見上げる。
その大きさもさることながら、長年この土地を見守ってきたんだなと、少しの間時が止まったような錯覚に陥る。
夜泣き封じのお守りという話もあるらしいので、知り合いに子供ができた時とかに、もう一度来てみようと思った。
目的地からは少し離れるのだが、千尋池という池があるようなので少し見に行くことにした。
少しくらいは水生生物がいると思うので、見ておきたかったのだ。
昆虫自体は苦手ではあるものの、水生生物については興味が勝ってしまう。
先ほどの杉の前から少し戻ると、すぐに千尋池に到着した。
池の中を覗いてみるのだが、光の加減もありいまいち中のほうまでは見えない。
ただ、波紋があるところを見ると、何らかの生物はいるのではないかと思われた。
水辺にトンボらしきものが飛んでいるのを目で追いかけていると、自分と同じように池を覗く野乃花ちゃんが見えた。
野乃花ちゃんの行動が不思議なのか、後ろから澪ものぞき込んでいる。
「何か見えるのか?」
「うん、中の人と目が合ったから、手を振ってるんだよ~。」
「中の…人?」
にこやかに手を振っているのだが、池の中に何かがいるようにも思えない。
というか、野乃花ちゃんの覗いてるところは、人が潜るにしては浅いのだ。
「さっきから、ずっと手を振ってるんですけど、私にも何も見えなくて…。」
澪まで困惑している。
比較的、付き合いも長く、キャラクター的にも似通った部分がある気がする二人なのだが、今回は分からない方らしい。
静流はいつものことと言わんがばかりに傍観している。
自分もそれに倣い、しばらく様子を見てみることにした。
「じゃあ、後でね~。」
そういうと、池を覗いている体勢から、すっくと立ちあがる。
いつもの調子でこっちに駆け寄ってきて、次の目的地へ向かおうとしている。
それよりも、先ほどのは何だったのか確認しておきたかった。
「今のは何が見えたんだ?」
「んー、後でわかるから、今は黙っててって言われたのー。だから内緒!」
「まぁ、後でわかるならいいんじゃない?」
野乃花ちゃんに情報を確認しようとすると、上手くはぐらかされてしまった。
静流も、後でわかるなら特に問題ないということで、それ以上質問する気はないようだった。
二人ともこの調子であれば、確認しても意味がないと思い、次の目的地に向かうことにした。
先ほど見た杉を越え、狛犬の前まで進む。
地元の神社などで見る狛犬と比べて、ずいぶん大きく見える。
それも、石でできているわけではなく、金属でできているようだった。
そして、その狛犬の向こう側に神楽殿が見える。
どうやら、重要文化財というやつらしいのだが、狛犬との距離感やバランスもあり、すごく美しく見える。
大しめ縄も大きくて、その形もきれいなものだった。
折角なのでということで、記念撮影を行うことにする。
「さあさあ、みんな並ぶよ。」
静流はこんな時も準備周到で、カバンの中に折り畳みの三脚らしきものを入れていた。
非常に頼りない造りではあるのだが、スマートフォンで写真を撮るのに十分な強度になっているらしい。
ちゃんとした一眼レフなども持っているのだろうが、今回は人数も少なかったので、そこまで準備していなかったのだろう。
スマートフォンのカメラアプリについているタイマー機能を使って撮影する。
内側に野乃花ちゃんと澪が立ち、その脇を静流と自分が挟む形で撮影する。
ひょんな形で、今回の旅行の中で初めての集合写真となった。
写真撮影後は、授与所でお土産になるものを探していた。
先日の上社、先ほどの春宮でも購入していたらしいのだが四社守というものが、それぞれの授与所で扱っているらしい。
この秋宮で購入したものでコンプリートだと、澪と野乃花ちゃんが嬉しそうにしていた。
そんな旅行気分も束の間、今回、主となる目的地のご神木前までたどり着いていた。
幣拝殿を通り、ご神木の前まで進んでいき、先ほど同様にご神木と対峙するような雰囲気になる。
通り過ぎた幣拝殿も文化財らしいが、その先のご神木から、やはりただならぬものを感じて幣拝殿の見物は後回しにした。
春宮、秋宮についてはご神木がご神体となっているらしく、ここにも何かがいるというのは感じていた。
「おじちゃん、ここまで来たよ!」
野乃花ちゃんがご神木に向かって語り始める。
それと同じくして、ご神木から水が流れ出し、まるで海上のような風景が広がっていく。
ここでも神様というのが、自らの居る場所に自分たちを誘い込んでくれたようだ。
野乃花ちゃんの視線の先を確認すると、髭面に釣竿を持った笑顔の男性が立っていた。
どこかで見たことのある姿である。
「嬢ちゃん、ちゃんと内緒にしてくれたんやね、助かったわ~。」
野乃花ちゃんがサムアップで応える。
男性も満足そうな笑顔で、野乃花ちゃんにサムアップを返してくれた。
「さて、ワシが紹介された事代主神いうもんや、よろしゅうな。」
関西弁の軽いノリで、笑顔をこちらに向けてくる事代主に拍子抜けしていた。
人懐っこい感じもあり、話しやすくもあるのは間違いない。
ただ、神様っぽい荘厳さというか、神々しさというものとはかけ離れたものだった。
陽向がいたら、話が弾んだだろうと思いつつ、今回は自分たちが話をするということを、自分の中で再確認した。
「さてと、もう一人の嬢ちゃんも、うちの嫁さんと話して色々実入りはあったか?」
「あ、はい、すごく身に沁みました。」
「せやったら、嫁さんも満足やと思うわ。また伝えとくな。」
先ほどの高志沼河姫命と澪が会話していたということは伝わっているようだった。
ただ、その詳細までは伝わっていないような口ぶりだった。
それにしても、親近感が湧く神様だなと、つくづく思わされた。
「まぁ、まずは嬢ちゃんと、榊の子と、話させてもうていいかの?」
「あ、ああ、自分は後で構わない。」
事代主から先に話をさせてほしいと切り出されてしまい、断る感じでもないので、先鋒を静流に任せることにした。
「さて、ワシの知ってることも色々教えていこかのぅ。」
事代主は、鯛をモチーフにしたような座布団に座り、話を始めようとこちらの様子をうかがっていた。
—— 親近感たっぷりの神様、彼の言葉はたやすく若者の心に染み入ろうとしていた。
最後までお読みいただき、ありがとうございます。
今回は秋宮を巡りながら、事代主神との出会いまでのお話でした。
建御名方神、高志沼河姫命と続いてきましたが、今回はずいぶん親しみやすい神様になりました。
そして、何やら先に仲良くなっていた野乃花。
彼女が何を見て、何を感じているのかも、少しずつ描いていければと思います。
次回はいよいよ事代主神との対話へ。
そして気が付けば、次で第100話です。
引き続きお付き合いいただければ嬉しいです。




