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役目

ついに100話となりました!


とはいえ、物語としては特に区切りでもなく、いつも通りのお話です(笑)

今回は事代主神との対話、それぞれが持つ「役目」についてのお話となります。


それでは、第100話「役目」をどうぞ。

何度見ても、気のいい近所のオジサンにしか見えない神様だ。

それこそ、防波堤で釣りをしているところを通りかかったら、世間話が始まりそうなくらい。

話もしやすそうで、あまり緊張しないので、みんなこれくらいであってほしいと思う。


事代主は先に静流や野乃花ちゃんに話を振るのかと思いきや、最初に澪に話しかけた。


「なぁ、お嬢ちゃんは神代に並びたいと思うてるんか?」

「はい、隣にありたいと。」


先ほどの高志沼河姫命との話があったからか、澪がはっきりと言葉にしていた。

だが、事代主は顎髭に手を当て、少し考えこんでいる。

しばらくして、パッと顔を上げると、澪に答えた。


「お嬢ちゃんは、並ぶ必要はないんちゃうか。」

「え…?」


事代主の妻である高志沼河姫命の言葉は、澪の経験が道を拓くといったものだった。

だが、今度は、その道を拓く必要がないと言われている。

澪が混乱しているのは明らかだった。


「あいや、否定してるんちゃうんや。並ぶことが全てやないでって話なんよ。」


事代主は、一息つくと言葉を続ける。


「支えるのに並び立つ言うんは、支えられなくなることもある。そいつをよく考えたって。」


何となくだが言いたいことは分かる気がした。

並び立つということは、バックアップ要員として控えるということとは違う方向性になる。

事代主が言っているのは、恐らく、澪が必要とされているのは、そこではないということを伝えたいのだろう。

言葉選びも不器用で、でも一生懸命に相手のことを考えてくれる。

そういった様子が、さらにこの神様の魅力を輝かせて見えた。


相変わらず澪のほうは混乱している様子ではあったが、事代主の言葉を聞いて、少しだけ落ち着いていた。

支えることを否定されているわけではなく、支える方法の話をされているということが分かったからだろう。

澪は考え込んだままではあるが、事代主は申し訳なさそうだが、納得したような表情をしていた。


その様子を見ていた静流が前に進んでくる。

事代主もその様子を見て、話す先を静流に切り替えたようだった。


「榊の子も元気そうやなぁ。」

「お陰様で…、どこかでお会いしましたっけ?」

「いやいや、嫁さんと話してる時の様子見てたんよ。」


事代主は冗談めかして笑って見せた。

恐らくは高志沼河姫命と話していた時のことを伝え聞いたのだろう。

話をするたびに、この神様は近所のオジサンではないかと何度も思ってしまった。


「建御名方神に歴代と会わせてもうたんやろ?」

「ええ、この土地のことも、僕自身のことも色々教えてもらいました。」

「ワシはそんな器用やないから、知ってることを教えたろうと思ってるねん。」


先ほどの鯛の座布団に胡坐をかいて、話の準備をする。

その釣り竿も飾りではなかったようで、色々な魚の刺身と、暖かいお茶を出してくれた。

どこから出てきたのか、ちゃぶ台のようなものを挟んで対面するような形になっていた。


「これくらいの方が、話しやすくてええんよ。」


自分と静流以外、野乃花ちゃんと澪の分もお茶を出してくれ、五人でちゃぶ台を囲う形になる。

野乃花ちゃんは遠慮なく、出されたお茶をすすっている。

その雰囲気とは異なり、いい感じに音を立てながらすすっていた。

その様子をにこやかに眺めている事代主に、静流のほうから質問を始めた。


「僕の場合は、境や陽向みたいな力はないんですが、どうやって力になればいいんでしょうか?」


手にしていたお茶をちゃぶ台に置き、一息ついてから話始める。

若干呆れているようにも見えるのが少し気になった。


「榊の家は観測の家系やってのは聞いたんやんな?」

「はい、そこは認識しています。」

「観測するモンが、前線に出ると思う?」

「あ…、確かにそうですね。」


事代主は、それは当然でしょうにといった感じで説明してくれた。

それを聞いた静流も、確かにそれは当然だといった感じで受け入れることができたようだ。

らしくない質問ではあるが、恐らくは澪をフォローする意味の質問だったのだろう。

静流のやり取りを見ていた澪が、少しだけ元気になったように見えた。


「建御名方神は、悪意のような何かが侵入してきたことがあるって言ってましたが、何か覚えがありませんか?」

「せやなぁ、確かにそんなんがおったのは覚えてる。」


湯呑の中が空になっていたので、澪が近くにあった急須でお代わりを入れる。

事代主は軽く礼を言うと、お茶を一口含み、しばらく目を閉じてから答える。


「榊の方でも観測してたんやないんか?」

「はい、ですが、それが何か確定させるには至らなかったようで。」

「せやなぁ…、正しく観測できんのやなくて、観測方法が不足してるんちゃうか?」


不足というのは少し難しい表現だった。

方法が不足するというのはどういうことなのか、ひとまず尋ねるほうが良いのではないかと思っていた。

だが、静流はその続きを聞き出すのではなく、話題を切り替えることを選んだ。

方法が不足するというところに限れば、今考えても仕方なく、持ち戻って検討するほうが良いだろう。

三人寄れば文殊の知恵というやつだ。


「事代主神から見て、この諏訪というのはどう見えるんでしょうか?」

「せやなぁ…幾度とない変遷を見てきた場所、人の世に翻弄された自然の街という感じやと思うわ。」

「翻弄…ですか?」


幾度とない領主の変化、戦に巻き込まれ、政争にも巻き込まれてきた土地がこの諏訪だということだった。

それは、人の世の移り変わりに翻弄されたといってもいいだろう。

事代主は穏やかな微笑みの中に、少しだけ悲しそうな、寂しそうな感じが見えた。

この土地を愛する神として、穏やかな時間だけでないことは分かっていても、争いに巻き込まれるのはつらいのだろう。

その穏やかな微笑みを浮かべる顔の裏には、複雑な心中があることを物語っていた。


「さて、最後のもう一人の嬢ちゃんやね。」

「うん、よろしくね~。」


事代主の顔が、いっそうほころんだ。

こんなに人懐っこい雰囲気を醸し出している野乃花ちゃんが、無邪気に挨拶してきた。

それを見て、思わず笑顔が零れない男性はいないのではないかと思った。


「嬢ちゃんは、本質っちゅうんが何かわかるか?」

「うーん、分かるような、分からないような…。」

「嬢ちゃんの目は、その本質っちゅうんを探すのが上手なんやな。」


野乃花ちゃんは少しだけ不思議そうにしていたが、褒められているのだけは分かったのか、にこやかに返事をしていた。

そう、言われてみれば、確かに野乃花ちゃんは途中をスキップするか三段飛ばしするかして、本質を見つけるのが得意だ。

流石にそれを段階的に説明するのは難しそうだが、最初から本質が分かっていて、そこまでの経路を作るイメージだ。

自分もそれに近いことをしていると言われていはいるが、野乃花ちゃんとプロセスは違いそうな気がしていた。

証拠に、野乃花ちゃんも自分の言う、最初からゴールにいるような会話にはついてこれないことがあった。


しばらく会話をしていると、事代主が立ち上がって、近くにあったお守りのようなものを取り出した。

授与所などでもらうものとはわけが違う。神様から直接いただけるのだと、少し緊張していた。

澪と野乃花ちゃんにそのお守りを渡す。

ご利益のほどはまだこれからだが、二人とも財布の中など、なくさないところに収納していた。


「さて、神代のは特別製なんやてな。」


そういわれて、色々なところで際物扱いされるのは分かっていたが、今回はどんな話をされるのか気になってきた。

折角、お茶にちゃぶ台もあるので、ゆっくりと会話できるなと思い、腰を落ちつかせることにした。

事代主もお茶を入れ替えているくらいなので、話の内容は長くなるだろうことは、間違いないと思った。


—— それぞれの在り方を示した神は、最後に自分へと視線を向けていた。


第100話、お読みいただきありがとうございます!


気が付けば100話となりました。

ここまで続くとは、書き始めた頃には思っていなかった気がします(笑)


今回は事代主神との対話を通して、澪、静流、野乃花、それぞれの在り方が少し見えてきました。


そして最後に残ったのは境。


「特別製」とまで言われてしまった神代境について、事代主神は何を語るのでしょうか。


次回もよろしくお願いいたします!

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