変遷
諏訪で迎えた、少し穏やかな一日。
神々の話から少し離れて、四人は現在の諏訪を見て回ることにしました。
まず向かったのは、長い歴史の中で様々な変化を見てきた高島城です。
静流の持ってきた映画の約三割を見終えた次の日は、自分と静流がリビングで寝こけていた。
ソファの座り心地が良すぎ、床に置くタイプの、人をダメにするクッションの寝心地が良すぎたからだ。
などと、新しい家具のせいにしてみるが、結局のところは事務所でやってることと同じだなと思った。
今日は澪と野乃花ちゃんは先に起きていたらしく、ダイニングテーブルで紅茶を嗜んでいた。
二人ともミルクを入れているあたり、女の子らしい可愛いところだなと和んでしまった。
会話しているのかと思いきや、スマートフォンを片手にしているところを見ると、何かを調べているようだ。
せっかく目が覚めたので、少し尋ねてみることにする。
「おはよう、何を調べてるんだ?」
「あ、おはようございます。今日のルートを少し…。」
「観光スポットがいっぱいだよ~。」
二人とも近くの観光スポットを調べて相談していたようだった。
八剱神社については、祭事の話を調べに行ってみようと思っていたが、それ以外については考えていなかった。
昨日の話ぶりからして、静流も何か思うところがあるだろうから、静流の意見も聞いておきたい。
「静流くん、古い建物好きだから、お城に行ってみるといいと思うんだよね~。」
「調べてみたら、高島城ってお城があるみたいなんです。」
澪が調べているスマートフォンの画面をこちらに見せてきた。
色々と歴史、栄枯盛衰があった場所のようで、静流の好きな場所だろうことはわかった。
「とりあえず、この高島城から行ってみるか。そこから八剱神社に行こうと思う。」
「八剱神社ですか?」
「御渡神事というのがあるから、それを調べにな。」
今は夏なので神事が行われる時期ではないが、神社のほうに行けば、色々な話を聞けると思ったからだ。
先日の建御名方神のこともあったので、縁の深い神事くらいはちゃんと調べておこうと思う。
澪と野乃花ちゃんはルートの続きに何があるか調べ始めたようだった。
下社については明日にでも行く予定なので、それ以外のところを頑張って探している。
そうこうしているうちに、静流を起こしておくことにした。
「ああ、境か…。」
まだ寝ぼけたままの静流を促して、今日の予定を簡単に説明する。
とはいっても、午前中に回りたい高島城と八剱神社くらいではあるが。
予定を聞いている静流の雰囲気が途中から少しソワソワしている感じになったので確認してみることにした。
「どこか行きたいところでもあるのか?」
「ああ、片倉館ってところがあるんだが、そこに諏訪市美術館ってのがあるんだよ。」
「美術館に行っておきたいってことか?」
「そうそう、片倉館って大浴場のある所も寄ってもいいと思ってるけどね。」
「わかった、ルートを考えておくか。」
澪と野乃花ちゃんに確認すると“ガラスの里”というところに行ってみたいということで目的地は四か所となった。。
営業時間の都合などで、高島城、八剱神社、ガラスの里、片倉館の順序で回ることになった。
少し行ったり来たりがあるが、そこまで気にすることではないだろうし、最後に大浴場にもよっておきたかったので仕方ない。
静流と話をしている間に、澪がトーストとハムエッグを作ってくれていたので、四人で朝食を摂って出かける準備を始めた。
出かける準備といっても、自分はセカンドバッグ一つ、静流は小さめのボディバッグ一つだ。
女性陣は多いかと思いきや、澪はトートバッグ一つ、野乃花ちゃんに至っては小さめのショルダーにすべて入るらしい。
その荷物を見てふと思ったのだが、澪も野乃花ちゃんも化粧っ気がないのだ。
なのでメイクポーチなどは一切持たず、化粧水をスプレーに入れたものを持っているくらいになっている。
それが奏功しているのか、二人とも普段から手荷物は少なくなっていた。
買い物をした時の澪は、紙袋が両手いっぱいになるのだが。
そう、自分が両手いっぱいになる…。
荷物とペットボトル飲料を持って車に乗り込む。
車に乗るときは飲み物を持っていないと落ち着かない部分があるので、必ず何か持って乗っている。
飲み物もそれぞれの好みが出るので、なんとなく見ていると楽しくなる時がある。
陽向なんかは、珍しい飲み物が好きなので、某コーラがイロモノフレーバーを作ったときは、悶絶していることもある。
こういった、飲み物を持ち込んだ時、車によってはドリンクホルダーに困ることもあるが、さすが澪の手配してくれた車なだけあって、収納には困らなかった。
まずは高島城に向かう。
別荘から高島城までは少し距離があるので、積んでいる荷物を確認しておいてもらうことにした。
静流の話を考えると、片倉館の大浴場によることを考えると、ちゃんと着替えを持ってきていることを確認しておきたかった。
「澪、着替えとか持ってきてるか?」
「はい、今日はちゃんと持ってきてますよ。ラゲッジに皆さんの分を入れておきました。」
「流石だね。」
自分が返事を返す前に、静流が澪に賛辞を贈ってくれた。
そうこうしているうちに高島城に到着し、手荷物だけを持って城の入り口まで歩いていく。
夏休みの避暑地ということもあるのだろう、平日にもかかわらず、ちらほらと若者の姿が目に入った。
城の石垣を見ていると、昔の人は今のように情報機器がなくても、この規模の建造物を作れたのかと感心した。
今の自分たちだと、CADだったりシミュレータだったりと、色々な情報がなければ作れないと思う。
昔の職人のすごさを、もう一度胸に刻み込んでいた。
この城については茶臼山城から諏訪高島城になるまで、色々な時代を見てきた建物だ。
主導者が変わったり、建物の構造が変わっていったりと、翻弄されっぱなしといってもいいのかもしれない。
ただ、その分、その時の人々の感情とともに時代を歩んできたものであることも確かだろう。
石垣や城の建物を見ながら、遠くを見ている静流がいることに気が付いた。
静流も、この城の成り立ちについて、色々と考えることがあるのだろう。
昨日言っていた“街を見てみたい”というのは、こういったところでも感じることができたのだろう。
目を閉じて、深く一呼吸するとこちらに近づいてくる。
「境、中にも入ってみようか。」
澪と野乃花ちゃんは城下で色々見ておきたいらしく、静流と二人で城の中を見に行くことになった。
城内の展示を見ていると、それぞれの時代について知っていくことができた。
資料も展示されているので、それを見ていくだけでも十分に楽しめるし、土地の流れを知ることができる。
この諏訪という土地やそこに住むものが、人の営みによって翻弄されてきたのだろうことがわかった。
「この土地は、人の勝手で翻弄され続けてきたんだね…。」
「そうだな、いつの時代も、人は迷惑をかけ続けるものだな。」
「そうだね、だから、土地神というのは必要なんだろうね。」
歴史を紐解けば紐解くほど、人が土地に与えてきた影響がわかってきて、やるせない気分になった。
それとともに、力強く生きている人々を見ると、人のたくましさを感じ、少し暖かい気分にもなった。
自分はそれを淡々と受け止めることができたが、静流のほうは少し疲れている様子だった。
場内から出てくると、すぐに澪と野乃花ちゃんに合流できた。
澪は自分の趣味を知ってか、いつの間にかこっそりと御朱印をもらってきてくれたらしい。
そういったところは素直にうれしかった。
「さて、次は八剱神社だな。」
—— 諏訪を見る一日、それはまだ始まったばかりだった。
今回は高島城を巡るお話でした。
前話で静流が口にした「今の諏訪を見てみたい」という言葉から始まった一日です。
神や伝承ではなく、人が作り、人が変え、それでも人が暮らし続けてきた土地。
歴代の榊から様々なものを受け取った今の静流だからこそ、以前とは少し違ったものが見えているのかもしれません。
とはいえ、今日はあくまで観光の日。
次は八剱神社へ向かいます。




