帰路
大阪遠征も、いよいよ最後のお話となります。
たくさんの出会いがあり、
たくさんの学びがあり、
そして少しだけ成長した彼ら。
帰る場所は変わらなくても、帰る人は少しだけ変わっています。
そんな旅の終わりを描いた一話です。
それでは、第79話『帰路』をお楽しみください。
翌朝、帰りの準備をしていると、宗玄さんに声をかけられた。
「今回、お前さんが一番やったで、自信もって帰り。」
宗玄さんの表情は晴れやかだったので、自分も自信を持って帰る気持ちになれた。
色々あったのは確かだが、自分の中では整理しきれていないものがあった。
だけど、今回、指導者として立ってくれていた宗玄さんの言葉は、胸に響いた。
荷物を一通りまとめ終って、車に積み込んでいると、玄関の方が騒がしくなってきた。
ひと段落して、玄関に回ってみるとお世話になって人たちが来ていた。
泰源さん、岡部さん、その他にも政治家っぽい人たちが見えた。
「皆、見送りに来たで。」
宗玄さんが、皆さんをこちらに案内してきた。
「陽向君も、朔弥君も、これからも初心を忘れんようにな。」
泰源さんが修行の面倒を見た二人に声をかける。
声をかけた後、自分の方に寄ってきたので少し驚いた。
「境君、色々と厳しいと思うけど、頑張りや。」
「せやな、他の子より色々と持っとるみたいやで、悩んだら気軽に相談しにおいで。」
泰源さんに続いて、岡部さんも声をかけてくれる。
二人とも、自分の過去を話した覚えがないので、先日の龍神の話をしているのだろう。
「はい、とはいえ距離があるので、宗玄さんに電話をつないでもらうようにします。」
半分冗談ともとれる内容を口にし、三人で笑った。
そこから、奥にいた政治家っぽい雰囲気の二人がこちらに近付いてきた。
自分は会った覚えはないのだが、後ろにいた真琴さんが気が付いたようで、フォローに入ってきた。
「おはようございます、葛城さん、岡崎さん。」
「ああ、おはよう。君が境君やね。」
「はい、宗玄さんにお世話になっています。」
「しっかりした子やな。そんなにかしこまらんでええ。」
真琴さんの視線から考えて、こちらの方が葛城さんという方だろう。
老齢ではあるものの、背筋はシャキッとしており、声にも視線にも力がある。
百戦錬磨という言葉は、こういう人に使うとしっくりくるなと思った。
「噂には聞いとったけど、実際に見ると玄真さんの面影もあるなあ。」
「祖父をご存じで?」
「ああ、せや。宗玄さんもよく知ってると思うけど、つかみどころのない人やったわ。」
こんなところにも、祖父を知っている人が居るとは思わなかった。
確かに、いつも手提げ一つくらいの荷物で、あちらこちらを放浪しているというのを聞いたことがある。
その間は祖母がいろいろ苦労したらしいが、祖母はまったく気にしている様子がなかった。
「ええ、自分もあまり会わないんですが、祖母から色々聞いてはいます…。」
「志乃さんも、苦労されてるはずなんやけど、何も苦労してません見たいな顔しはるからなぁ…。」
「そうですねぇ。お二人とも私たちから見たら、理想の夫婦像ですわ。」
もう一人の、岡崎さんと思われる方が、話に入ってきた。
此方の方も祖父母を知っているようだ。
しかし、理想の夫婦像と言われても、イメージできないところがあったので思わずそのまま尋ねてしまった。
「そうなんですか?」
「風来坊みたいに見えて、何でも解決してはる玄真さんと、それを笑顔で支える志乃さんって感じやからな。」
「そうやなぁ、お互いを理解してはるから、ああいう感じになれたんやろうなぁ。」
二人とも、昔を懐かしむような感じで話をしている。
それくらい、そのころの思い出は大事なものなのだろう。
そして、知人の孫である自分と陽向、その友人たちまで含めて、この人たちには孫のようなものなのだろう。
厳しさの中に優しさがあるような眼差しが、それを感じさせてくれた。
少し向こうに岡部さんの姿があったので、挨拶をしに行く。
礼音と澄玲ちゃんが、何やら一回り成長したように見えるのは、岡部さんの影響だと思っている。
なので、一度話をしておくべきだと思った。
「おはようございます。今回は色々とお世話になりました。」
「ああ、境君も色々と大変やとは思うけど、大丈夫なんか?」
「ええ、流石に疲れはしましたけどね。」
そう言って軽く笑って見せる。
岡部さんにも疲れ自体は伝わったようで、軽く笑って返してくれた。
「何か重いもんを抱えてるんは分かるけど、無理はせんようにな。」
「はい、ありがとうございます。また、機会があればお邪魔しに来ます。」
少しだけ話に聞いていたが、岡部さんも色々と重い経験を重ねてきているらしい。
その経験が、今の自分の状況と重なって心配してくれたのだろう。
そんな人たちなので、機会があれば、自分が単身でこちらに来てもいいかなと思えた。
「さて、そろそろ行かんとな。」
「そうだな、名残り惜しいものもあるが…」
そろそろ戻り始めないと、事務所につく頃には深夜になってしまう。
そうは言いながらも、今回は内容が濃かったので名残惜しいのも事実だった。
そんなことを考えて、複雑な表情をしていると陽向が声をかけてきた。
「また来たらええねん、爺ちゃんも歓迎してくれるって。」
「せやで、何やったら一人できてもええさかいな~。」
陽向の言葉に宗玄さんが乗っかってくれる。
そんな言葉を真に受けて、一人でバイクで来てしまいそうな気分だった。
そうこうしているうちに、見んな車に乗り込む。
それぞれがお世話になって人たちに挨拶をして、別れを惜しんでいた。
とはいえ、その気になれば、また会える距離だということもあり、キリを付けて出発することになった。
「今回は色々あったなぁ。」
「そうだな、結の言葉も聞けたのは大きかったと思う。」
「なんや、不穏な話をしよったけどな。」
「気を付けるに越したことは無いだろうな。」
今回の収穫について陽向と話をしていた。
陽向は助手席に、静流は二列目のシートに座っていて、三人で会話しやすいような配置にしている。
女性陣は疲れて眠ってしまうだろうと思い、三列目のシートに掛けてもらっていた。
案の定と言っていいのか、女性陣は三人とも、高速道路に入ってほどなくして寝付いてしまった。
「不穏と言っても、漠然としていて気を付けるポイントが難しいよねぇ。」
「せやけど、俺らを排除しようとしているのだけは分かってるから、その対処やな。」
「だね、そのための恒一さんレッスンか。」
そう言って静流が笑うのにつられて、三人で笑ってしまった。
恒一さんレッスンとは、恒一ズ・ブートキャンプという言い方もされる、陽向の父である恒一さんのトレーニングレッスンだ。
イメージと違った動きでトレーニングを教えてくれたりするので、それを思い出して笑ってしまう。
ただ、今回は護身術なので、もう少し厳しいトレーニングになるかなと思っている。
「そう言えば、女性陣はどうするんだ?」
「ああ、それやったらオトンやなくてオカンが教えると思うわ。」
「どういうことだ?」
恒一さんではなく、澄さんの名前が出た。
澄さんが護身術や格闘技などを習っていたというのは聞いていないので、よくわからない。
「オカン、巫女さんやってる頃に護身術習ってたらしいねん。」
「初耳だぞ?」
「あんまり言うなって言われとったからな。」
澄さんは、家庭的なお母さんのイメージがあるので、そのイメージを崩さないためだろうか。
護身術をやっていることを隠しているような口ぶりだった。
だが、ということは、女性陣の護身術についても問題ないということになる。
「地味に、境の婆ちゃんが、めっちゃ強いとかありそうやけどな。」
「あの人も謎しかないからな。孫の俺でもつかみどころがない二人だと思う、。」
「どっちにしても、護身術には困らなさそうで一安心といったところだね。」
静流が話をまとめてくれて、また、帰ってから何をするかという話題に戻る。
自分の事務所に帰り着く頃には日が沈む時間帯になっていた。
大学生の六人は事務所に泊まることになったが、高校生組はそうもいかないので朔弥に送らせることになった。
梓ちゃんだけは不満そうにしていたが、澪が説得して自宅に戻らせることになった。
「さて、久々にゲームでもしながら雑談しますか。」
そう言って、いつも通りの生活に戻ってきた。
明日以降も色々と考えることはあるのは分かっていた。
ただ、一旦、ここで頭の中も休憩させておこうと、全員の意見が一致していた。
—— 不穏な影は徐々に迫っていたが、今は休めと、彼の存在が言っている気がした。
第79話『帰路』をお読みいただき、ありがとうございました。
これにて大阪遠征編は一区切りとなります。
龍神との出会い。
修験道での学び。
歴史や人との繋がり。
そして、宗玄さんをはじめとした大人たちとの交流。
彼らは様々な経験を通して、それぞれが少しずつ前へ進むことができました。
ですが、その成長は劇的なものではありません。
ほんの少し考え方が変わり、
少しだけ視野が広がり、
少しだけ支えてくれる人が増えた。
その積み重ねこそが、この作品で描きたい「成長」なのだと思っています。
そして最後に戻ってきたのは、いつもの日常です。
ゲームをしながら雑談をする。
そんな何気ない時間も、きっと彼らにとっては大切な日常なのでしょう。
次回からは再び関東でのお話となります。
新たな日常の中で、彼らがどのような時間を過ごしていくのか、引き続き見守っていただければ嬉しいです。




