盛夏
大阪遠征もいよいよ終盤。
今回は少しだけ肩の力を抜いて、夏休みらしい一日を過ごすお話です。
プールに観光。
お土産選び。
そして、皆で囲む最後の夕食。
大きな出来事ばかりが成長ではありません。
何気ない時間の中にも、きっと大切なものはあるのだと思います。
それでは、第78話『盛夏』をお楽しみください。
翌日、今回の大阪遠征最終日となった。
宗玄さんも、最終日くらいは観光した方が良いと言ってくれたので、甘えることにした。
何処に行くかというので議論になるかと思ったが、静流が先日訪れた公園に付随していたプールに行こうという話になった。
道中にショッピングモールがあるので、そこに寄って水着を探す。
男性陣は、サイズ的に極端に違うメンバーが居ないので問題なかった。
だが、女性陣は胸部格差があるため、一部メンバーは水着を探すのに困っていた。
「野乃花さんと真琴さんは大変ですね…。」
「大きければ良いってモノではないって言うのを、こういったところでは説得しやすいわね。」
「だよね~。下着も困るよね。」
澪が野乃花ちゃんと真琴さんを気遣って言ったのだが、本人たちはそれどころではなさそうだった。
逆に梓ちゃんは子供用サイズを勧められそうになり怒っていた。
自分たちはあっさりと水着を選んでしまって、浮き輪などのアイテムを買いに行っていた。
海ではないのでシュノーケルのようなものは必要ないけれども、浮き輪くらいはあってもいいだろうと思った。
皆で大きな公園の中にあるプールに向かう。
時期的なものか、BBQコンロを持って公園側の広場に向かう若者もたくさんいた。
そんな中、その若者や家族連れの進む方向とは逆にあるプールの方に向かった。
更衣室に向かうところで、男性陣と女性陣が分かれる。
自分たちの方に浮き輪などを持ってきて、先に空気を入れることになった。
「浮き輪しか買ってないけど、ゴムボートとかもあった方が良かったのかな?」
「いや、他の客の迷惑になるんちゃうか?」
「そんなに混んでるのか?」
「ここのプールって大きいからなぁ。この時期は大抵混んでるわ。」
確かに入ってくる客足を見る限りは混んでいるというのはもっともだろう。
その中でゴムボートのように大きなものを持ち込んだら他の客の迷惑になる。
小さな子供を連れて来ているわけではないので、せいぜい浮き輪があれば十分だと思った。
着替え終わり、更衣室から出てきたが、案の定、女性陣は未だのようだった。
浮き輪の他に空気入れも同時に買ってきていたので、ビニールのカバンにまとめて入れている。
適当なところで空気を入れるわけにもいかず、空いているパラソルの近くで空気を入れ始めた。
「しかし、境も静流も、髪の毛邪魔にならへん?」
「ああ、慣れたらどってことないよ。」
「そうだな、中途半端よりはこっちの方が楽だ。」
そうしながら色々と準備をしていると女性陣も着替え終わって歩いてきた。
思わず二度見してしまうようなスタイルの人が二人、他の面々もスタイルは非常に良いので、他の客の目を引いていた。
真琴さんと野乃花ちゃんは、特に男性からの視線を引き込む。
だが、当の本人たちは慣れたものらしく、どこ吹く風といった感じだった。
「姐さんも野乃花ちゃんも、水着見つかってよかったなぁ。」
「流石に選択肢は少なかったけど、サイズの合うのがあってよかったわ。」
陽向の軽口に真琴さんが応じる。
人によってはハラスメントと言われかねないが、陽向のキャラがそれを許されるものとしていた。
陽向の言うのも尤もで、単純にサイズだけの問題ではなかった。
時期的なものもあり、需要が高くなっているので、大きいサイズや小さいサイズは売り切れやすいと思う。
そんな中、選択肢が複数あったのは不幸中の幸いと言っていいだろう。
「折角なので流れてこようかな。」
「私も水の流れに任せてみるわ。」
礼音と澄玲ちゃんは流れるプールの方に向かって行った。
何となく気持ちは分かる気がする。
流れるプールの流れに任せると、何だかいい気分になる。
そうして流れていく二人とは対照的に、梓ちゃんは流れに逆らって進んでいた。
身体が小さいので流れに負けているが。
「今日は梓ちゃんが野乃花ちゃんや真琴さんに絡まなかったのか?」
「ええ、それよりもプールが楽しみだったみたいで。」
その雰囲気の通り、子供のようにはしゃいでいる姿が見える。
そんな梓ちゃんを見守る朔弥の姿も視界に入っていた。
「たまには、こういう平和な感じもいいもんだな。」
「そうですね。なんていうか、幸せな気分になります。」
テーブルとパラソルが置かれているエリアから、それぞれに楽しむ面々を眺めていた。
ここも水場なので、先日の龍神を思い出すが、ここに現れると大惨事だなと、ふとおかしくなって笑ってしまった。
お昼を過ぎてしばらくしたころに、みんな疲れてきたのか、休憩スペースに集まってしまった。
「さて、そろそろ別のところに行くか。」
「せやな、爺ちゃんが晩飯の店は予約してるらしいで、連絡してみよか。」
体が冷える前にということで、プールを後にすることになった。
プールを後にし、少し山手の方に向かう。
此方に有名な土産物屋さんがあるらしく、そこで土産を買っていこうという話になった。
自分は両親も親類も近くに住んでいないのであまり考えなかったのだが、他のメンバーは家族への土産を物色していた。
あまり形になるものはということで、お菓子を買うのが多かったが、一部、地元のゆるキャラを模したアイテムを買っていた。
ただ、これを関東に持って帰ったところで、誰が知っているのだろうちう話になったのだが。
一通り用事を済ませて屋敷に戻ると、宗玄さんと千鶴さんが出かける準備をしていた。
自分たちが戻ったら、その足で晩御飯を食べに向かうつもりだったらしい。
「また、今度はもっと余裕のある時に来たりや。折角やから、行きつけの飲み屋紹介したるわ。」
「はい、また時間のある時には、ゆっくり遊びに越させてもらいます。」
宗玄さんとしては、酒を交わしながら話をしたかったのだろう。
次はもっとゆっくりするという約束をしながら晩御飯のお店に向かった。
お好み焼きがメインのお店なのだが、鉄板焼きも有名らしく、色々なものを食べさせてもらった。
お店までは歩いて行けるところだったので、自分と陽向、静流はお酒も頂いた。
ゆっくり長時間という感じではなかったが、孫たちと酒を交わせるのがよほど嬉しかったのだろう。
今まで見たこともないくらい多弁な宗玄さんを見ることができた。
この日は、宗玄さんも分かれを惜しんでくれるような雰囲気があった。
対する千鶴さんは、またすぐに遊びに来れるように、うまく話を回してくれていた。
そうしながら、大阪遠征の最終日の夜は更けていった。
—— 若者の成長、それは年長者の喜びであり、世の中を前に進めるものだと思った。
第78話『盛夏』をお読みいただき、ありがとうございました。
今回は大阪遠征最後の自由時間ということで、思い切り夏休みらしい一日を描いてみました。
プールではしゃぎ、
お土産を選び、
皆で食事をする。
それだけのことなのですが、こうした何気ない時間こそが、後から振り返った時に強く記憶に残るものなのかもしれません。
また、今回の話では大阪遠征を通して育まれた関係性も意識して描いています。
友人として。
先輩後輩として。
そして家族のような距離感として。
この数日間で、彼らは多くの経験を共有してきました。
その積み重ねが、きっとこれから先の支えになっていくのだと思います。
次回はいよいよ大阪遠征編の締めくくりです。
彼らが何を持ち帰り、どのような日常へ戻っていくのか。
最後まで見守っていただければ嬉しいです。




