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警鐘

今回は少し肩の力を抜いて、温泉回です。


……と言いたいところなのですが、この作品がそう簡単に休ませてくれるはずもありませんでした。


大阪遠征を通して、それぞれが得たものを整理しながら、少しだけ日常を楽しむ時間。

そして、その先に待っていた新たな気付き。


そんなお話になっています。


それでは、第77話『警鐘』をお楽しみください。

車に乗って、しばらく走っていくと、少し都会になってきた中に動物園が現れた。

その動物園の隣に、少し大きな建物があるのだが、そこが目的地の温泉らしい。


「明日、羽を伸ばすにも、疲れはしっかりととっとかんとな。」

「俺もここは久々に来たけど、爺ちゃんはどうなん?」

「ワシも久々やな。一人で来るにもちょっと寂しいやろ?」


陽向と宗玄さんの話が祖父と孫の話になっていて、少し暖かい気持ちになった。

宗玄さんの口から寂しいという言葉が出ると思っていなかったので、少しほっとした部分もある。


車を地下の駐車場に停め、皆でフロントの方に向かう。

フロントで受付を済ませると、男女に分かれて浴場に向かった。

その時々に応じて、男女のフロアが入れ替わったりする仕組みで、今日は男性側が西洋風のフロアになっていた。


脱衣所でタオルなどを借り、浴場の中に入る。

それぞれの浴槽が大きく、皆で集まっても迷惑にならないくらいの広さがあった。


「ふぃー、やっぱり広い風呂はええなぁ。」

「本当に。まだ明るいうちからの温泉ってのは贅沢だねぇ。」


静流と陽向が年寄り染みているのを見て、少し可笑しくなった。

さらに、そこから少し離れた所で、宗玄さんが力いっぱいくつろいでいるのが見えた。

昨日まで色々あったというのに、今日はこの落差だ。

どこか、少しだけ気を張っていた自分が馬鹿みたいに思えたのもあって、一層力が抜けていた。


「向こうに戻ったら、またみんなで温泉に行きたいな。」

「そうだね、久々に行こうよ。」


此方は此方でいいが、向こうでも同じように温泉に遊びに行きたいなという話に、静流が真っ先に賛成した。

静流も色々な温泉に行くのが好きな方なので、この温泉に舞い上がっていたところもあるのだろう。

確かに、向こうで温泉に行く機会は減っており、見直すにも丁度いい機械だとも思っていたので、提案したのだが。


「境さんたちも、最近は温泉会イベントやっていないんですか?」

「ああ、最近は色々と忙しかったからな。」


朔弥に質問されたので素直に答える。

本当にここしばらくは温泉に行けていなかった。

前々から朔弥が温泉会の方に参加したがっていたのは知っていたので、今度は連れて行ってやってもいいかなと思った。


「朔弥と礼音も、今度は一緒に行くか?」

「良いんですか?」

「ええんちゃう?いつも日帰りやから、親御さんに心配かけるほどでもないと思うし。」


その会話に陽向も参戦してきた。

陽向の言う通り、午前中に出かけて夜には帰るというパターンなので、普通に遊びに行くのと変わらないだろう。

そんな話をしながら、温泉を満喫していると、あっという間に時間が過ぎて行った。


~一方そのころ、女湯の方では…~


野乃花ちゃんと真琴さんを見ていると、いつも思うことがある。


神様は不公平だな、と。


野乃花ちゃん、真琴さんのスタイルには、どうやっても太刀打ちできない。

一緒にお風呂に入るときや、水着に着替える時には毎回思ってしまうところだ。


「相変わらず反則ですね!」


梓ちゃんが、真琴さんのあちこちをつつきまわる。

彼女は一般的な平均よりも、全ての数字が小さい目なのでコンプレックスなのだ。

姉である私は、所謂平均よりも少しだけメリハリがあると言われている。

だけど、梓ちゃんは、身長体重を含めて、平均よりも少し低めとなっていた。


「梓ちゃん、他のお客さんたちも私たちと変わらないと思うわよ。」


そう言われて周りのお客さんを見回してみると、確かにスタイルの良い人がいっぱいいるように思えた。

二人のスタイルを軽く見ていいとは決して思わないけど、他にも羨むような人が多いのは確かだ。


「そだよ~、梓ちゃんもイイ人できたら成長するよ~。」


野乃花ちゃんのセリフが意味深に思えたけど、一般論としても言われるのでそっとしておくことにした。

それを聞いた梓ちゃんも、少し考えこんでしまったので、効果はあったと思った。


「澄玲ちゃんもスラッとして、うらやましいと思うけどね。」

「え、私ですか?」


メリハリというところでいうと二人のような感じではないが、スレンダーで全体的に幻想的に見える。

体のラインがメリハリでしかできていない二人にしてみると、そちらの方が羨ましいのだと思う。

とはいえ、私にしてみれば、どちらも羨ましことに変わりはなかった。


「あの、一旦スタイルの話はおいておきませんか…?」


澄玲ちゃんに指摘されて、みんな赤面してしまう。

私たちと比べて若い彼女に、そこを指摘されてしまうと、先輩として恥ずかしかった。


「私にしてみると、真琴さんと陽向さんの関係の方が気になりますよ…?」


澄玲ちゃんが思わぬところをつつきに来た。

顔を真っ赤に染める真琴さんを見るのは初めてで、結構新鮮だった。

そこからは、彼女の独壇場で、あちらこちらの恋愛トーク、ガールズトークが繰り広げられた。

もちろん、年頃の梓ちゃんも興味津々で、真琴さんが質問攻めに遭ったのは言うまでもない。


色々と大変ではあったけど、私と境さんの関係をあまり深掘りされなかったのは助かったと思う。

梓ちゃんは立場柄、指摘するまでもないんだと思うけど。

澄玲ちゃんには

「お姉さんは、見てるとすぐに分かりますよ。」

と言われて、顔から火が出るかと思ったことは、境さんにはとても言えないワンシーンだった。


~男性陣に話は戻り…



「さて、一旦ウチに戻ろか。」


宗玄さんに言われ、全員で屋敷の方に戻る。

今日の夕食は、今ではなく縁側と庭を利用して摂ることになった。

食事をしながら、結とのアクセスを試すことになった関係で、庭を利用することになった。


温泉施設から小一時間ほどでお屋敷の方に戻る。

そして、縁側に一部の食料を広げ、庭でアウトドアのアイテムを複数利用して食事を摂れるようにした。

その後、澪、真琴さん、澄玲ちゃんの三人に、アクセサリに祈りを込めてもらい、結にアクセスを試みる。


BBQコンロなどが広がる庭の向こうから、結の姿が見えてきた。

客観的にみるとシュールな光景だと思う。

だけど、その場に結の姿は現れたのだ。


「やっと…意思をもって呼んでもらえましたね…。」


これまでもそうしてきたつもりだったが、今回は結にもこちらからアクセスしようとした意思が感じられたということのようだ。


「貴女は私たちに何を伝えようとしているんですか?」


澪が結に問いかける。

いつも通り、一方的な問いかけになると思われたが、今回はそうではなかった。


「皆さんが…向こうから…認識されています…。」

「認識されている?どういうことなんだい?」


今度は静流が質問する。

どうやら、静流も結の事をちゃんと認識できるようになっているようだった。

静流も見えたということを考え、メンバーの視線を見てみると、全員が結の事をちゃんと認識しているようだ。

今までよりも、ハッキリとこの先の事を考えることができると思った。


「向こうには…貴方達は、困る…だから、排除をしようと…」

「排除やて?」

「気を付けて…」


陽向が少し興奮したように質問するが、結はそれにちゃんと答えることはできないようで注意を促すにとどまった。

そこからいくつかの質問を投げかけてみたが、こちらの期待するような回答は得られなかった。

ただ、“排除しようとしている”ことと、“向こう”という何かから自分たちが認識されていることは伝わってきた。

そして、その“向こう”というやつは、自分たちがいることで不都合があるので、排除しようとしていることも。

それぞれが、今までよりも警戒を強める必要があるのだろうということを、改めて認識した。


「なるほどなぁ。あれが結ちゃんやな?」


宗玄さんにも見えていたようで、宗玄さんが話しかけてきた。


「向こうっちゅうのが何かわからんけども、少なくとも身を守る術は覚える必要があるな。」

「ええ、何か方法はないでしょうか?」

「恒一に伝えとくから、何人かずつ恒一と話しとき。身の守り方を教えられると思うわ。」


当然と言えばそうかもしれないが、宗玄さんは陽向の父親である恒一さんを指名された。

恒一さんも、こういった荒事に強い方ではあるので、適しているのは間違いないだろう。

そして、この場で継続した修行があるわけではなく、家族の事も気にかけて地元の方で修行できる方法を考えてくれたのだろう。


その話をされ、陽向に後で調整しようと声をかけておいた。

そして、食べかけの夕食をそのままいただくことにした。

腹が減っては何とやらというやつだ。

体調的にも、気持ち的にも、十分な準備をする必要がある。

そのことを、ここにいるメンバー全員が認識していた。


—— 自分たちの成長は、新しい準備を求めるのに必要な、一つのステップになっていた。

第77話『警鐘』をお読みいただき、ありがとうございました。


今回は温泉回ということで、久しぶりに彼ららしい日常を描いてみました。


男湯では相変わらずのんびりと。

女湯では相変わらず賑やかに。


それぞれの関係性や距離感も、少しずつ見えてきたのではないかと思います。


また、今回は結との再会も描かれました。


これまで断片的だった彼女との接触ですが、今回は初めて皆が同じように彼女を認識し、言葉を交わすことができました。


その中で語られた「向こう」という存在。


まだ断片的な情報しかありませんが、彼らを取り巻く状況は少しずつ動き始めています。


今回のタイトルである『警鐘』は、結からの警告であると同時に、彼ら自身が次の段階へ進むための合図でもあります。


とはいえ、まだ夏休みは続きます。


次回はもう少しだけ肩の力を抜いて、若者たちらしい時間を描いていければと思います。

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