継承
大阪遠征編もいよいよ終盤。
今回は、それぞれが体験した出来事を持ち寄り、共有するお話です。
大きな出来事もありましたが、それ以上に大切なのは、そこで何を感じ、何を持ち帰ったのか。
そんなことをテーマにした一話になっています。
それでは、第76話「継承」をお楽しみください。
昨日はひどい目に遭った。
まさか、宗玄さんがあんなに速いとは思っていなかった。
お陰で、今日は筋肉痛だ。きっと、澪も同じように筋肉痛になっているはずだ。
むしろ、道連れになっていてほしい。
昨晩、みんなが帰ってきてから、宗玄さんが明日は仕上げという話をしていた。
今回の龍神の件にしても、他メンバーの件にしても、ひと段落したと思う。
そして、そろそろ自宅に帰るべきタイミングでもあると思った。
自分は家に両親が居ることがほとんどない。
だから、特に気にならないのだが、普通の家庭は気になるだろうと思う。
子供が長期間旅行に行くような感じなのだから、心配もするだろう。
まぁ、陽向や静流の両親はあまり心配しなさそうな気もするが。
筋肉痛の脇腹を押さえながら、顔を洗い、居間に向かう。
他のメンバーは起きていないようで、千鶴さんと宗玄さんだけが居間に座っていた。
「おはようございます。」
「おはよう、体調はどないや?」
「お陰様で脇腹が大変です。」
そんな冗談を交わして、三人で笑った。
脇腹が大変なことには間違いないが、特にそれをどうこう思っているわけではない。
普段からちゃんと鍛えないとなくらいのイメージだった。
しばらくお茶を啜りながら、何の気ない雑談をしていると、礼音と澄玲ちゃんが起きてきた。
二人は昨日、隧道の方に行ったと聞いている。自転車で少し走ったらしいので、きっと体が疲れているだろう。
少し眠そうな二人もテーブルにつき、お茶を啜り始める。
昨日の話を聞いてみたい気もするが、全員そろってからの方が良いかなと思った。
「境さんは眠くないんですか…?」
礼音が半分以上眠っているような表情で尋ねてきた。
自分は移動手段が車だったので、そこまで肉体的な疲れはなかった。
もちろん、精神的な疲れはあるが、それで眠り続けると言ったものではない。
対して礼音たちは自転車を使ったので大変だったろうということは理解できていた。
「俺は車だったからな。礼音みたいに山の中を自転車だときつかったと思うぞ。」
「ですよねぇ…、体育の授業の方がよっぽど楽だったと思います…。」
それはそうだろう。
体育の授業で山中を自転車で走り回るような授業があったら、それは何か違う団体だと思う。
そうこうしていると、女性陣、男性陣と次々に起きて来て、残りは陽向一人を残すところとなった。
いつもの事とはいえ、今は真琴さんがいる。
この状況で一人だけ起きてこないという事は、真琴さんが大魔神になるということだ。
陽向が全く起きてこないことを見て、真琴さんが寝室の方に向かう。
しばらくすると、断末魔と助けを求める声が聞こえてきた。
その状況を宗玄さんが、平和をかみしめるような表情をしてお茶を啜っていた。
声が落ち着いてからしばらくして、真琴さんが陽向を引っ張ってきた。
これで全員そろったということで、宗玄さんが今回何があったかを説明してくれることになった。
「さて、まずは陽向と朔弥君やな。」
「はいよ、俺と朔弥は修験道の修行に参加させてもうたんよ。」
「泰源さんに同行してもらったって聞いたけど、どんな感じだったんだい?」
陽向が話し始めると、静流が簡単に質問した。
話の流れを作りやすくするためだろう。次の句を出しやすそうな話し方だ。
「せやねん、泰源さんと一緒やったんやけど、現地では隆玄さんってすごい爺ちゃんがおってんよ。」
陽向が言うには、泰源さんと一緒に修験道の修行ができる寺の方に向かったらしい。
その寺の方で住職をされている方が、隆玄さんという方で、宗玄さんよりも年長者らしかった。
話しぶりからしても、若いころの宗玄さんを知っているようで、何やら不思議な人だったとのこと。
「せやな、隆玄さんはワシのお師さんみたいな人やから、そのうち皆で行ってもええと思うわ。」
「俺は個人的には、女性陣はあんまりおススメでけへんなぁ…。」
「そうですね、自分でも厳しかったので、体力に自信がない限りは控えた方が良いかと…。」
宗玄さんの勧めに対し、陽向と朔弥は苦言を呈していた。
山道をひょいひょいと簡単に登っていく宗玄さんと、都会育ちの女性陣では体力が違う。
まして、最近の若者は登山をするようなタイプは珍しいので、ある程度覚悟していく必要があるだろう。
陽向や朔弥の言も尤もだなと思った。
「それで、修行の結果はどうだったんだ?」
「何ちゅうか、山の温かみを感じた気がしたなぁ…。山そのものと話した感じや。」
「自分の方は普通に、感情のコントロールを学びました。ある程度はできるようになったつもりです…。」
自分の質問に二人が答える。
朔弥の方は確かに、昔から感情のコントロールが甘く、激高して相手を打ちのめすことがあった。
なので、感情のコントロールというのは、凄くよく見てもらえているんだなと思った。
逆に、抽象的だったのが陽向の方だった。
恐らくは普段から恒一さんに鍛えられている部分の延長線上だと思うが、また何かの機会に詳しく聞いてみようと思った。
「ほんで、静流の方はどないやったん?」
「俺は野乃花ちゃんと歴史的な価値の高いところを見て回ったよ。」
「そだねー、色々なものが見れたよね。」
静流の話によると、色々な歴史的な建造物等見て回ることで、今の在り方を学んだということだった。
最期に回った公園に、何やら気になる視線を感じたらしいが、結果的には何も起こらなかったらしい。
公園には色々な施設があったので、皆でまたまわりたいということだ。
「そんなに近くに大型のプールなんてあるんだな。」
「そうだね。今は準備してないから行けなかったけど、今度は準備して行けるといいよね。」
「静流君、色々期待してそうだねぇ~。」
その気はないのだろうが、野乃花ちゃんにからかわれていた。
こんな雰囲気で二人で回ったのだとしたら、それは楽しかっただろうなと思った。
「私の方は千鶴さんの人脈を紹介してもらった感じね。」
「色々美味しかったです!」
梓ちゃんの発言通り、色々と食べさせてもらったらしい。
妹を連れて回るような感じで商店街を回り、千鶴さんの人脈を引き継ぐような形になったそうだ。
最期に回った喫茶店で、コーヒー豆をもらったらしく、それを自分に譲ってくれるとのことだ。
皆でたまるときに使用するものではあるが、少し珍しい豆は、素直に嬉しかった。
「で、僕の方ですね。僕よりも澄玲ちゃんの方が分かりやすいのかも。」
「はい、そうですね。私の方は隧道、トンネルが他のどこかとつながっているような現象に出会いました。」
「どういうことですか?」
自分よりも先に澪が尋ねる。
他のどこかとつながる。その言い方が気になったらしい。
澄玲ちゃんの話では、その隧道を通った色々な人の悲しみや、それに対して祈りをもって修行する修験者の姿が見えたらしい。
現実のものではなく、霊的なもののような気がするということだが、悲しみと祈りが伝わってきたそうだ。
「そのあと、岡部さんと色々と話をしたんだけど、あの人も色々と複雑みたいですね。」
「せやな、あれも色々な悲しみを抱えて生きてるで、澄玲ちゃんの見たものも、あれに影響されてるんかもしれんな。」
宗玄さんは含みのある言い方をしているが、詳細は本人に聞けということだろう。
そのタイミングがあれば、一度くらいは酒でも片手に語り合える人なんだろうなと思った。
隧道から他のどこかを感じることができるということだが、それを見る限り澄玲ちゃんは陽向と近い感性があると思われる。
陽向はもっとはっきりと感じるし相手もできる。
澄玲ちゃんはそこまでではなく、そこに在る記憶を追体験するという感じのようだ。
その発生源が何かまではわからないが、陽向と一緒に行動させるのも面白そうだなと思った。
「で、最後は境君やな。境君はこないだのダムにおった、水神さんに気に入られて、色々と話ができたみたいや。」
「そうですね、龍神さんの眷属らしきもの達ともいましたし、色々と話してもらいました。」
宗玄さんに話を繋げられ、簡単に水神さんの話をした。
自分から見ると龍神なのだが、その龍神から色々な話を聞き、自分の事をよく知るきっかけをもらったと思う。
その眷属や、関係者と会って話すことで龍神の本質が見えたのだが、自分自身の本質は余計に分からなくなった。
「また境だけは龍神さんとか、反則やなぁ…。」
「全くだね、境だけは何処に行くんだろうと思うことがあるよ。」
そんな話をして皆で笑っていた。
自分は目の前に進む道があったから、そちらに進んだだけなのだが。
とはいえ、龍神とコンタクトできるという事実は、他のメンバーには無かった事象だった。
陽向や静流は、“通常運転だ”と、少し呆れ気味に言っていた。
「色々あったけど、みんな身になったみたいやな。」
「はい、色々ありがとうございます。」
簡単に謝意を述べると、それに皆が続くように謝意を伝えた。
「さて、明々後日には帰る聞いたんやけど、この後少し温泉でも行こか。」
「皆さんも折角だから、明日は羽を伸ばすと良いと思うわよ。」
宗玄さんの提案で、みんなで温泉施設に向かうことになった。
某動物園の近くに、世界の温泉をイメージした施設があるらしく、そこに向かうことになった。
昨日はみんな戻りが遅くなった関係で、十分な休息は取れていないだろうという、気遣いの話だったようだ。
宗玄さんの持っている高級ミニバンと、千鶴さんの買い物用として利用されているミニバンを貸してもらった。
全員で車に乗ろうにも一台だと乗り切れないので、千鶴さんが気軽に車を貸してくれて助かった。
—— 確かに変わった自分たちを再確認し、この先何が起こるかに思いを馳せていた。
お読みいただき、ありがとうございました。
大阪遠征編でそれぞれが体験した出来事を、一度整理するようなお話になりました。
修験道。
歴史。
人との縁。
悲しみと祈り。
そして龍神との対話。
それぞれが違うものを見て、違うものを持ち帰っています。
けれど、それらは決して無関係ではなく、それぞれの役割や在り方に繋がっているのかもしれません。
派手な戦いはありませんでしたが、この作品らしい「成長」を描けた回になったのではないかと思います。
次回は少し肩の力を抜いて、みんなで温泉へ向かいます。
大阪編もいよいよ終盤。
最後まで楽しんでいただければ幸いです。




