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道標

いつもお読みいただきありがとうございます。


第75話『道標』をお届けします。


今回は少し趣向を変えて、宗玄視点のお話となります。

若者たちがそれぞれの答えを探して歩いている一方で、その背中を見守る者たちもいます。

人は一人で成長するわけではなく、気付かないところで支えてくれる存在がいるものです。

そんな世代を越えた繋がりを感じていただければ幸いです。

長生きはしてみるもんや。

この子達を見て、改めてそう思った。

まだまだ幼くて未熟なのは間違いない。

しかし、それぞれの特徴が色濃く、そのうちの一人は中身が全くわからない。

こんなに難解な若者たちは、今まで見たことがなかった。


最も中身の分からないのが、神代の孫だ。

あいつ自身も謎に包まれた、飄々とした人物だったが、孫の方は全く何も見えてこない。

深淵を覗くというのは、こういう事なのではないかとさえ思った。

ちなみに、息子の方はぼんやりした人物で、神代の子供だとすぐに分かった。


息子の奥さんが水無瀬の筋だと聞いている。

どの水無瀬かは分からないが、孫を見る限りは水神の縁者である水無瀬だろう。

今回の水神さんに気に入られたことと言い、見ていて飽きない。


それに対して、その孫に引っ付いてくるのは天原家の令嬢だ。

ワシらの世代では医療従事者で知らないものが居ない財閥筋となる。

今となっては、病院だけではなく、医療関係事業で大成功を収めた財閥となった。

その孫娘の想い人が、神代の孫というのは何の縁かと思ってしまう。

これだから、この世というものは面白いのだと、つくづく実感した。


水神が神代の孫だけでなく、天原の孫娘にまで語り掛けたようだ。

天原の孫娘は、神代の孫を無条件に受け入れている。

そんな存在、ワシも今まで見たことがなかった。

神代の孫自体も、大概怖ろしい存在ではあるが、天原の孫娘もそこが知れない。

これらが子を成せば、どうなってしまうのか想像もつかなかった。


神代の孫が、水神さんの里の方から戻ってきたようだった。

やはり、相当体力を使ったのだろう、戻ってきた瞬間に膝から砕けてしまった。

そのままだと、どこに転倒してしまうかわからないのでとっさに受け止めてしまった。

それを見て自己嫌悪に陥りそうだった天原の孫娘に、膝枕を勧める。

折角の想い人なのだから、これくらいの役得は与えてやるべきだと思った。


天原の孫娘が、膝枕をして神代の孫を見ていたので、ワシは少しだけ離れることにした。

その近くから、水神の気配を感じたからだ。


「水神さんよ、覗き見っちゅうのは感心せんで。」


少しからかってみる。

すると、鼻を鳴らすようにして、姿を現した。

どうやら、ワシにしか認識できないようにしているらしく、向こうの二人は気づいていない。


「宗玄よ、また恐ろしいものを連れてきたな。」

「ちゅうても、まだ子供や。ワシらは見守る義務があると思わへんか?」

「それはそうだな。」


少しため息交じりに水神が話を続ける。

水神としても見守るつもりがあるのだろう。

神代の孫に持たせているものは、水神と交信できるためのものだった。


「よっぽど気に入ったんちゃうか?」

「ワシも長く過ごしてきたが、これほどまでに分からない生き物は初めてだ。」

「やろ?ワシも全然分からんのよ。」


そう言うと、水神と二人で少し笑ってしまった。

二人して同じ印象を抱き。同じ感情で向かい合っていることが分かったからだ。


「うちの孫もたいがいやけど、その友達連中もたいがいや。」

「だろうな。その娘一人にしても、これまでに見たことの無いものだ。」

「今日は連れて来てへんけど、うちの孫も所謂天才やけど、後輩には天災いうてええ奴もおったわ。」


誰のこととは言わないが、不安定な存在がいくらか存在する。

その子らが道をたがえないようにするのもワシらの役目だと分かっている。

ワシと水神さん以外にも、方々に色んな存在が居る。

皆にこのことは伝えていく必要があるだろう、


「しかし、子孫というものはいいものだな。」

「せやな、身近であればあるほど、その成長に目を見張るものがある。」

「三日もすれば見違えると、昔に聞いた気がするが、まさにその通りだなと言っておこう。」


その立場上、肩入れするような発言はできないが、その気持ちは伝わってきた。

ワシ自身は身内なので肩入れすることは構わないと考えている。

が、神格である水神はそう言うわけにはいかないのだろう。

それゆえに、どこからでも感覚を共有できるような代物を渡したのだろう。


「宗玄よ、あの青年はいったい何者なのだ?」

「家系は複雑じゃけども、実際にはまだ青臭さも残る少年じゃよ。」

「あまり期待するなという事か?」

「内心はええやろ。ただ、それでもまだ子供みたいなもんや。ワシらはそれを助けてやらんといかん。」

「ほう…」

「せやから、ワシらがするのは単なる期待やなくて、できるという確信でええと思とる。」


そうだ、期待するだけであれば相手にその期待を押し付けるだけだ。

そうではなく、期待するものは当たり前のようにできてしまうと考えるのが良い。

もしできなかったとしても、それはできるようになるための練習とする。

そうやって、若者は丈夫に育っていくのだと、ワシは考えている。


「そうか…宗玄も苦労をしてきたのだな。」

「人間の一生っちゅうんは短い。せやからこそ、次の世代につながんといかんとワシは思とる。」


そう、水神を含む色々な神様で、社会を形成している色々なものをメンテナンスしているらしい。

その中で他の神々と再開することもある。

そこの場でいいので、今回の世代の事、神代の孫たちの事を伝えて置ければと考えた。


「そろそろ目を覚ましそうだ。あちらを見に行ってやるといい。」

「せやな、分かったわ。」


そう言って、口にしていたたばこを、携帯ケースに収納する。

神代の孫が目を覚まし、天原の孫娘に話しかける。

その空間だけ、少し時間がゆっくり進んでいるように見えていた。


流石に二人とも疲れが出ていたので、運転は危ないと思い自分が運転手に名乗りを出す。

特に反対意見は無く、ワシの運転で帰ることになった。


水神と二人、またここで若者たちの模範であれと誓い合っていた。


—— 色々な経験をした世代が、現役世代の道しるべとなるべく、さらなる経験と知識を手に入れていた。


第75話『道標』でした。


今回は宗玄さんと水神による、いわば保護者会議のようなお話でした。


これまで若者たちの視点で描いてきましたが、その裏では見守る側にも色々な想いがあります。

若い頃は分からなかったことも、年齢を重ねることで見えてくるものがあります。

逆に、若い頃だからこそ見える景色もあります。

その両方が揃ってこそ、人は前に進めるのかもしれません。


また、水神から見ても宗玄さんから見ても、境は未だ理解できない存在として描かれています。

しかし、それは決して否定的な意味ではありません。


分からないからこそ見守る。

分からないからこそ期待する。


そんな関係性になっているのかなと思います。

そして宗玄さん。

結局、一番楽しそうだったのはこの人かもしれません。

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