継縁
大阪合宿編、真琴・梓・千鶴組のスタートです。
今回は古い商店街を舞台に、
人と人との繋がりに触れるお話となります。
歴史や怪異ではなく、
今も続く「人の営み」と「縁」。
そんなものを感じながら、
真琴たちは商店街を歩いていきます。
少しだけ大人の世界に触れる真琴の姿も、
楽しんでいただければ幸いです。
最初は電車で移動しようと思ったんだけど、結局車で移動することになった。
というのも、千鶴さんが一緒に行くなら、買い出しも兼ねたいという話をされて、荷物を考えると車でとなった。
大阪の市街地を運転するのは初めてなので、少し緊張している。
全国的に有名な話で、大阪での運転は難しいと聞いているからだった。
「あの辺は、特に運転が荒くたい人が多いで、気ぃ付けて運転しぃや。」
「え、そうなんですか?」
「多分、全国的に有名な話やと思うで。」
そう言われてみれば、確かにどの車も小さな隙間にスルっと入ってくる。
地元では、一台ずつ間に入れてもらえるような、暗黙の了解があるので、これはちょっと怖い。
「真琴さん、為せば成る、ですよ!」
梓ちゃんが謎の励まし方をしてくる。
思い切って行ってしまえってことだと思うけど、そこまでの度胸はない。
梓ちゃんが免許をとったら、怖いもの知らずで突撃するんだろうなと、少し思った。
恐々、大阪南部の街中を車で走ってみて思ったのは、意外となんとかなることだった。
恐らく、上手な人とそうでない人を見分ける能力が高い人が多いのだろう。
上手な人同士はスルっと入っていくのだが、私のように上手じゃない人は譲ってもらえたりする。
スルっと入っていくのが凄く速いので、慣れてない私達だと怖く感じたんだと思った。
「真琴ちゃん、お城の近くに駐車場あるから、そこに停めてもらえる?」
「はい、分かりました。」
千鶴さんの案内通り、お城の近くに複数のコインパーキングがあった。
その中でも、比較的広いところを選ばせてもらった。
比較的小さい車を借りたんだけど、慣れない土地だと、やっぱり少し怖かった。
車を降りて、国道としては少し小さめの道路を渡る。
そこから少しだけ歩くと、木造建築の商店が連なる商店街にたどり着いた。
ただまっすぐになっているわけではなく、少し曲がっているところもあり、出口までは見渡せない。
それがまたいい雰囲気になっている。
「今日はみんなの浴衣買うて帰ろと思てるから、大きめのカバン持って来たんよ。」
「え、サイズとか分かるんですか?」
梓ちゃんはいい意味でも悪い意味でも遠慮がない。
お家の関係で金銭感覚が違うんだろうけど、相手が千鶴さんじゃなければ止めてしまうところだった。
千鶴さん、宗玄さんのお屋敷を見ているから、あまり気を遣わなくていいのかなと思っているけど。
「みんなの普段着は私が選択してるからね。ちゃんとチェックしといたわよ。」
「下着のサイズとかも…?」
梓ちゃんの目が輝く。
どうも、自身のスタイルにコンプレックスがあるらしくて、お風呂での相手が大変だったりする。
今は女性同士でもハラスメント認定されるのに、遠慮がないというか、無邪気というかという感じだ。
「ちゃんと確認してるわよ~。最近の娘は発育もいいのねぇ。」
少しからかう様な笑顔をのぞかせながら千鶴さんが言う。
正直なところ、私自身も、梓ちゃんとは逆のコンプレックスがあるんだけど、と思ってしまった。
特に、浴衣とか和服となると、澪のスタイルが似合って羨ましく思うこともあった。
しばらく歩くと、少し大きめの、所謂、呉服屋さんにたどり着いた。
「まいど、元気してる?」
「あら、見ぃへん顔連れて、どないしはったん?」
「孫がお友達連れてきてねぇ。」
千鶴さんが軽く挨拶をすると、奥の方から女将さんらしき人が出てきた。
お得意様らしく、女将さんらしき人の話し方も、少し砕けた感じになっていた。
「ほんで、何か着せ替えしたくなったんちゃうの?」
「ようわかってるやん。」
あら、奥さん、みたいなポーズをとって笑いあっている。
女将さんも、千鶴さんとあまり年が離れていないように見えたので、付き合いも長いんだと思う。
「ほんで、この娘が一番しっかりしてそうだったから、連れてきたんよ。」
「え、あ、御影真琴です。」
そう言われて、私の事を紹介された。
ちょっと急な話の振り方だったので、少し慌ててしまったが無難に挨拶した。
「お嬢ちゃん、今は補正下着って便利なもんがあってな…ちょっとおいで!」
よくわからないのが、そのまま顔に出ていてらしく、女将さんに連れて行かれてしまった。
奥の方に試着室があるらしく、そっちでサクッと脱がされてしまう。
「えっ!ちょ…」
「これ、着けてみ!」
普通の下着よりも大きい範囲にわたる感じで、見たことの無いものだった。
「あんた、和装の下着のこと、知らんやろ?」
「え、そんなものがあるんですか?」
「せやで、あんたみたいにスタイルのいい娘のためのもんや、着けたるから、そこ立って。」
指定された場所に立って、言われるがまま、されるがままにしていた。
そうして、サンプルの浴衣を着せてもらうことになる。
着せてもらってから気が付いたが、帯がこすれていたかったりとか、そういったことがなかった。
専門の人に見繕ってもらう事の大事さを、こんな形で知ることになるなんて…。
「ほら、やっぱり似合うやん。」
女将さんの満足そうな表情を見て、少し恥ずかしくなった。
専門の人に、こういう風に褒められてしまうと、褒められなれてない私としは恥ずかしい。
「あー、真琴さん、いいじゃないですか!」
梓ちゃんが入口の方から走ってきた。
千鶴さんもそれに続いて歩いてくる。
「この娘、ええ素材やと思うんよ。」
「せやね、ちゅうことは、千鶴さんの後渡すつもりなん?」
「そうそう、それで連れて来てん。」
「なるほどね、分かったわ。」
後を渡すという意味が分からなかったけど、女将さんは何やら帳面に書き入れていた。
そこから名刺らしきものを渡される。
「和泉紀乃って言います。これからは千鶴さんと同じようにさせてもらうわ~。」
「これはご丁寧に…って、千鶴さん、どういうことですか?」
丁寧な挨拶だったので、流れるように名刺を受け取った。
だけど、その続きの言葉が流しきれなかった。
“千鶴さんと同じように”ってどういう事かと。
「真琴ちゃんが陽向ちゃんと仲がええのは分かってるでねぇ。せやから私の人脈の跡継ぎは真琴ちゃんに決めとってん。」
「え、あ、はぁ…。帰ってから、また詳しく話してくださいね…。」
陽向君もだけど、八坂家の皆さんは何事も唐突なんだろうかと、少し頭を抱えてしまう。
その反面、仲が良いことについては良く想ってくれていたことに、喜びも感じていた。
「そう言う事やから、真琴ちゃんの分はサービスさせてもらうわね。」
女将さんが、試着している浴衣についてはお近づきの印ということで、提供してくれることになった。
ただし、着ている姿を撮影して、サンプルとして紹介させてほしいと言われた。
そこまでおかしな話でもないかなと思ったので快諾したけど、どういう風に紹介されるのか、後々気になることになった。
「ほな、元の服に着替えて、次行こか。」
千鶴さんが女将さんに合図して、元の服への着替えも手伝ってもらった。
試着した服のほか、みんなの服も既に注文していたらしくて、帰りに受け取って行く旨を伝えると店を後にした。
今回は衝撃ばかりだったけど、改めて、千鶴さんの凄さを目の当たりにした。
そして、その一部を引き継いでもらえることに、嬉しさと同時にプレッシャーを感じることになっていた。
さぁ、次は何の店なのだろうと思いながら、再び、商店街を歩き始めた。
—— 格のある女性同士のやり取り、その姿に自分の将来を重ねていた。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
今回は商店街の老舗呉服店を訪れるお話でした。
歴史ある建物や文化財も魅力的ですが、
長く商売を続けているお店には、
また別の重みがあります。
そこには人と人との繋がりがあり、
長い年月をかけて築かれた信頼があります。
真琴が受け取ったものも、
浴衣そのものではなく、
そうした「縁」だったのかもしれません。
梓は相変わらずマイペースですが、
そのおかげで空気が柔らかくなっている気もします。
次回も引き続き商店街を巡りながら、
人々の暮らしや繋がりに触れていきます。




