生業
大阪合宿編、静流&野乃花組の続きです。
今回は、歴史ある街並みを歩きながら、
人々が受け継いできた技術や文化に触れていきます。
派手な出来事はありませんが、
そうした日常の積み重ねこそが、
今を形作っているのかもしれません。
静流と野乃花、それぞれの視点から感じる「街の息吹」を楽しんでいただければ幸いです。
しばらく街中を歩き、古都と言いたくなるような旧市街にたどり着いた。
旧市街とはいっても、江戸時代のようにエアコンがないということはなく、文明の利器はちゃんと活用されていた。
まず最初に向かったのは、過去に修験道の道場や寺子屋としても使われていた邸宅だ。
屋根の形など、最近の建物には見られない特徴があり、非常に興味深い建物だった。
建物の構造が今の建物とは大きく違っており、こういった構造物が好きな人間からするとたまらない。
決して大きな建物ではないのだが、当時の空気が漂っている気がした。
「静流くん、こういうの好きだよねー。」
「そうだね、温故知新って言葉が好きだからね。」
過去の技術を今に持ってくると、意外と精度が上がっていたりすることでメリットがあることが多い。
そういった、昔の人が感覚的に扱っていたものが好きなのだ。
論理的には非合理的であっても、そこに意味がある。
それが、自分にとってはロマンと感じるから、こういった場所に来れたことを嬉しく思った。
「ここはさっきの神社みたいなことはなさそうだね。」
「そだねー。嫌な感じは全くないよ。」
野乃花ちゃんも、こういったところは初めてらしく物珍しそうに色々見ていた。
そこから少しだけ歩くと、次の目的地にたどり着く。
こちらは、鍛冶場の跡地だった。
このあたりは所謂、“鉄砲”の産地としても有名で、そのまま街の名前についていたりする。
その特性からか、ここの建物は非常に大きなものになっていた。
そんなことは無いと思うが、火薬の香りがするような気がした。
もしかすると、建物や床に火薬のにおいが染みついているのかも知れないが。
「ここはなんだか不思議な感じがする~。」
色々と見て回っている野乃花ちゃんが、小声でつぶやいた。
嫌な感じではなく、不思議な感じという表現だ。
以前に彼女から“不思議”という言葉を聞いたのはいつの事かと思うくらい前だということを思い出した。
それくらい、不思議という言葉を遣わないのだが、今は確かに口に出していた。
「どう不思議なの?」
「何て言うか、火が騒いでる感じかなぁ…。」
「難しいけど、何か違和感があるというのは分かったかな。」
火が騒ぐと言われて、鍛冶にならないといいけどと思ってしまった。
結局、それらしいことは無かったが、その違和感があったという事実だけは残った。
さらにそこから少し歩くと、今度は名産ともいえる包丁に関係した施設があった。
こちらについては、今も現役で活動しているので、じろじろと観察するわけにもいかなかった。
ただ、鍛冶というものを目の当たりにできたので、俺もそうだが野乃花ちゃんが興奮していた。
「包丁って、真っ赤になるんだね~!」
「いや、鉄を鍛える時はみんな…」
はしゃいでいる彼女の邪魔をするまいと思いなおし、言葉を飲み込んだ。
しかし、実際に鍛えている現場を見ることができて幸運だったと思う。
「ここも特に違和感ない?」
「うーん、何となくだけど、火が喜んでる気がするよ~。」
「なるほど…」
いまいち意味が分からなかったが、何となく鍛冶師の腕が良かったのだろうということは分かった。
まるで火やそれを司る何かを感じているようにも思えたが、そんな話を聞いたことは無い。
なので、そう言ったものではなく、何だか勘のようなものを言っているのだと解釈した。
そこから少しだけ離れて、本日の中間地点としていた寺院が見えてきた。
特別大きな寺院ではないが、何やら謂れもあるらしく、有名なスポットではあるらしい。
「うーん、ここも何かふわっとするんだよね…」
野乃花ちゃんが微妙な顔をしながらお寺の方を見ていた。
体調が悪い感じというよりは、何かもやもやしているような表情に見えた。
「何か嫌な感じがする?」
「ううん、何となくふわふわするの。お布団の上歩くような感じかなぁ…、何だか眠い気さえするよ~」
違和感を感じているだけのようで、特に何か問題があるような様子ではなかった。
なので、特別気にするわけでもなく、野乃花ちゃんの中で整理できるのを待つことにした。
しばらくして、野乃花ちゃんのおなかの方から豪快な音が鳴ったので、一旦近所でお昼を摂ることにした。
近くを調べると、粉物のお店があった。
折角の大阪だということで、そのお店に入ることにした。
個人店だからか、こじんまりしているが、近所のおばさんのお店という雰囲気が良かった。
奥の方から、いかにもといった感じのおばさんが出てきた。
商売柄だけではないだろう、親近感の湧く笑顔でおばさんがメニューを聞いてきた。
「何食べる?」
「おススメありますか?」
「よっしゃ、ほな、おばちゃんが適当に作ってきたるわ。」
メニューを見る限り、特別高価なものは無かったので、お言葉に甘えることにした。
10分ほどで焼きあがったお好み焼きが出てきた。
こちらだと、テーブルにある鉄板で自分で焼くのかと思っていたのだが、焼き上げたものが出てきた。
多分、自分たちが慣れていないであろうことを見抜いて、そのまま出してくれたのだろう。
野乃花ちゃんは、大変お腹が空いていたのか、すぐにお好み焼きをパクついていた。
「今日は色々見てみたけど、何か気になるのあった?」
「最初の神社くらいかなぁ…、他のところは不思議な感覚はあったけど、怖いのは無かったよ~。」
お行儀が悪いのだろうが、モグモグしながら話を続けていた。
やはりと言えばいいのだろうか、最初の神社以外に不穏なものは無かったらしい。
そうそうあっても困るので丁度良かったと思った。
宗玄さんは街を見ることで、そこで息をしている文化を見てこいと言いたかったのだろう。
実際に色々と歩いてみると、昔からそこにあった何かを感じることができた。
先日、境が感じたような視線もなく、実質、二人で観光したような形になっていた。
ここからは少しばかり離れた所に行くため、路面電車の駅から向かう予定になっていた。
「さて、ちょっと遠いけど、宗玄さんに進められた公園があるから行ってみようか。」
そう言って、路面電車の駅まで歩き、そこで路面電車を待つことになった。
少し暑いなと、最初は思ったが、これも風情がるなと思いつつハンカチで汗をぬぐっていた。
—— 過去の生活が、今に生きる二人の芯の部分にしみこんできていた。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
今回は旧市街を巡るお話でした。
古墳や神社といった歴史的な場所も魅力的ですが、
鍛冶場や包丁職人、お好み焼き屋さんなど、
今もなお人々の暮らしの中で息づいている文化もまた、
同じくらい価値のあるものだと思っています。
野乃花が感じていた「火が騒ぐ」「火が喜ぶ」という感覚も、
彼女なりの世界の見方なのでしょう。
静流は理屈で世界を理解しようとしますが、
野乃花は感覚で世界を受け取ります。
正反対のようでいて、
意外と相性の良い二人なのかもしれません。
次回は路面電車に揺られながら、
少し離れた場所へ向かいます。
静かな旅路がどのような景色へ繋がるのか、
楽しんでいただければ幸いです。




