積層
大阪合宿編、静流&野乃花組スタートです。
今回は「歴史」と「積み重ね」がテーマのお話になっています。
町並みを歩きながら、
人が残してきたものや、時代の流れを感じてもらえれば嬉しいです。
静流視点ならではの、
少し静かな空気感を楽しんでいただければと思います。
陽向や境と別行動になるとは思っていなかった。
今回は勉強会という名の合宿のつもりだったので、宗玄さんのお宅で修行三昧かと考えていたからだ。
ただ、幸い、同行するのは野乃花ちゃんなので、普段と変わらずやりやすいと思う。
朝一から、野乃花ちゃんの寝癖がおさまるのを待って、出かける準備を始めた。
野乃花ちゃんの髪の毛は綺麗なのだが、髪質の影響か、寝起きの髪型は大変なことになり易い。
自分自身の身だしなみも気にする方ではあるが、そのあたりが適当な野乃花ちゃんのフォローも気になる。
一時間近くかけて準備が完了した・
宗玄さんのお宅を出て二、三分歩くとバス停に到着する。
そのバス停からJRの駅まで出ると、後は目的地まで電車一本だった。
目的地の駅を降りると、近くに古墳があるらしいので最初はそこに寄ることにする。
「静流く~ん、待って~」
物珍しくて前ばかり見ていると、いつの間にか野乃花ちゃんと少し離れてしまっていた。
そこまで身長差があるというわけではないが、どうも俺は歩くのが早いらしい。
仲間内では一番背の高い陽向でさえ、同じスピードで歩くのを嫌がってしまうくらいだった。
「もう少しスピードを合わせてくれてもいいんじゃないー…?」
少し息を切らせながら野乃花ちゃんが追い付いてきた。
駅を降りてすぐにはぐれてしまうと、お互いを探すのに苦労してしまいそうなので、ちゃんと見ておくべきだったと思う。
駅から少し歩いたところに、全国的にも有名な古墳群がある。
昔から来てみたかったスポットだったので、宗玄さんのチョイスに心の中でガッツポーズしていた。
色々な資料で見る時は、ほとんどが航空写真で全体像が見えるようになっているのだが、現地で見ると森でしかなかった。
その壮大さに感動さえ覚えるくらいだった。
「野乃花ちゃんは、こういうのに興味ある?」
「うーん、何となく空気が綺麗なところだなーって意味では、好きだよ。」
「立地的には排気ガスで大変な気がするんだけどね…。」
「そう言うのじゃなくて、神社とかみたいな空気?」
「なるほどね。野乃花ちゃんらしいね。」
野乃花ちゃんは、こういった、いわゆる神聖的な、神秘的な雰囲気のある空気を感じるタイプだった。
特別なところだけではなく、森の中の光が射すスポットとか、何か謂れのあるスポットなどでも同じ。
その不思議な雰囲気も相まって、不思議ちゃんという感じで認識されることが多い娘である。
「こうしてみると、全体像が見える世の中ってのは凄いもんだね。」
「そうだよね~。鳥さんになったらいっぱい見れそうだけど。」
「いや、今はヘリとかでも見られるよ。」
思わず突っ込んでしまったのは、大阪の魔力というやつだと思う。
確かに、色々な歌手の詩に鳥になって色んなものを見るシーンがあるが、それを素で言ってくるのは彼女くらいだろう。
ただ、確かに、偶に鳥になって大空から色んなものを見下ろしたい気分になることがある。
ここも、そういった印象を持つきっかけになり易い場所なのかなと思った。
「だけど、ここには嫌なものは無いね。」
「そうだね。こんなにキラキラしたところに、変なものがいると困るもん。」
キラキラというのは何だろうと思ったが、聞いてしまうと余計に混乱しそうなのでそっとしておいた。
しばらく古墳のあたりを歩き、土産物屋に入った。
下調べはしていなかったのだが、“古墳クッション”なるものを見つけてしまい、一目ぼれした。
かなり高価ではあったが、迷うことなく購入してしまったのは言うまでもない。
そうして、古墳を後にして近くにある神社に向かう。
こちらは念のために立ち寄った程度だが、思ったよりきれいでびっくりした。
古墳の事を考えると、こちらも森のようになっていると思っていたからだ。
新しい神社ではあるが、由緒正しいところらしく、古い神社とそん色ないレベルの荘厳さがあった。
「方違え…ね…。」
そうつぶやいたときに、四方八方からの視線を感じた気がした。
明らかな敵意ではないが、異物を見るような視線だ。
緊張するというレベルではないが、違和感を感じるには十分だった。
「静流くん、口に出すと言霊になるよ~。」
その様子を感じてか、野乃花ちゃんがフォローを入れてくれた。
その言葉によって、先ほどの視線は霧散していた。
こういうのも、野乃花ちゃんの不思議の一つである。
不思議ちゃんというのは二通りの意味があったことを知ったのは、割と最近になってからだった。
「このあたりの空気も綺麗な感じがするんだけど、その中に黒いのが混じってたりするんだよね~。」
「それがさっきの言霊で呼ばれたってこと?」
「そうだねー。その通りだと思うよ。」
そう言われてから、不用意な発言には気を付けておくべきだなと思った。
しかし、単純に土地の事を口に出しただけで、あんなことになるというのは予想外だった。
場所柄なのか、地域柄なのか、それともたまたまだったのかはわからない。
ただ、一瞬、空気が張り詰めたことは間違いなかった。
神社の中を見回っていると、丁度結婚式をやっていたようで、奥の方から新郎新婦が歩いてきた。
綺麗な神社に、新婚さんが歩いているというだけで、十分絵になる風景だった。
「いいよねー、憧れるなぁ…。」
新婦を見ながら、野乃花ちゃんが呟いた。
やっぱり年頃もあってか、ああいうものに憧れるのだろう。
それは理解できるのだが、このタイミングでその話はしにくいものがあった。
「静流くん、この後ってどこに行く予定なの?」
「近くに“旧市街”って言われてるエリアがあるから、そっちを見に行く予定になってるよ。」
「わかったー。」
神社を見て回って、十二分人堪能したところで次の目的地へ向かった。
目的地とはいっても、旧市街を歩くことが目的なので、交通機関を使わずに歩くことにした。
何だかんだ言って、普段から歩くようにしておいてよかったと、この時は腹の底から思えた。
—— 時代の変遷、それがこの旅を彩るものとなっていた。
【後書き】
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
今回は、某古墳やその近くの神社など、
実際に存在する場所をベースに描写してみました。
現地へ行くと、
「歴史的建造物を見る」というより、
“時間が積み重なっている場所に立っている”
感覚が強くて、とても印象的なんですよね。
静流と野乃花の組み合わせは、
派手さは少ないですが、
その分、空気感や会話の温度を大切にしながら描いています。
次回からは旧市街側へ。
少しずつ、「人が積み重ねてきた時間」の奥へ進んでいきます。




