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問心

いつもお読みいただきありがとうございます!


今回は、陽向たちが修験道側へ本格的に踏み込んでいく回となっています。


ただ修行をするだけではなく、

“自分はどう在りたいのか”

“何を背負っているのか”

といった、それぞれの本質に触れていくような流れになりました。


特に今回は、陽向と朔弥、それぞれの性質の違いを意識して書いています。


山寺独特の空気感や、修験道ならではの雰囲気も感じていただければ嬉しいです。


それでは、第61話『問心』をお楽しみください!


泰源さんを先頭に門をくぐる。

何か特別なものがあるわけではないのだが、門の向こうは少し世界が違うような気がした。


門をくぐってすぐのところに休憩所があり、少し休むことができるようになっている。

そこで休むのもいいのだろうけど、石段がずっと続いているようだったので、休まず進むことにした。

ここで休んでしまっては、いつたどり着くかわからないかも知れないと思ったからだ。


先に進むにつれ、どんどん道は険しくなっていく。

泰源さんや俺は、神事の関係でこういった状況にも慣れているから良いが、朔弥は少し厳しそうだった。

山歩きに近いものがあるので、それなりにコツのようなものを分かっていないと、無駄に体力を使うことになる。


しばらく進むと弘法大師ゆかりの石碑が見え、さらに先に進む石段が見える。

小さな祠があったので、一旦そこで息を整えることにした。


「朔弥君は大丈夫か?」

「はい、大丈夫です。」

「まだ、少し先があるから、一旦ここで息を整えて行こか。」


歩きなれている泰源さんは呼吸一つ乱れていない。

こちらも息が乱れるというほどではないが、少し呼吸が早くなっていた。

朔弥に至っては、肩で息をするような状態だ。


「陽向君は大丈夫やろうから、朔弥君の息が整ったら行こか。」

「こっちは心配してもらえんのですね。」


そう言って笑っていると、泰源さんに脇腹を突っつかれた。

くすぐったくて身をよじると、石段で躓きそうになる。

気が付いていなかったが、こちらも疲れは溜まっていたようだ。


「しかし、弘法さんって、どこにでもおる気がするなぁ。」

「確かに、各地を回ってらしたから、あちこちに記念碑みたいなんがあるからな。」


弘法大師・空海。

密教の祖と言われる彼の人だが、我々神道の人間からしてもゆかりのある人物だ。

特にうちの家系は神仏習合に重きを置く家系なので、考え方的にも近しいものがあった。

その名を刻んだ石碑があるということは、何らかの狙いがあって、ここに来るように言ったのだろう。

祖父は、そういうことを具体的に言ってはくれないが、考えなく指示を出す人ではない。


朔弥の呼吸も落ち着いてきたところで、再度石段を進み始めた。

山門から先ほど休憩したところまでの、おおよそ倍くらいの距離を歩いたところで本堂にたどり着いた。

その本堂の近くで、作務衣を来た老人が掃除をしていた。

近付かなくても分かる異様さ。見た目通りの普通の老人ではないだろう雰囲気が漂っていた。


「おぉ、お客さんとは珍しい。」

「隆玄さん、ご無沙汰してます。」


泰源さんが丁寧に頭を下げて挨拶をしていた。

雰囲気的に、泰源さんの方が少し若いので、過去にお世話になったというところだろうか。


「初めましての若者もおるねぇ。」

「はい、初めまして、八坂陽向って言います。」

「鬼塚朔弥です。」


こちらに笑顔を向けてくれたので、反射的に自己紹介した。

朔弥も同じように緊張していたのか、自分の名前を告げるだけで精いっぱいだったようだ。


「これは丁寧に。私は津守隆玄。ここの住職をやらせてもろてます。」


案の定、この寺の住職だった。

しかし、泰源さも風格漂う、大物感のある人だが、この隆玄さんは遥か高みに居る感じがした。

うちの祖父も、人脈含めて只者ではない感じがあるが、それともまた違う。

祖父はこの人に合わせることが目的だったのだろうということは、一言言葉を交わせばわかった。


「二人とも、ちょっと不安定なんやなぁ。ちょっと話しよか。」


そう言って、隆玄さんは本堂の裏手にある庫裏の方に向かっていった。

年のころを考えると八十を過ぎているだろう。九十と言われてもおかしくない。

そんな人なのに、背筋はまっすぐに、足場の悪いところを草履でこともなげに歩いて行った。


庫裏に来客用の居間があり、そこに通された。


「今日は妻が買い出しに行ってるから、緑茶くらいしかないわ~。」


柔らかい雰囲気で、水屋から人数分の湯飲みを取り出す。

急須はポットの横にあったので、それでお茶を淹れてくれた。

頂いたお茶はなんだか苦みだけではなく、甘味もあり、落ち着く味だった。


「さぁて、宗玄坊の手配やろ?」

「はい、宗玄は別に気になる子がいるらしく、そちらに同行したようです。」

「あぁ、あっちの方が重要やから、それで正解やな。」


少し遠い目で、何かを確認するように頷いていた。

何かが見えているというよりは、何かと通じているという雰囲気だ。


「境のことも知ってはるんですか?」

「いやぁ、名前は分からんよ。せやけど、ここまで色んなものが騒めくと、嫌でもわかるわなぁ。」


やはり、何かを感じていることは確かなようだった。

境自身の事は何も知らないようだが、境が近くにいることで何かが起こっているらしい。

隆玄さんにはわかるが、他の人は未だわからないという状況だと思われた。


「で、本題は、宗玄坊の孫ちゃんやな。自分はどう在りたいとか、どう在るべきって考えとる?」

「え…いえ、そこまで深いことは…」

「せやわな。そうなるにはまだ若いわな。」


質問の答えも予想した通りといった感じだ。

隆玄さんの見ているものが、まだわからなかった。


「自分…陽向君は、神仏習合派やな?」

「ええ、うちの家系的にもそうですね。」

「で、自分自身も、もめるよりは和解したい、全ては譲り合えると思っとると。」

「…深く考えたことは無いですけど、言われればその通りやと思います。」

「うちの方で、少しだけ修行して行き。その“落としどころ”ってのが何か、何となくでも分かってくると思うわ。」

「…はい、お願いします。」


言われてみてから初めて気が付いたが、確かに、大概の事は“揉めんでもええのに”と思ってしまう節がある。

どちらにも言い分があるから衝突するんだから、言葉を尽くせば何とかなると考えているのも確かだ。

それができなくて悩んでいるというのもある。

どんな修行かまでは分からないが、この人であれば、心の中にあるしこりのようなものを取り払ってくれるのではないかと思った。


「さて、もう一人の方やね。自分は、怒ったり、悲しんだりが多い感じやなぁ…」

「あ、はい、そうなんですかね…?」


朔弥の頭の上にクエスチョンマークが漂っている。

表現があいまいでよくわからないと言ったところだろう。


「子供が迷子になってるときとか、ちゃんと見てない親への怒りと、その子を宥められない悲しみが同居したり見たいなことないか?」

「あ!確かに、そんな感じの事はよくあります!」

「せやな、その辺が自分の家系が背負ってるものの影響やな。」


隆玄さんが“背負っている”という言葉を選んだのが気になった。

それも個人ではなくて家系の話をされている。

色々と複雑な事情が絡み合っていることは分かったが、そこの知れない人だということも分かった。


「ほんなら、ぼちぼち本堂の方に行きましょかね。」


これからが本番といったところのようで、立ち上がって本堂の方に向かう。

先ほどの言葉の意味と、その先に進むための方法が分かるのではないかという期待を胸に、隆玄さんの後をついて行った。


—— 自分たちのルーツと、その本質が、この先に続いているという確信を感じていた。

第61話『問心』でした!


今回は、修験道ルート最初の“対話回”という形になりました。


タイトルの『問心』には、

“自分の心を問う”

という意味を込めています。


今回、隆玄さんがやっていたのは、能力を教えることではなく、“どう在るか”を問いかけることでした。


陽向は、争うよりも調和したい。

朔弥は、怒りだけではなく、その奥に悲しみも抱えている。


二人とも、自分では明確に認識していなかったものを、少しずつ言葉として理解していく流れになっています。


また、今回は修験道や神仏習合の考え方も、少しだけ強めに入れています。


神道と仏教。

対立するものではなく、共に存在してきたもの。


その空気感は、陽向というキャラクターともかなり相性が良かったので、書いていて楽しい回でした。


そして、隆玄さん。


宗玄さんとはまた違った、“山側の人”という空気感を意識しています。

人というより、長い時間を山で過ごしてきた存在のような雰囲気ですね。


次回からは、いよいよ修行側へ踏み込んでいく予定です。

山の空気と、そこで見えてくるものを描いていければと思っています。


引き続き、よろしくお願いします!


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