修門
いつもお読みいただきありがとうございます!
今回から、それぞれのグループが別々の場所へ向かい始めます。
まずは陽向たちの修験道ルートから。
今までは全員で同じものを見て、同じ空気を感じることが多かったのですが、ここからは“それぞれに合った場所”へ進んでいく流れになります。
山へ向かう道、古い祠、修験道の寺院。
少しずつ空気が変わっていく感じを楽しんでいただければ嬉しいです。
あと今回は、久しぶりに陽向と境のゆるいやり取りも多めです(笑)
それでは、第60話『修門』をお楽しみください!
女子の会話に混ざったおかげか、その夜は変な夢を見た。
姐さんが女子高生三人組に追いかけられる様子をライブ配信で見るという謎の夢だ。
確かに、昨日の夜は姐さんと野乃花ちゃんが女子高生+1名に襲われていたが…。
そんな夢を見てしまったからか、早朝に変な汗をかいて目を覚ましてしまった。
「いや、もう、女子のパワーはよくわからんわ…。」
独り言を呟いきながら浴場に向かう。
結構気持ち悪く感じるくらいに汗をかいていたから、流しておこうと思った。
悪夢ももちろんだが、何となく緊張しているんだと思う。
浴場に入ると、先客がいた。
境だ。
相変わらず、温泉というか大きな浴槽が好きなようだ。
このあたりは、最初にあったころから変わらないなと、少し安心できる部分だった。
「早いなぁ、境も悪い夢でも見たんか?」
「“も”って、何か悪い夢でも見たのか?」
「昨日の夜の延長戦みたいな悪夢やったわ…」
「それは大変そうだな…」
いつも苦労しているはずの境にまで同情されてしまい、更にダメージを受けてしまった。
「陽向の方は泰源さんと行くんだよな?」
「せやな、十何年ぶりに再会したとこやのに、爺ちゃん厳しいわ~。」
「そうは言っても、傍から見る限りはいつもあっている近所のおじさんみたいな感じになってたぞ。」
「その辺は、俺の特技やな。」
「間違いない。」
そんな話をして、お互い笑いあっていた。
こんな感じで、ゆっくり話すのは久しぶりだった気がした。
結ちゃんの一件以来、慌ただしい毎日を過ごしていて、色んな意味で余裕がなかった事を思い出した。
「また、いつもの六人で温泉旅行に行きたいな。」
「せやなぁ、ちょっと遠くの温泉、関東や関西とちゃうところ選んでみたいわ。」
何となく、境と二人で約束した気分になっていた。
お互い同じ感覚だと思ったので、明確な言葉を交わすことはしなかった。
浴場を後にして、二人で居間の方に向かった。
今にはすでに祖父母が座ってお茶を淹れていた。
「おう、二人とも早いな。」
「嫌な夢見てん…。」
何となく雰囲気を察してくれたのか、祖父はそれ以上深掘りしてこなかった。
そんなことをしている間に、祖母が車のキーをとってきた。
「境君はワシと行くからええけど、陽向の方は泰ちゃんとこに迎えに行ってくれるか?」
「かまへんけど、何時って言うてるん?」
「九時くらい言うてるから、まだ余裕はあるで。」
「ほな、朝飯食ってから行くわ。」
今がまだ七時半なので、車の準備とかを含めても一時間ほどの余裕があった。
朔弥と礼音はこちらに来ても相変わらず朝が弱く、そろそろ起こさないとと思っていた。
と、思っていたところに、梓ちゃんにたたき起こされたであろう朔弥が、耳をつかまれて居間に入ってきた。
「ちょ、痛いって!」
「いつまでも寝てるからでしょ、陽向さんたちを待たせないの!」
完全に尻に敷かれている。
交際しているという話は聞いていないが、実際のところは、それに近い関係であろうことはみんな知っている。
この様子が、そのまま将来の構図なのではないかと思うと、笑いが込み上げてきた。
「ええって、梓ちゃん…」
「いいえ、朔弥君はもうちょっとしっかりしないといけないと思うんです!」
「まあまあ、とりあえず、飯食って準備しよや。」
怒っている梓ちゃんをなだめながら、朔弥に朝食を済ませるように促す。
そうしている間に車に荷物を詰めておいた。
朔弥の朝食が終わったころに、こちらの準備も完了したので、梓ちゃんに声をかけて朔弥の準備も整えた。
「この車も好きなんですよ。」
祖父に準備してもらった車を見て、朔弥が少し興奮気味に言ってきた。
境の車と同じメーカーで、走行性能の高いステーションワゴンとして非常に有名な車だ。
サイズ感と言い、乗り味といい、丁度いい車だった。
世間的にも、ステーションワゴンの完成形はこの車だろうという評価が多い。
朔弥を後部座席に乗せて、泰源さんの自宅に向けて出発する。
十分程度で神社の横に建てられている、泰源さんの自宅に到着した。
出発時に祖父から連絡を受けていたのか、泰源さんは入口の前に立っていた。
「おはようございます、今日はよろしくお願いします。」
「そう固くなりな、もっと軽い感じでええよ。」
朝一の挨拶だったせいか、ガチガチに緊張しているような雰囲気だったので、泰源さんが気を遣ってくれた。
泰源さんの荷物をラゲッジに積み込んで、助手席に案内する。
ドリンクホルダーにコーヒーを載せて、すぐに出発した。
「今日は、西方三十三か所に選ばれてるお寺やって聞いてますけど、隣町のですよね?」
「せやな、修験道とかに明るいお寺があるみたいやから、そこで陽向くんたちは修行してもらう感じやね。」
「そんなに、すぐにモノになるもんですか?」
「まあ、修験道を修めるというよりは、修験道を通じて今まで経験したものを再確認する意味あいが強いみたいやね。」
そこまで言うと、俺の方から朔弥の方に視線を移した。
朔弥はこちらの修行と異なる、別の思惑があるようだった。
「朔弥君は、怒ったら止まらなかったりせえへんか?」
「はい、よくご存じで…」
「そう言うのの整理というか、完全習得に利用するのもええらしいねん。」
「精神修行みたいなものですかね?」
「せやせや、心を落ち着かせたまま色んな事ができるように、って感じやな。」
泰源さんは、目的のお寺につくまで、そのお寺の事を色々説明してくれた。
修験道の話や、俺の場合はその修行で期待できる、今までオトンに教えてもらった色んな修行の話。
朔弥の方は、若さゆえに感情のコントロールが弱いので、そのコントロールを身につけるコツの話。
それ以外にもいろいろな話をしたのだが、祖父が乗っている車の癖についての話が一番興味深く聞けた。
お寺に近付いてくると、市街地から山道のようなところに進んで行く。
整備されていないわけではないが、起伏は激しく、道幅は狭い。
そんな中、小さな祠が目に入った。
「あの祠、気になりません?」
「せやな、恐らくは“入口”みたいなもんやろ。」
「なるほど、境界みたいなもんですか。」
小さな祠であるが、強い存在感を感じるものだったので少し聞いてみた。
泰源さんの言葉は自分の期待する内容だったので、一層身の引き締まる思いだった。
そこから少し、山道を走り続けた。
そして、泰源さんの自宅を出て一時間と少し経っただろうか。
目的となるお寺に到着した。
駐車場も何も完備だったので、そのまま受付の方に進んで行った。
—— その寺の姿は、“待ち構えていた”という言葉が最も似合うものだった。
第60話『修門』でした!
今回は、陽向・朔弥・泰源さんの修験道ルート導入回となりました。
タイトルの『修門』には、
“修行の門”
“山へ入る入口”
“新しい境界”
といった意味を込めています。
今回描きたかったのは、“空気が変わる瞬間”でした。
最初はいつもの日常。
女風呂トークの延長戦みたいな夢を見たり、朔弥が梓ちゃんに引きずられてきたり、比較的いつもの空気感で始まっています。
そこから少しずつ、
山道に入り、
祠を見つけ、
“入口”を意識し始める。
この“日常から向こう側へ滑り込んでいく感じ”を意識して書いていました。
また、今回は陽向視点だからこその軽さも出せたかなと思っています。
境視点だとどうしても空気が重くなりがちなので、陽向がいることで少し柔らかくなる感じですね。
そして、泰源さん。
宗玄さんとはまた違った、“導く側”の空気を少しずつ出せてきた気がしています。
次回からはいよいよ修験道側へ踏み込んでいく予定です。
山の空気や、そこで感じるものも含めて描いていければと思っています。
引き続き、よろしくお願いします!




