白闇
いつもお読みいただきありがとうございます!
今回は、前回の古書回から続く形で、それぞれが得た感覚や変化について整理していく回となっています。
大阪での合宿も中盤に入り、少しずつですが、全員に変化が現れ始めました。
特に境については、“見える”というより、“感じる”側へ一歩踏み込んだような内容になっています。
結との距離感も少し変わってきており、今後の展開に向けて、静かに空気が変わり始めているような回になったかなと思っています。
そして後半では、次の目的地についての話も出てきます。
海、神社、商店街、古書と来て、次は“水”の気配が強い場所へ。
それでは、第57話『白闇』をお楽しみください!
翌朝、比較的早くに全員が目を覚ましたので、先日と同じく瞑想を行うことになった。
先日よりも早い時間で、少しだけはあるが涼しい朝だったので、集中力も上がるだろうという話になって、朝食前に全員で瞑想に入ることになった。
前回と同じ配置で瞑想を始める。
昨日の件があったからか、現実世界から遠ざかるのが早く感じた。
何もない闇の中で、心の中に波紋のようなものを感じる。
その波紋の届いた先に、浴場で感じたものと同じような存在があることを認識できた。
自分の中で何か整理できたのだろうか、はたまた、波紋の先の存在がこちらに近付いたのだろうか。
いずれにせよ、それらは先日からずっと、自分の近くにいたのだろうと思われた。
それと共に、不思議な安心感や懐かしさを感じて、瞑想の闇は黒いものではなく、白い闇となっていった。
その白い闇のずっと遠くの方に、恐らく結ではないかと思われる存在も感じることができるようになっていた。
相変わらず、何を言おうとしているのか、伝えようとしているのか、ハッキリと認識することはできない。
ただ、結の方から何か警告染みたものが届いていた。
もっと遠くへ、そう意識を広げて行っていたところ、陽向と静流の声で現実世界に引き戻された。
「何ともないか?」
「随分、深く瞑想していたようだけど、何かつかんだ?」
心配する陽向と、その様子から何かを得たと思った静流。それぞれらしい状況理解だなと思った。
「ああ、大丈夫だ。何となくだが、自分の周りにいる存在というか、そういうものを感じられるようになったみたいだ。」
「それって何なんや?」
「そこまでは分からないが、どうも荘厳という言葉が似合いそうな印象があるな。」
自分自身も、それが何かはっきりとは分からなかった。
ただ、そのあたりの心霊的なものではなく、もっと大きな雰囲気を纏ったものだった。
視界の端には結らしき存在もあったので、色々な謎の真相に近付いているような気がしていた。
「境君も、何となく掴んだみたいやな。」
宗玄さんが少し満足そうに声をかけてきた。
教えてくれる人が満足そうにするというのは、思いのほか嬉しいものだった。
「境さん、何か見えてますよね?」
不意に、澪から質問されて、鳩が豆鉄砲を食ったようになってしまった。
ハッキリと“見えて”ということを言ってきたのだ。
自分の事については色々と詳しいのは分かっていたが、ここまで見抜かれると背筋に冷たいものを感じた。
傍から見て、尻に敷かれそうというのはこういったタイミングで使う言葉だろう。
「見えてというのが正しいかは分からんが、イメージしていることは恐らく正しいと思う。」
「後で少し詳しく教えてくださいね。」
何かを見抜けて嬉しかったのか、少し上機嫌で女性陣の中に戻っていった。
全員の意識がはっきりしたところで、朝食を摂りに居間に戻っていった。
居間で全員が席に着いてから、今日時点での成果について話をすることになった。
先ずは、陽向から。
陽向は、今までよりも八百万の神々を近くに感じることができるようになったらしい。
近くにある自然全てに溶け込むような錯覚を覚えるレベルとのことだった。
それによって、霊的なものを触覚で認識できるようになってきた気がすると語っていた。
次に静流だが、こちらは視界に入っていないものでも、気配を感じることができるようになってきたそうだ。
まるで武術の達人のようだが、本人曰く、威嚇することも可能な気がするとのことだ。
「二人とも、何かの達人みたいねぇ。」
「そうだね~、気配斬りとかって、コントみたいなのもあったよね~。」
素直に武術的な面で監視する真琴さんに対して、どこかで見たコントを思い出した野乃花ちゃん。
このあたりも性格がよく出ているなと、そして、こんなに感性が違っても仲良くできるのは良いなと思った。
続けて、礼音と朔弥が話し始める。
礼音は、視界にあるもので目に見えないものを、オーラのようなもので抑え込むことができた感じがすると言っていた。
朔弥の方は、自分の内側にある熱さを抑え込み、近くにある何か不思議な感覚があるものを取り込んだような空気があったそうだ。
二人とも、若さの分だけ感覚的なところを言葉にできない様子だが、何かをつかんだのは確かなようだった。
「朔弥君、ちょっと危なっかしい感じがするから、ちゃんと見ててあげるね。」
「礼音君も、結構無理してそうだから、気を付けて…。」
梓ちゃんが朔弥の世話を焼きに行っている。
昔からだが、まるで姉と弟といった雰囲気があって、見ている側を飽きさせないコンビだなと思っていた。
逆に、明るくて爽やかな礼音に、一見冷たそうな美人だが、実は心配性な澄玲ちゃん。
こちらは、若いねぇと声をかけたくなるような甘酸っぱさを感じる二人だった。
青春を感じたければ、二人の様子を眺めているだけでもいいのではないかとさえ思う。
朔弥が危なっかしいのは昔からだし、礼音が頑張りすぎて疲弊するのもいつも通りだと思った。
ただ、それぞれに、ここに来て新しく感じるものはあったようなので、合宿の成果は出ているなと感じた。
そして、最後に自分の出番だった。
「自分は、今まで不思議な偶然と出会いにくかったのは、所謂、守護霊的なものが、もっと大きな“何か”だったからじゃないかと感じた。」
「どういうこっちゃ??」
自分の言葉の意味を図りかねたのか、陽向が間の抜けた声を出した。
我ながら、語彙力というか表現力が足りないなと反省するポイントだった。
「何て言うか、守護霊が神様的なものを含んでいるんじゃないかって感じなんだ。」
うまく表現できないが、昨日は浴場で、何となく神様に囲まれているような雰囲気さえ感じていた。
月明りの中、浴場が絵画になりそうな雰囲気になっていた。そんな中で感じた感覚だった。
「せやな、それでええと思うよ。まだはっきりと輪郭が見えてきたわけちゃうからな。」
そう言って陽向や静流の方を向く。
これ以上深掘りしても効果がないということを目配せで伝えていた。
「で、それだけちゃうやろ?」
「ええ、自分も結の声が、少しだけはっきり聞こえるようになってきました。」
結の名前を出した瞬間、メンバーたちが硬直した。
ここしばらく、結と遭遇するようなことがなかった。
遠くまで来ていることもあり、こちらまでは結も追いかけてこれないと考えていたのだ。
「結ちゃんは何て言ってきたんですか?」
「ああ、自分が“認識されている”というのと、“狙われている”ということを伝えられた。何やら心配されているようだったが。」
「狙われているって、何か不穏な話ですね…。」
不穏なのは間違いないが、先日、静流の家の別荘に行ったとき、こちらを窺っている存在がいたのを覚えている。
これらが、自分の事を認識して、狙っているというのであれば、辻褄が合う気がしていた。
「せやな、境君の方から色々なもんがおるさかい、ちょっと水場の方へ行こうと思とるが、構わんかね?」
「水場ってどこ行くねんな?」
「ああ、ダムの方に行こうと思っとる。カブトムシもたくさん採れるで?」
「よっしゃ!…ってわけないやろ!」
流石関西人、ノリ突っ込みというやつの見本を見せられた気がした。
ここまでで、一通りの話が終わって、宗玄さんが言うようにダムの方に向かおうということになった。
海に近い町から、山の方に進んで行く。道路が少し狭いという話を聞いているので、ある程度より小さい車でないと気になるな。
そう思いながら、ダムへの旅準備を始めていた。
—— 水の底に沈んだものが、まだそこに残っている気がしていた。
第57話『白闇』でした!
今回は、いわゆる“中間報告回”でした。
それぞれが、この数日間で何を感じ、何を掴み始めているのかを整理するような回になっています。
ただ、単純な説明回にはしたくなかったので、瞑想中の空気感や、少しずつ変化していく“向こう側”との距離感を意識しながら書いていました。
特に今回の「白い闇」という表現は、自分でもかなり気に入っています。
普通なら闇は黒いものですが、境にとっては“恐怖”ではなく、“包まれる感覚”に近付き始めているのかなと思っています。
また、結との距離感も少しだけ変化しました。
まだ完全な会話が成立しているわけではありませんが、“届く”感覚そのものは確実に強くなっています。
一方で、最後は少し不穏な方向へ。
次回からは、水に関係する場所へ向かう予定です。
ダムや沈んだ土地というのは、それだけで独特の空気がありますよね。
その辺りも、この作品らしい空気感で描ければと思っています。
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