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読境

いつもお読みいただきありがとうございます!


今回は、前回持ち帰った古書を読み進める回となっています。

少しずつ、“向こう側”との距離感や、境たちが置かれている状況の輪郭が見え始めてきました。


とはいえ、まだ全てが明らかになるわけではなく、断片的な情報や違和感を積み重ねるような内容になっています。

古書独特の空気感や、不穏さのようなものを楽しんで頂けると嬉しいです。


また、後半では久しぶりに結も登場します。

彼女の言葉が何を意味するのか、そのあたりも含めて読んで頂ければと思います。


それでは、第56話『読境』をお楽しみください!

古本屋から宗玄さんのお屋敷に戻る際中、先ほど受け取った本の表紙を眺めてみた。

確かに古本ではあるのだが、よほど大切にされたのか、紙が風化したりというところは見受けられなかった。

表紙にある漢字を見る限り、少なくとも明治以前のものということは確かだと思われる。

そんな本が、ここまできれいに維持されているということに、少し感動さえ覚えた。


「そんなに焦らんでも、ウチに帰ったら皆に見せるでよ。」


少し楽しそうにこちらの様子を窺いながら、宗玄さんが言った。

自分はもちろん、静流も気になっているようで、チラチラとその本の方を見ていた。

そうこうしているうちに、いつの間にかお屋敷の前まで戻ってきていた。


居間に戻ってきたところで、宗玄さんが持って来た古書をテーブルに並べた。

それぞれが別の本で、続き物でないことは並べてみると一目瞭然だった。

読めない漢字も多かったが、「世界の創生について」といった内容の本、「その時代の時事」が記された本がほとんどだった。

一つだけ、「各国の名所」といった本があったが、恐らくは日本全国のという話であろうと思われた。


「さあ、どれにする?」


最初に、古本屋に同行した自分と静流に声をかけてくれた。

静流は時事の本を、自分は一つだけ毛色の違った各国の名所を読んでみることにした。


読み進めていくうちに分かってきたが、複数の著者による合作になっているようで、記載している内容によって方言もまちまちだった。

更に進めていくと、微妙な違和感を覚えた。

最初のうちは全国各地の名所で、今でいうパワースポットにあたる場所が紹介されていた。

紹介の中には分かりやすい造形物や、地形のほか、旅行として訪れるための宿や名産物も紹介されいた。

だが、途中から霊山などが増え始め、彼岸との境目だとか、神様と出会えるといったスピリチュアルなものが増え始めた。


少し内容の変化に疲れてきたので、静流の様子を窺ってみた。

そうすると、静流も少し険しい表情で、選んだ本を読み進めていた。


「これ、文脈が無茶苦茶じゃない…?」


そう言って、開いているページを指差してこちらに向いた。

指差されている箇所を見てみると、確かに文脈に乱れが見える。

話題を切り替えるとかではなく、直前の記事から急に全く違う話題に切り替わっている。

まるで、間の文章を意図的に削除してつなげられたように見えた。


「確かに、こっちの本もおかしい感じになってるな…」

「境の方もおかしくなってる?」

「ああ、急にスピリチュアルになり始めた。それまでは普通の旅行記みたいな感じだったんだが…」


静流と二人でどうしたものかと考えていたのだが、とりあえず、一冊は読み切ってしまおうという話になった。


そこから先に読み進めたところ、世界の切れ目だとか、あの世との扉だとか、そういった世界を隔てるものについての記載が続いた。

その中で一つだけ気になる記載があった。

“この本を読んでいる身にも、境界は近付いている。”と書かれており、まるで自分たちがこの本を読むことが分かっているように思えた。

少しめまいがしたような気がして、こめかみを押さえていると眼前に霧が広がった。

隣にいるはずの静流の姿さえ見えない、何となく覚えのある霧だった。


「そういう事か、結が居るんだな。」


そう言っていると、視界の端に結の姿が確認できた。

お屋敷の廊下、縁側の部分に立っている。

いつも通りの巫女装束に装飾品の姿で、左右にそれぞれ和装の少女が付いて来ていた。


「…ここでも、届きました…」


以前よりも幾分かはっきりした声として聞こえてきた。


「ここに来た理由を聞いても?」


こちら側から質問を投げかけてみたが、結の反応はなかった。

反応していないというよりは、こちら側からの問いかけについては聞こえていないという感じだ。


「…あなたが、認識されています…」


声は聞こえていないということは推測できたので、表情とジェスチャーで意味が分からないとポーズをしてみる。

どうやら、姿を見ることはできているようで、補足を入れてきた。


「…狙われてる…気を付けて…」


どうやら、自分の事を狙っている何者かがいるという事らしい。

その前に認識されているという表現をしているということは、普通であればこちらを認識できないはずということだろう。

自分を狙ったところで、さしてメリットはないと思うのだが、注意喚起ということは受け取っておくことにした。


「…また、あの()たちに…」


そこまで言うと、あたりの霧は晴れ、結の姿も霧散していた。

どうやら、周りには自分が虚ろな感じになっていただけだったようで、静流のいる逆隣りには少し心配そうな澪がこちらを覗き込んでいた。


「境さん、どうしたんですか?」

「いや、俺も結って子と、少し話をしたみたいだ。」


先ほどの事象について、静流と澪に説明した。

他のメンバーは近くに居なかったので、近くにいた二人にだけ状況を説明した形になる。

何より意外だったのは、三人が持っているアクセサリを媒介として結と更新していると思っていたが、それらを持たない自分が話を聞けたことだ。

同じように古書を読み漁っていた静流にその傾向がなかったところを見ると、今回の自分が例外なのだろうと思った。


「そういえば、別荘に行ったときも、境は何か言ってたよね?」

「ああ、何かに見られているというか、観察されているような感覚があったな。」

「それの話をされたんじゃない?」


なるほど、静流の言う通り、何かに狙われているのだとしたら、自覚があるのはあの視線の主だろう。

静流は冷静に分析しているが、澪の方は結の気持ちも分からなくはないという感じだ。

自分が大事に思っている相手が狙われるというのは心配なので、何とかしてフォローしたいという感じだと思われた。

かくいう自分も経験があるので、その気持ちはよく分かる。


「とりあえず、明日にでも話をちゃんとしようか。」


本を読み漁っていて気が付かなかったが、それなりにいい時間になっていたので、千鶴さんが夕食の準備をしていた。

他のメンバーも続々と今の方に集まってくる。

それを見て、静流の言う通り、今回の話は日を改めて会話するべきだろうと思った。


「境さん、私たちも色々とあったので、明日またみんなでお話しませんか?」

「そうだな、全員で情報交換や、今回の勉強会の中間報告をしておこうか。」


澪の方でも、何やら進展があったようなので、明日にでもみんなの状況報告会をしようということになった。

夕食の場で、そういったことをやるという話はしたが、内容は出たとこ勝負ということになった。


夕食を済ませ、みんなと大浴場でくつろぐ。

もうしばらく宗玄さんのお世話になるが、今のところは頭をクリアにするためにくつろぐことにした。

陽向の笑える話や、朔弥の車相談、それに乗っかるように礼音も自分の車をどうしようという話をし始めた。

自分と静流は今日の出来事をいったん意識の外に置き、比較的どうでもいい話に身を任せることにした。


—— “認識されている”という言葉だけが、頭から離れなかった。

第56話『読境』でした!


今回はかなり“静かな不穏回”でした。

古書を読み進めるうちに、少しずつ現実と向こう側の境界が曖昧になっていくイメージで書いています。


特に今回は、“読む”という行為そのものが境界へ触れる行為になっている、という部分を意識していました。

昔話や伝承って、知るだけで何かに近付いてしまう感覚がありますよね。


そして、久しぶりの結の登場でした。

以前よりも少しだけ言葉が届くようになっていますが、まだ完全に会話が成立しているわけではありません。


それでも、境の側が少しずつ“向こう側”へ近付いていることは間違いなさそうです。


一方で、最後はいつも通りの空気感に戻しています。

シリアスだけで終わらず、仲間たちとの何気ない時間があるからこそ、この作品らしさが出るのかなと思っています。


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