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霞観

五十話を超えてから、少しずつ“世界の見え方”そのものが変わってきた気がします。

今回は、修行そのものというより、“土地に根付いた人たち”との接触回になりました。


派手な戦闘や大きな事件ではありませんが、こういう「昔からそこにあるもの」との関わりを書いていると、自分の中ではかなり神代境らしい空気になってきた気がしています。


そして、相変わらず境だけは周囲から「よう分からん」と言われ続けています。

でも、本人は割と普通にしているのが、また厄介ですね……。


それでは、第五十四話、よろしくお願いします!

泰源さんに連れられて、拝殿から社務所奥の和室に向かった。

少し広めの和室が広がっており、忙しい時は、ここで巫女さんたちが授与品の準備をしたりしているらしい。

そこに小さなテーブルを出してくれて、奥さんがお茶を出してくれた。


「妻の文乃です。こんなとこやけど、ゆっくりして行って。」


そう言うと、お茶を運んできたお盆を脇に抱えて和室から出て行った。

文乃さんが退室されてから、泰源さんが少しずつみんなの状況を説明し始めた。


「今回、宗ちゃんがみんなを連れてきた理由は何やと思う?」


只々連れられてきた自分たちにとっては難しい質問だった。

答えることが難しかったので、礼音が分からないという意味を含めて返した。


「修行の一環ですかね?」

「それもあるわなぁ。せやけど、今回はそれだけやないみたいやねん。なぁ、宗ちゃん。」


泰源さんが礼音の答えを一部認めて、不足していることを指摘した。

ただ、その答えは自分たちも知らないだろうということで、宗玄さんに話を振った。

それまで静かだった宗玄さんが口を開く。


「今日はな、ここに祀られてる神さんに会うてもらおうと思て、ここに皆来てもろたんよ。」

「神様と会うというのはどういう事ですか?」


今度は宗玄さんの言葉に、澪が質問する。

確かに、神様と会うと言われても、祀られているご神体の事を指すのか、先ほどの瞑想の話なのか。

恐らくは瞑想の時に感じた二人組の話だろうと思うが、澪の疑問も尤もだと思った。


「お嬢ちゃんたちは、ここの神様と会えたんかね?」

「私は、境さんの向こう側に、男女二方が何かを編んでいるイメージが伝わってきました。」


澪は、自分の向こう側という表現をしていた。

恐らくは、自分が瞑想しているところに同調するような感じで、同じようなものを見たのだと思う。

どうやら、他の女性陣も同じようなものらしく、誰かの瞑想に同調するような感じで、感じたという話だった。


「せやね、みんな、それぞれ相性のいい人に同調してたんは分かっててん。」

「爺ちゃんは、それが目的やったん?」

「まあ、それ以外にも色んな人に会うてもらおうと思てるけど、一つ目はそれやな。」

「一つ目っちゅうことは、他にもあるん?」

「ちょっと商店街の人らとも会うてもらおうと思てんねん。」


神様と会わせた次は商店街の人と会うという事らしい。

凄いギャップではあるが、何か目的があるのだろう。

一先ず、宗玄さんの指示に従って動くことにした。


「うちも、たいがい変わった家庭やけど、ここの商店街は普通じゃない人の方が多いから、話したら面白いと思うで。」


泰源さんにそう言われて、宗玄さんと商店街の方に歩いた。

てっきり、泰源さんは残られると思っていたのだが、宗玄さんに促されて、甚兵衛に着替えた泰源さんが一緒に来てくれることになった。


神社を出ると、鳥居の向こう側には商店街が広がっていた。

商店街の向こうには小学校もあり、普段であれば小学生の登下校でにぎわっているのだろうと思った。

床屋、電気屋、牛乳屋に新聞屋、端の方には自転車屋、奥の方には農協の建物も見えた。

牛乳屋と新聞屋は昼の休憩時間らしく、誰もいなかったが手前の端にある自転車屋は、ご主人らしき人がパンク修理をしていた。

宗玄さんが気軽にご主人に声をかける。


「よ、景気はどないや?」

「おお、宗ちゃんか。まぁ、細々とやっとるよ。」

「この子らがうちの孫の友達とかやで、なんかあったらよろしくな。」

「おお、任しとき!」


自転車屋のご主人が手を止めて、宗玄さんとの会話を楽しんでいた。

宗玄さんに紹介されて、ご主人と挨拶をした時だった。


「また、変わった子を連れてきたなぁ。」


泰源さんもそうだったが、自分を見た時の第一印象が他のメンバーとは異なる。

他のメンバーは何となく“ああ、こんな子だね”といった感じなんだが、自分の場合はみんな“変わった子”という印象だった。

そう言われることは別に苦痛ではないが、そう言われる理由については知りたかった。


「やろ、ワシもよく分からんねや。」

「せやろなぁ、ウチもさっぱりやわ。」


そんなやり取りをしながら、いつその“分からない”という言葉の意味を聞いてみようかと考えていると、電気屋と床屋からそれぞれのご主人が表に出てきた。

どうやら自転車屋のご主人と話している声が聞こえて来たらしく、気になって確認しに来たらしい。

そして、どちらのご主人も、自分を見て同じような印象を持ったようだった。


「宗玄さん、みんな自分の事を見て同じような印象を持つみたいなんですが…」

「せやろなぁ、ここの商店街の人らは、こういう超常のものについての認識が強いねやけど、境君だけは、ようわからんのよ。」

「よくわからない?」

「例えばやけど、陽向なら神道が基準やから、八百万の神々から愛されている感じ、逆に静流君は論理的な思考をしてるから、学問を修めた偉人に見守られてる感じなんよ。」


こういった説明をしてもらったのは初めてなので、今まで宗玄さんが認識している内容を初めて理解したような形になった。

確かに、二人とも超常現象に巻き込まれることは多いが、陽向なら符を用いた対処方法、静流に至っては論理的に理解できてる現象は怖くないという。

色々と特性に癖があるメンバーではあるが、宗玄さんは気にするレベルではないという事だった。


「他の子らは何となく軸とかが分かるんやけど、境君だけはなんかぼやけとるねん。別に悪いことやないけど、これのせいではっきりした言葉にでけへんのよ。」

「はい…、そのあたりは何も思い当たらないのですが…」

「せやなぁ、またウチ帰ったら話しよか。」


そう話していると、自転車屋のご主人と、床屋のご主人がこちらに来て自分の事を見ていた。見定めていたという方が正しいだろう。


「耕助、お前ら自己紹介はしたんか?」

「おお、忘れとったわ。」


このタイミングに来てそれぞれに自己紹介された。

自転車屋の岡部耕助(おかべこうすけ)さん、床屋は森下公一(もりしたきみかず)さん、電気屋が北川光司(きたがわこうじ)さんというそうだ。

こちらのメンバーもそれぞれ自己紹介を済ませる。お互いに誰が誰か分かって、話がしやすくなったことだろう。


「せやな、ワシらも同じように境君だけは霞がかってる感じで、軸がよく分からんなぁ。」


岡部さんが自分に話してくれた。

それに合わせて北川さんが追加でフォローしてくれる。


「霞がかってるのも、色んな軸が一つに集められてるからかもしれんな。」

「そやな、そういうのは自分の親に聞いてみるのがええと思うで。」


最期に森下さんがまとめてくれて、自分だけは修行のほかに両親に聞いておくことが増えた。

確かに言われてみればその通りだ。親であれば何か思い当たることはあるだろうと思う。


しかし、ここの商店街は一体何なんだろう。

自分たちのように、所謂超常的な特技がある人物というのは理解しやすい。

ただ、こうして話しているご主人たちが軒並み同じように認識したりする能力があるということは、ここだけが特別な地域なのだろうか。

細かいことではあるが、自分の中では、これだけオカルト的な力を持ち合わせている人が、たまたま集まったとは考えにくかった。

ただ、そこまで聞いてみる時間は無いようで、しばらく話し込むと神社の方に戻ることになった。


「しかし、境だけは難しいんやなぁ…」

「そうだな、またオトンにも話をしてみるよ。」


そうしているうちに神社につくと、宗玄さんが優しい言葉をかけてきた。



「さあ、今日は疲れてるやろから、早く休もか。」


神社に戻ってから、すぐに宗玄さんの自宅に戻ることになった。

また後日お伺いするという話をし、自分たちも宗玄さんの家に向かう。


言われた通り、色々と緊張していたのだろう、自分だけではなく、ほとんどのメンバーが疲れを隠せなくなっていた。

そこを考えて、今日のところは早めに帰って、床に就くことにした。


そう考えてかどうかは分からないが、みんな宗玄さんの家に着いてすぐに、夕食も摂らずに眠ってしまった。

少し遅い時間になって、目が覚めたので大浴場でゆっくりしていると、月明りのおかげであたりが靄に包まれていることが分かった。

何だか不思議な靄だった。

意思があるというか、何者かの想いがあるように、その場所に居続けていた。


—— 自分を覆う靄の向こうから、誰かの視線だけがはっきりと届いていた。

第五十四話でした。

今回は孔師神社と商店街の人たち回でした。


宗玄さんや泰源さんだけでなく、地域そのものが“そういう世界”に接続している空気感を出したかったので、商店街のおっちゃん達にはかなり頑張ってもらいました。


床屋、電気屋、自転車屋あたりは、昔ながらの地域コミュニティ感があって個人的にもかなり好きです。

こういう「特別な力はないけど、何となく分かる人たち」って、怪談や民俗系の話だとすごく味がありますよね。


そして、境だけは相変わらず“霞がかっている”状態。

強いとか弱いではなく、「定義できない」という方向に寄せています。


最後の靄のシーンは、世界そのものが境を認識し始めている……みたいな空気感で書いていました。


次回は少し落ち着いた回にするか、もう一段階“向こう側”へ踏み込むか悩み中です。

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