編縁
こんばんは、いつもありがとうございます。
今回は、宗玄さんの“昔馴染み”が登場します。
修行編ではありますが、
戦う力を得るというより、
世界との繋がり方を理解していく流れになってきました。
タイトルは『編縁』。
よろしくお願いします。
焼き魚のいい匂いに釣られて、比較的早い時間に目を覚ました。
昨日の釣果が今日の朝食に反映されたようだった。
いつも通り、朝が弱いメンバーの中で、静流だけは自分より先に起きていた。
流石に紙媒体ではないが、デジタルの新聞記事をチェックするのが朝一の習慣らしい。
自分が起きてきたのに気付いて、こちらに向きなおした。
「おはよう、ちゃんと寝れてる?」
「ああ、おはよう、疲れは出るけど、寝るには寝れてるよ。」
そうは言いつつも、瞑想という普段の生活にはないことをしているせいか、芯に疲れは残っていた。
他のメンバーも同じだろう。
いつもなら起きていそうな朔弥や礼音が、全く起きそうな気配がなかった。
静流と二人、眠っているメンバーを起こさないように、そっと居間の方に移動した。
居間には宗玄さんと千鶴さん、真琴さんが既に座って話し込んでいた。
話の内容の詳細までは分からなかったが、真琴さんが就職活動の相談をしていたようだ。
「お、二人は起きたんやな。」
「はい、今日は昨日のような、朝の瞑想はしないんですか?」
「毎日早起きも辛いやろうから、今日はもう少ししてから、違うところに行こうかと思てるんよ。」
「確かに、みんな朝が弱いから助かります。」
静流のイメージとは違った冗談が出たので、みんな吹き出してしまった。
確かに、他に誰も起きてこないことを考えると、その通りだと思う。
ひとしきり笑うと、千鶴さんが台所から朝食を運んできてくれた。
真琴さんが慌てて手伝いに立ち上がる。
ここに陽向がいないのが、少し残念に思えた。
「今日は何処に?」
「昔馴染みのところに、ちょっと場所を借りに行こか。」
「昔馴染み?」
「せやなぁ、そこの神社でよう遊んでたんや。そのころからの馴染みやな。」
そう言って宗玄さんは少し遠い目をしていた。
神社でよく遊んでいたということは、幼いころの話だろうから数十年の付き合いなのだろう。
話しぶりからしても、今はあまり会うことは無いのではないかと思った。
「とりあえず、みんなを起こしてきますか。」
そう言って、静流が他のメンバーを起こしに行った。
真琴さんは手伝いを続けているので、女性陣も静流が起こすつもりなのだろう。
こういったときに、静流はどんな女性からも嫌がられないので、すごいなと思う。
しばらくするとみんなが起きてきたので、千鶴さんが朝食を並べてくれた。
昔ながらの日本食といったメニューで、普段は適当にしている自分には有難かった。
朝食を済ませると、宗玄さんに連れられてみんなで神社まで歩いていくことになった。
「宗玄さんって、お元気ですよね…」
澪が呟いた。
自分たちは孫世代なので、若さを考えると宗玄さんよりも元気に歩けそうなものだ。
しかし、実際には草履をはいた宗玄さんよりも、自分たちの方が歩みが遅かった。
背丈も宗玄さんの方が小さいので、歩く速度が純粋に速いのだ。
澪の意見も尤もだなと思った。
「爺ちゃん、孔師に行くん?」
「そういや、陽向は久しぶりやな?」
「せやねん、もう10年以上ぶりやと思うんよ。」
「泰ちゃんもうれしいと思うわ。」
陽向が、宗玄さんと行先について話をしていた。
どうやら、陽向も知っているところらしく、話が弾んでいた。
三十分ほど歩いた所で、目的地と思われる神社にたどり着いた。
鳥居の手前にアーチ型の石橋があるのが印象的で、その奥に拝殿が見えた。
拝殿の右手に社務所らしきものが見え、その前で掃除をされているご老人がこちらを見つけて手を振っている。
どうやら、件の昔馴染みというのはこの人の事らしかった。
「おー、宗ちゃん、久しぶりやなあ。」
「あいよ、泰ちゃんも元気そうで何よりや。」
久しぶりに会えたのがうれしいのだろう、二人の笑顔が眩しかった。
「陽向君も大きくなったなぁ。」
「はい、お陰様で楽しくやらせてもうてます。」
「そんで、泰ちゃん、ちょっと拝殿使わせてもろてかまへんかな?」
「おお、かまへんで、その真っ黒の服の子やろ?」
泰ちゃんと呼ばれたその人は、自分のことを視線で示した。
宗玄さんとは話が通じているようだが、当の本人としては何のことかさっぱりわからない。
それを聞く暇もなく、拝殿の方に案内された。
「自己紹介がまだやったね。津森泰源と言います。ここ、孔師神社の神主をやらせてもろてます。」
「初めまして、宗玄さんのお孫さんの陽向君の友達で、榊静流です。」
静流が泰源さんの挨拶に返すように、自己紹介をした。
それに続いて、自分を含めたメンバーが全員自己紹介する。
泰源さんも宗玄さんも静かに聞いてくれていた。
「うちの神社は磐座みたいなものはあらへんから、みんな座布団のところ座って瞑想してもらおかな。」
泰源さんが部屋の端に積まれていた座布団を五人分並べてくれた。
そうして並べてもらったところに、男性陣が座っていく。
女性陣はそれとは別に、部屋の端にあるちゃぶ台にお茶を出されていた。
今日は、男性陣だけが対象になっていたのだろうと理解し、瞑想を始めた。
今日は、昨日とは違う何かが、こちらを観察しているのが分かった。
雰囲気としては何やら人のような二人組、まるで夫婦のような雰囲気だった。
その二人も、こちらに直接干渉してくるわけではなく、自分の事を観察しているようだ。
話しかけようとするが、お互いに声は届かないような感じだった。
三十分もしただろうか、宗玄さんに声をかけられ、瞑想が終わった。
「境、どんな感じやった?」
「何だか、夫婦みたいな二人組を感じた。こちらに興味のある感じで…」
「そうなんや、俺の方は神さんみたいなんがおる気がしたわ。何か二人で編んでるような感じやった。」
「うちに祀られている神さんの影響やろな。」
陽向と会話していると、泰源さんの声が聞こえた。
泰源さんが言うには、祀られているのは縁を編むと言われる神様で、それぞれが感じたのはそれだろうということだ。
「せやけど、自分、けったいな星持っとるなぁ。」
「どういうことです?」
「まぁ、追々わかると思うさかい、宗ちゃんに色々教えてもうて。」
「はぁ、分かりました。」
何か知っているような感じがしたが、宗玄さんにパスを投げたところを見ると、宗玄さんが説明する予定なのだろう。
ただ、今はまだその時ではないのだろうということを感じていた。
「朔弥はどうだ?」
「自分も皆さんと同じです。」
「僕も同じですね。」
朔弥、礼音共に同じように二人組の神様のようなものを見たということだ。
ここの空間では、特に歪のようなものを感じることは無い。
神様を奉っているところなので、それはそうだろうとも思った。
しかし、神様と呼ばれるものが、自分たちを意識しているというのは否応なく感じていた。
—— 新しく見た神社も、自分たちを見る目は同じものだった。
『編縁』でした。
今回は、
宗玄さんの幼馴染である、
津森泰源さんと、その神社が登場しました。
孔師神社は、
これまで出てきた場所とは少し違い、
“境界を分ける”というより、
“縁を編む”側の空気感を意識しています。
そのため、
陽向が感じたものも、
境が感じたものも、
これまでとは少し違った方向性になっています。
特に今回は、
神様と呼ばれる存在そのものよりも、
“観測されている”
という空気感を大切にしていました。
見えているわけではない。
会話できるわけでもない。
だけど、
向こうはこちらを認識している。
そんな、
距離のある神秘感を意識しています。
また、
宗玄さんと泰源さんの、
長年の付き合いによる空気感も、
書いていて楽しい部分でした。
「宗ちゃん」
「泰ちゃん」
と呼び合う関係は、
きっと長い時間を共有してきたんだろうなと思います。
少しずつですが、
世界の輪郭も見え始めています。
引き続きよろしくお願いします!




