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潮境

こんばんは、いつもありがとうございます。


今回は少しだけ息抜き回です。


……とはいえ、

この作品で完全に平和な回があるのかと言われると、

なかなか難しいところですが。


修行の合間、

海辺で過ごす時間を書いてみました。


タイトルは『潮境』。


よろしくお願いします。


翌朝、男性陣は朝の七時には起床していた。

厳密には、宗玄さんに起こされたというのが正しい。


「これでもゆっくり寝かせたんやで?」


そう言われたのが非常に印象的だった。

実は宗玄さんの朝は早く五時半には起きているそうだ。

起きて一番に、ガス炊飯器のスイッチを入れるのが、宗玄さんの朝一のルーチンらしい。


「ちょっと奥宮まで行こか、朝一の瞑想タイムや。」


宗玄さんに言われるまま、みんな眠そうな目をこすりながらついて行った。

神社自体は別のところに移転しているが、その当時も瞑想などの修行に使っていたところが残っている。

それが、当時の拝殿の奥にあたるらしく、奥宮と呼んでいるそうだ。


奥宮は一部の板の間と、土のままの地面がある部分、奥の方には大きな岩のようなものがあった。

板の間は、所謂、道場の神前のような感じになっており、神棚のようなものが見えた。

土のままの地面も、森の中のように少し苔むしたような、少し湿ったようなところだった。


「さて、陽向と静流君は地面の方に座って瞑想始めよか。」

「ケツ、冷たない?」

「ちゃんと着替え用意しといたるさかい、大丈夫や。」


宗玄さんが、よくわからない理由で陽向を言いくるめて座らせていた。

陽向もお約束のように、座った瞬間に冷たさで少し震えるしぐさをする。

このあたりは流石に阿吽の呼吸だなと思った。


「ほんで、若い子らは神前の間に上がり。」

「あの板の間のところですか?」

「せやな、座ってええところは座布団置いとるから、そこに座って瞑想始めてみよか。」


朔弥と礼音君がぎこちない感じで瞑想を始めた。

昨日、二人は宗玄さんと同行していなかったので、詳細については説明されていない。

なので、この瞑想を始めるタイミングで色々と説明しているようだった。

朔弥には見えないものを、感覚でとらえる練習。

礼音君は、同じように見えないものを、特定する練習ということだ。


「最後に境君は、あの磐座に座ってやってみよか。」

「あの岩の事ですか?」

「せやな、あそこが一番、色んなものを感じられるはずや。」


そう言われて磐座というところに座り、瞑想を始めてみる。

初めて間もなく、宗玄さんの言っている意味が分かった。

確かに言われた通り、昨日の森の中よりもこちらの方が空気が澄んでいる感じがする。

その中で、何か生き物のような、エネルギーのようなものを感じることができた。

はっきりと生き物と言えるようなものではないが、何かがそこにあることは分かった。


少し、コンタクトしようとしてみたが、こちらからの念のようなものを送るのは難しそうだ。

そこにある、そこにいる、ということだけは認識できるが、そこまでだった。

今日のところは、それが認識できるという状態を続けることにした。


「ぼちぼち朝飯やから、戻ろか~。」


宗玄さんがみんなに声をかけると、それぞれに瞑想を止めて立ち上がった。

瞑想は正座でするべきとこだわった朔弥だけは、足がしびれたのか立ち上がるまでに時間がかかっていた。

そこから居間に戻ると、千鶴さんが朝食の準備をしてくれていた。


「みんな、朝ご飯は食べれるよなぁ?」

「はい、頂きます!」


朔弥が返事をして、早々と席についた。

瞑想で空腹になるかというと疑問ではあるが、朝早くから行動したことで朝食が欲しくなったのだろう。


「爺ちゃん、今日はこの後どうするん?」

「今日は、この後はお休みやな。根詰めても碌なことあらへん。」

「お、ほな、どっか行く?」


陽向が静流や女性陣に聞いていた。

自分にも聞かれていたのだと思うが、先ほどの余韻で少しボーっとしていた。

色々と話をしていたが、少し海の方に行ってみようということになったようだ。


「工業地帯やけど、テトラポットのとこで釣り出来るから、そこ行こか。」

「途中でお菓子とか買って行こ~。」


陽向の提案に乗る形ではあるが、女性陣は釣りだけではない方がということだろう。

野乃花ちゃんがお菓子の買い出しを提案した。

そもそも釣り竿が人数分あるかもわからないので、単純に海を感じたいメンバーの事も考慮したらそれが良いと思った。


朝食後、それぞれの車に乗り込んで、まずは近場のスーパーに向かった。

普段とは違い、こちらならではのスーパーが見える。

そこで、お菓子やパンのほか、飲み物も買って、自分の車の方に積み込んだ。

朔弥の方には必要な分だけを乗せて、こちらにまとめておく。

そこから、釣具屋さんでエサなどの必要なものを買ってから海の方に向かった。


幸い、宗玄さんが使っている釣り具を借りることができたので、男性陣は全員釣りをすることができる。

梓ちゃんと真琴さんは釣りもしたいということで、適当なタイミングで交代しながら釣りをすることになった。


テトラポットの上を歩くのは初めてだというメンバーが多かったので、ゆっくりと進んだ。

その中で、少しずつ距離を置いて釣りを始める。

陽向は真琴さんと、朔弥は梓ちゃんと一緒に釣りを始めた。

釣りは彼らに任せて、自分は澪と一緒に堤防の上を歩く。

少し歩くくらいの距離はあったので、堤防の上を歩きながら海の様子を見ていた。

何となく、ゆったりとした時間を感じていた。


「境さん、昨日は宗玄さんから何か聞かれましたか?」

「いや、宗玄さんもよく分からないって言われた。」

「そうなんですか?何だか意外ですね…」

「まぁ、多分、何かつかんではいるだろうけど、明確になるまでは言わないんだと思う。」


昨日の宗玄さんの話し方から考えても、確証はなくても何かが分かってきているんだと思う。

ただ、それを今伝えるべきではないという判断なのだろう。

そんな何でもない時間をしばらく過ごして、釣りメンバーの方に戻ってみた。


「境さん!何かいっぱい釣れますよ!」


朔弥が少し明るい声で言ってきた。

バケツやクーラーを見ると確かに、たくさんの魚が釣れていた。

アジとイワシのようだが、運よく魚群にあたったのだろう。

一方、少し離れた所に居た礼音のバケツには大きな魚が入っていた。


「朔弥、礼音君の方が大物みたいだけど、ちょっと見てみるか。」


そう言って、竿を梓ちゃんと澪に渡して礼音君の方に向かう。

どうやら、サバか何かが釣れているようだった。


「これって、千鶴さんに言えば、晩御飯の足しになりますかね?」

「陽向に聞いてみないと分からないが、うれしいはずだと思うぞ。」


そう言うと、礼音君が少しほっとした感じだった。

確かに大量に釣れても困るかもしれない。

走行していると、堤防の下に女性の影のようなものが見えた気がした。


「誰か通ったか…?」

「いえ、自分には分かりませんでしたが…」


堤防の下に白いワンピースを着た女性の姿が見えた気がした。

そして、その辺りだけが時間が止まっているような静けさがあった。


「何かいるみたいですね。」


後ろから、澄玲ちゃんに声をかけられて少し驚いてしまった。

何かを見たと思う空間を見ていると、そこだけ虫も、揺らめく空気すら感じなかった

澄玲ちゃんも何か違和感を感じているようで、同じところを見つめていた。


結構な釣果があがっているらしく、陽向と真琴さんはいっぱいになったバケツを持って堤防まで上がってきた。

その時に、何かを見ているような澄玲ちゃんに気がついて、陽向がフォローした。


「ここな、近くに火葬場があるねん。せやから色々なもんがあると思うわ…」


なるほど、そういう理由であれば、通りかかった何かなどがあってもおかしくないかと思った。

澄玲ちゃんもそれは同じだったようで、その場所から目を離した。


そうこうしているうちに、澪と梓ちゃんがこちらに寄ってきた。

先ほど、二人に竿を渡していたことをすっかり忘れていた。

朔弥と二人で軽く謝りながら、バケツや竿などを受け取る。

そこには予想通り、小魚が大量に入っていた。

これで夕食のおかずになるなと思いながら、荷物を詰めていた。


「また、今度来ような。」


澪に声をかけると、静かに頷いた。

少し、違和感を感じる部分もあるが、海はやはりいいなと思った。


陽が傾いてきたので、釣果を車に積み込んで、元来た道を戻っていった。

陽向の言う通り、そういった場所であれば違和感を感じることもあるだろうと思ったが、この釣果にも少し違和感があった。

そう都合よく魚群に入るというイメージはない。

何か、よくわからないものに追われてこちらに来たということは無いかなと、少し考えさせられた。


そんな考えをよそに、釣果を千鶴さんに渡してみた。

その釣果については、今日の夕食と明日の昼食くらいまでなら間に合うと、千鶴さんに言われたのだった。


しばらくして、夜になり、いつも通りの話に花が咲いた。

流石に連夜で怪談大会は開催されなかった。

意外と疲れたのか、それぞれ、早々と布団に入った。


—— 昼の違和感の主が、本当に陽向の話通りだったか分からなかった。

『潮境』でした。


今回は、

修行編の合間にある、

少しゆったりした日常回です。


朝の瞑想では、

それぞれが少しずつ感覚を掴み始めています。


陽向は結界側、

静流は空間認識、

礼音と朔弥も、

少しずつ方向性が見え始めてきました。


その中で、

境だけは相変わらず異質です。


“感じる”

というより、

“観測されている”。


しかも、

それが悪意ではない。


今回も、

そんな空気感を意識していました。


後半は海辺。


大阪湾側独特の、

工業地帯と海が混ざった空気感を出したくて、

かなり生活感寄りで書いています。


釣りをしたことがある人には、

「ああ、こういう空気あるな」

と思ってもらえるかもしれません。


そして、

海辺で感じた違和感。


火葬場が近いという理由だけで片付けていいのか、

それとも別の何かがあるのか。


その辺りも、

少しずつ繋がっていく予定です。


あと、

朔弥の“正座で瞑想”は、

書いていて非常に彼らしかったです。


引き続きよろしくお願いします!


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