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被観

こんばんは、いつもありがとうございます。


今回は修行側のお話です。


少しずつ、

それぞれが“自分にできること”を掴み始めています。


ただ、

境だけは少し方向性が違うようで――。


今回は、

“見る”側ではなく、

“見られる”側の話になりました。


タイトルは『被観』。


よろしくお願いします。


宗玄さんに言われた通り、石の上に座り瞑想を行っていた。

少しずつ世界を彩るものが消えていき、この世界自体と一つになったような感覚に陥った。

真っ暗な世界で、何者かが自分の事を見ている。

睨んでいる感じではない。

値踏みしている感じでもない。

ただ、自分に対する興味が強く、観察されているようだった。


「自分を見ているそこの奴、何か用か?」


どうやら言葉を交わすのは難しいらしい。

何かを伝えようとしているようだが、今の自分では分からなかった。


どれくらいが経過しただろうか、視線は相変わらず続いており、それが好意的なものだということは分かってきた。

ただ、この瞑想の状態を継続し続けるのに限界が来ていた。

少しずつ音が戻ってきて、光が戻ってくる。

石の上に座っている自分を認識し、陽向や静流が見えるようになってきた。


「…今はこのあたりが限界なのか…。」


集中力の限界、体力の限界、精神力の限界。

様々なものに限界が訪れたことで、元々の場所に戻ってきたようだった。


少し離れた所で陽向が宗玄さんに何かを教えてもらっているようだった。

何か護符のようなものを渡されている。

以前に恒一さんからも似たようなものを受け取っていた覚えがあった。

何やらひとしきり説明された後に、こちらに気が付いたのか、二人が近づいてきた。


「どや?何か掴めたか?」


陽向が開口一番、尋ねてきた。


「ああ、なんというか、こう、世界に溶け込む感じになった。」

「…哲学か…?」


そうとしか表現できなかったのだが、やはり伝わりにくかったのだろう。

確かに、陽向の言う通り、客観的に聞いてみると哲学の一説にしか聞こえない。


「あと、何かがこっちを観察していたのは分かった。それが何かまでは分からなかったが…」

「なるほど…?」

「陽向も分からんやろ。爺ちゃんもイマイチ分かっとらん。」


宗玄さんはそう言って豪快に笑って見せた。

全くわかっていないということは無いと思うが、しっかり理解できていないということではないかと思う。

当の本人さえ、自分の言った言葉に自信が持てないくらいなので仕方がない。


「せやけど、何かが境君を見てたんは分かったんやな?」

「ええ、少なくとも敵意は感じませんでした。ひたすら興味を注がれるような感じで…」

「そうか、なるほどなぁ…、ちょっと今度、色々なところと話してみとくわ。」


宗玄さんは、何か思い当たることがあるというか、相談できそうな人物にアタリが付いたようだった。

陽向の顔にはずっとクエスチョンマークが浮かんだままだったが、それも面白そうに笑っていた。


そこから少しして、静流の方もこちらに近付いてきた。

静流の表情を見る限り、何か収穫があったようだった。


「宗玄さん、この場所の周りに三か所くらい何かがいませんか?」

「おお、そこまで分かるようになったか!」


思ったよりも静流の呑み込みが早かったのか、驚きの表情と喜びの表情が入り混じっていた。

静流の言っている何かいるという話も、宗玄さんの想定通りだということだろう。

近くにあった木の枝を拾った静流が、地面に絵を描き始める。

今の場所を簡単に図解したものだった。

その図の三か所に丸を書きこんでいく。


「この場所に、何かがいるというのは、感覚的に分かってきました。」

「正解や。とりあえず、それを時間をかけずに直感的に分かるまで続けてみよか。」


陽向が“げ!”という表情を浮かべ、静流も驚きの表情を隠せなくなっている。

自分もそうだったが、集中力の必要な課題ばかりなので、ここからもう一仕事、みたいな感じにはならなかった。

宗玄さんくらいの年代の人は無茶苦茶働いたというのは聞いていたが、自分たちには想像さえつかない。


「なんぼなんでも、今から続きやれとは言わんて。今日のところは帰って飯にしよか。」


そう言うと宗玄さんは来た道をスタスタと歩き始めた。

まるで普通の平坦な道を歩いて行くような速度だが、実際には山道を歩いているので負荷は高い。

さらに、先ほどまでの課題をこなしている関係で、精神的にも疲労している状態なので、宗玄さんのペースについて行けなかった。

とはいえ、ついて行かないと迷子になりそうなので、息を切らせながら追いかける結果になっていた。


屋敷に戻ると、女性陣がカレーを作っていた。

庭にある畑で自家菜園を作っているらしく、そこで取れたと思われる夏野菜カレーを作っていた。

いつの間に仲良くなったのか、梓ちゃんと真琴さんのコンビネーションが目を引くレベルになっていた。


澪と梓ちゃんがこちらに気が付いたようで、手を止めてこちらに寄ってきた。

梓ちゃんは自分の作業が落ち着いているようで、継続している作業は真琴さんにお願いしていた。

澪の方はあまり手伝わせてもらえないのだろうか、特に何事もなくこちらに寄ってきた。


「境さん、何かありましたか?」

「ああ、自分と陽向や静流は全然違う作業で分からないが、自分は瞑想中に何かに見られている感覚まではわかった。」


細かい部分は割愛したが、自分の方は“何か”に観察されている感じを説明しておいた。

近くにいた陽向や静流にも話を確認していた。

結論としては、もう少し続けてみないと分からないということになった。


「今は疲れてると思いますので、夕食を摂って、早目にくつろがせて頂きましょう。」


作ってもらった夏野菜カレーは非常によくできていた。

宗玄さんや千鶴さんが大事にしてきた家庭菜園も影響しているのだと思う。

あと、カレールーについては千鶴さんの特別製らしい。

普段、食生活が適当なだけに、手作りの料理というのは非常にありがたかった。


夕食後にそれぞれの状況を聞かせてもらった。

女性陣の立ち位置も明確になってきて、このまま先に進めて行こうということになった。

今日も今日とて、梓ちゃんが怪談話を所望した。


怖がる澪を自分の横に抱え、梓ちゃんが大好きな、怪談大会が進んで行った。

翌朝になって、梓ちゃんが寝坊していたのは言わずもがなだ。


—— こちらを見ていた何かは、自分の事を興味深く眺めていた。

『被観』でした。


今回は、

修行側を中心に進めてみました。


境、陽向、静流、

それぞれ全く違う方向で修行が進んでいます。


陽向は結界。

静流は空間認識。

そして境は――よく分からない何か。


宗玄さん自身も、

境については理解し切れていない部分が多く、

今回の瞑想でも、

“何かが境を観察している”

というところまでしか掴めていません。


ただ、

敵意はない。


むしろ、

珍しいものを観察しているような、

そんな空気感を意識していました。


また、

静流の能力も少しずつ輪郭が見えてきています。


論理的な人間だからこそ、

感覚的な能力を、

理屈として理解しようとしている。


その辺りも静流らしさかなと思っています。


後半はいつもの日常側。


夏野菜カレー、

怪談大会、

そして寝坊する梓。


修行編ではありますが、

“合宿感”や、

大学生・高校生らしい空気も、

できるだけ残したいなと思いながら書いていました。


次回以降、

それぞれの修行内容も、

少しずつ具体的に進んでいく予定です。


引き続きよろしくお願いします!


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