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口伝

こんばんは、いつもありがとうございます。


ついに50話まで来ました。


今回は梓視点のお話になります。


宗玄さん側が“世界”について語るなら、

千鶴さん側は“人”について語る。


そんな構図を意識しながら書いていました。


また、

今回は高校生組にも少しずつ役割や方向性が見え始めています。


それぞれが、

どういう形で“誰かを支える側”になるのか。


そんな話でもあるのかなと思っています。


タイトルは『口伝』。


よろしくお願いします。


お姉ちゃんたちの話がひと段落してから、千鶴さんが私たちと朔弥君、礼音君を呼びに来た。

私はお姉ちゃんたちの話も一緒に聞いていたから、流れが分かっていたんだけど、朔弥君たちは油断していたみたいで驚いていた。

朔弥君と礼音君は宗玄さんと一緒に行かなかったのは、千鶴さんが色々教えるかららしい。


「さあ、若い子たちの勉強は、私の役目やでね。」


そう言って、小さい方のちゃぶ台を出してくれた。

そのちゃぶ台を囲むようにして、私と澄香ちゃん、朔弥君に礼音君が座っている。

真ん中に蠟燭があれば、夏休みの怪談大会といった雰囲気になりそうなとか想像していた。


「自分たちは初めて来たんですが、どんなことをしたらいいんでしょうか?」

「まぁ、焦らんとき。まずは自分の特技とかを教えてもらえる?」


千鶴さんが優しい声で質問してきた。

まずは自己紹介という事なんだろう、朔弥君から順に自己紹介をしていった。

最後に私の自己紹介が終わってから、千鶴さんが一息ついて話し始めた。


「まず、白銀君は相手を威圧するのを覚えてもらおかな。」

「威圧ですか?」

「せやね、相手が動きたくても動けないくらいの圧力を与えるイメージを練習しよか。」


少しオーバーな表現だなと思ったけど、確かに礼音君は爽やかすぎて、意見を言ってもサラッと流されてしまうことが多い。

礼音君が威圧するというイメージが全くできないけど、意思や意見を通すのに必要なものかなと思った。

実際にお題を出された礼音君自身が、どうやっていいか全くわかっていない様子で困惑して見えた。


次に、朔弥君への説明が始まる。


「鬼塚君は感情を抑える練習かな。若いから感情が前に出がちやと思うけど、心に水鏡を持つイメージから始めよか。」

「心に波風を立てない練習ということですか?」

「よう分かってるね。その通りやわ。」


朔弥君は普段はあまり怒ったりせず、飄々としていて、トラブルも相手にしないことが多い。

だけど、お兄さんの事を卑下されたり、仲間内の事を悪く言われると急に怒気を抑えられなくなることがあった。

朔弥君の中に逆鱗のようなものがあるんだと思うけど、それが何かまではちゃんと理解できていない。

なので、今回のような練習をしておいてもらえると、普段の安心感もアップすると思った。


残った澄玲ちゃんと私については、先ほどお姉ちゃんたちと話している内容に近いようだった。


「二人はお姉ちゃんたちの話も聞いてたやんねぇ?」

「はい、同じような感じですか?」

「いや、二人は婆ちゃんと話しよか。」


お姉ちゃんたちは三人で話をするようになっていたんだけど、私と澄玲ちゃんは千鶴さんが一緒に話してくれるという事だった。

千鶴さんと話していると、宗玄さんの昔話をしてくれた。

お二人は、日本の高度成長期という時代に活躍されていたらしい。

私たちは高度成長期というものを歴史の授業でしか知らない。

だからこそ、そういう話は興味があって、千鶴さんの話に引き込まれてた。


話してもらっていた中に、昔の大戦の話があった。

宗玄さんは直接知らないらしいし、私たちも歴史の授業でしか習っていない。

それよりももっと昔の話も、宗玄さんの家には伝わっているらしくて、興味は尽きなかった。

大戦当時はもっと世界の歪みのようなものが頻繁に発生していた記録があるという。

八代家は代々神職の家系なので、色々な資料が伝えられてきていて、その中に歪の話も出るらしい。

それは大体、時代の変わり目や、争いごとが治まらないタイミングで頻発するとなっているという。

今は特に争いごとが起こっていないけど、これに近い状態なのかもしれないと千鶴さんは思っていると言っていた。


「今回の話は聞いたんやけど、この“歪”の話に近いと思わへん?」

「確かに、私が見たものは、その“歪”から何かが出てきたという話と一致してそうな気がします。」


澄玲ちゃんが千鶴さんの意見を肯定した。

彼女はちゃんと結っていう女の子を観測しているし、認識している。

その澄玲ちゃんが肯定したということは、肌感として正しいんだと思う。


「やっぱりそうなんやね。お爺ちゃんの思てた通りやなぁ。」

「宗玄さんは予想していたんですか?」


千鶴さんの言葉に驚いて、思わずそのまま聞き返してしまった。

宗玄さんの思っていた通りということは、今までの話の中で予想はついていたんだと思う。

でも、どこまで予想しているかが分からないので、聞いてみたかった。


「詳しいところは分からんみたいなんよ。」

「でも、ある程度は予想していたんですよね?」

「そうそう、ご先祖様から伝わってる、“世界の歪み”いうんが、また浮き出てきてるんやろなって言うてたわ。」


宗玄さんでも、何が起こっているのか詳しいことは分かっていないのか、外に出さないようにしているだけなのかは分からない。

ただ、伝承にある“世界の歪み”というものがあり、その話と今回の事象が似ていることを認識していたのは間違いなさそうに思えた。

今は、宗玄さんはお兄さんたちと出かけているので、また戻ってきた時に伝承の話を聞いてみることにしよう。


「澄玲ちゃんは、お姉ちゃんと真琴さんと一緒に結ちゃんと会ったんだよね?」

「そうね、結って娘と対話できたと言っていいと思うわ。」

「その時に、歪みの話とかは出たりしなかったの?」

「そこまで色々話す時間は無かったのよね…」

「うーん、また今度、こっちから聞いてみても良いかもって思った。」


澄玲ちゃんがお姉ちゃんや真琴さんと一緒に対話していたのは知っている。

確かに時間はあまりなかった気がする。

なので、今度対話できるチャンスがあれば、色々聞いてみてほしいなと思った。


「あ、大事なこと忘れてたわ、お姉ちゃんたちと同じで二人にもお役目をお願いしようと思てたんよ。」


千鶴さんが、うっかり忘れてたとばかりに、少し慌てた様子で話し始めた。

私は朔弥君の感情コントロールのサポートをすること。主には関西でいう突っ込みの役どころをするという話だった。

関西生まれでない私にとってはある意味ハードルが高いなと思ってしまった。

澄玲ちゃんについては、礼音君の感情コントロールのサポート。

同じ内容に見えるけど、礼音君の場合は自分の事まで俯瞰してしまう癖があるらしくて、そうならないように気を付ける必要があるとのこと。

千鶴さんが言うには、今回の目標にある威圧するという行為に、自分まで俯瞰してしまうばかりだとよくないという話だった。


朔弥君と礼音君は、ああでもない、こうでもないと呟きながら言われた内容を咀嚼しようとしていた。

二人とも、今までの自分の考え方や癖を変えるような内容なので、やっぱり難航しているようだった。

でも、私たちが手伝えるわけじゃないと思うので、私と澄玲ちゃんは千鶴さんと三人で熱いお茶を啜っていた。


千鶴さんと宗玄さんの昔話を色々してくれるので、飽きることなく話を聞くことができた。

宗玄さんと千鶴さんは、実は幼馴染で一緒にご神木に登っては叱られていたことや、お社の床下でお昼寝したことなど、胸が温かくなる話も聞くことができた。

神社の中で、真夏の夜に怪談話をしていたことも聞いて、私もやってみたいなと思ったことは、お姉ちゃんにはとても言えない。

今のように娯楽が簡単に手に入る時代じゃなかったから、遊び方も工夫していたんだなと思うと、私もその時代に行ってみたいとさえ思っていた。


お姉ちゃんたちも話がひと段落している様子が見えたので、みんなでお昼ごはんを摂ることになった。

幸い、家庭菜園で夏野菜がたくさん採れたらしいので、真琴さんと話して、夏野菜カレーを作ることにした。

お兄さんたちが帰ってくるまでに、おいしいのを作ろうと真琴さんと意気投合している様子を、お姉ちゃんが温かい目で見てくれていた。


—— 伝承と現実の境目が、曖昧なものになっていくのを覚えた。

『口伝』でした。


今回は、

梓視点で、

屋敷側の会話を中心に進めてみました。


千鶴さんは、

宗玄さんみたいに理屈や構造を説明するタイプではなく、

“人の在り方”を語る側なんだと思っています。


なので、

今回は能力そのものというより、


・どういう役割を持つのか

・どういう距離感で相手と向き合うのか


を中心に話してもらいました。


礼音の“威圧”

朔弥の“水鏡”


このあたりは、

本人たちの性格や危うさから逆算して、

必要そうな方向性を千鶴さんが提示しているイメージです。


また、

今回から“世界の歪み”という単語が、

伝承として明確に出てきました。


今起きていることが、

今回だけの異常ではなく、

過去にも似た事象があった。


そういう空気感が少しずつ出始めています。


そして、

最後はいつもの日常。


夏野菜カレーです。


こういう時間があるからこそ、

非日常側の空気も際立つのかなと思っています。


ここから、

修行側と屋敷側、

両方の流れが少しずつ繋がっていく予定です。


引き続きよろしくお願いします。

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