相補
こんばんは、いつもありがとうございます。
今回は、山側ではなく屋敷側のお話です。
宗玄さんたちが“認識”や“境界”について話をしている一方で、
こちらでは“人との関係性”についての話が中心になっています。
力そのものではなく、
誰が誰を支えているのか。
そして、
誰が“帰る場所”になるのか。
そんな話になりました。
今回のタイトルは『相補』。
よろしくお願いします。
私たちが居間についたときには、宗玄さんと境さんたちは既にいなかった。
千鶴さんに聞いたところ、先に現場の方に行ったという話だった。
「私たちは追いかけなくても大丈夫なんでしょうか?」
「お嬢ちゃん方は私と色々お話しする予定やったから、ここにおってくれたらええよ。」
千鶴さんが近くにあったポットのお湯から、急須でお茶を作ってくれていた。
慌てて手伝おうとしたんだけど、軽く制止されてしまった。
「とりあえず、ちょっと落ち着いとき。」
「はい…、落ち着きなく見えますか…?」
「せやね、自分も行かんとって焦ってるように見えるわ。」
図星だったので、少し恥ずかしくなった。
境さんに置いて行かれたかもと考えると、何だか焦れてしまう。
「澪ちゃんやったよね?」
「はい、今回はお世話になります。」
「もう一人、梓ちゃんいうのは妹さん?」
「そうです。似てましたか?」
「せやねぇ…、見た目というよりは雰囲気がよう似てたわ。」
初めて言われた表現だった。
梓とはあまり似ていないと言われることが多かったから、少し驚いた。
だけど、雰囲気と言われて、分かる人には分かるんだと妙に納得している自分がいる。
千鶴さんは、そういう何とも言えない説得力のある女性だった。
少し、羨ましく感じて、もう少しお話したいなと思っていた。
「みんなが来たら話しようと思てるけど、お爺ちゃんからはお嬢ちゃんたちとお話しするように言われてるんよ。」
「そうなんですか?」
「そうなんよ、何の話をするか難しいとこやねんけど、連れて行った三人との関係とかを聞いといて欲しい言うてたわ。」
境さんや陽向さん、静流さんとの関係性という事なんだと思うけど、詳しく話すのは少し気恥しかった。
恥ずかしいのと同時に、過去の話については話しにくいなと思うところもあった。
そうしているうちに、準備が整ったのか梓と澄玲ちゃんが入ってきた。
真琴さんはいつも通り朝が弱くて、それに野乃花ちゃんが付き合っているんだと思う。
「二人は梓ちゃんと野乃花ちゃんやね?」
「はい、お兄さんたちがいつもお世話になってます。」
まさか、梓に境さんのフォローをされるとは思わなかったので、ちょっと驚いてしまった。
梓がしっかり者だとは分かっていたけれど、ちょっと悔しい気がする。
千鶴さんはそのあたりも分かったようで、軽く流して、先ほど言っていた、今日は会話するという話をしていた。
梓と澄玲ちゃんも、話をそのまま素直に受け取っていて、取り留めのない世間話を続けていた。
話の中に高校での出来事が挟まれていて、最近の流行を知ることができた。
今も女子高生の間では、可愛いものが流行っているんだなあと、しみじみしてしまった。
「お姉ちゃんの大学は、最近何か流行ってるの?」
「色々な人がいるから分からないけど、私たちの周りでは秘湯巡りみたいなのが流行ってるわよ。」
「それはお兄さんの趣味なんじゃ…」
言われてみると確かに、境さんや陽向さんは特に温泉が好きなようで、色々なところを教えてくれる。
その中に秘湯と呼ばれるところが多くて、そこに行ってみると満足感が高いところが多い。
なので、境さんの趣味だけではなくて、仲間内で流行っている事に間違いはないと思いたい。
そんなことを考えていると、ようやく真琴さんたちが居間に入ってきた。
「おはようございます、すいません朝弱くて…」
「ええんよ、普段はゆっくりできてないかも知れんから、ゆっくりできる時はゆっくりしとき。」
まだ少し眠そうにしている真琴さんの横で、澄玲ちゃんがお茶をすすりながら千鶴さんとの雑談に混ざっていた。
澄玲ちゃんの中で、最近、ウーパールーパーがマイブームらしい。
ちょっと時代が違う気もしたけど、確かに最近はプライズにも増えている気がしていた。
「さぁ、お爺ちゃんに頼まれてた話をちょっとしよか。」
千鶴さんが話し始めたかと思うと、朔弥君と礼音君まで入ってきた。
宗玄さんと先に行ったのは三人だけだったらしいので、二人はまだこちらに残っていたんだと思った。
「まずやけど、今おらん三人と、付き合いの長い三人は役割分担が違うと思うねんけど、どう思う?」
「前に出る人と、後ろに控える人の違いですか?」
真琴さんが答えると、千鶴さんが首を横に振った。
そういう事ではないらしい。
でも、ノーヒントだとちょっと難しい気がしてきていると、野乃花ちゃんが口を開いた。
「前に進む人と、後ろで守る人じゃないですか~?」
「せやね、お爺ちゃんと行った三人は、道を切り開いて進む人。こちらの三人は帰るところを守る人ってイメージしたらええと思う。」
今度は千鶴さんが野乃花ちゃんの意見を肯定した。
千鶴さんが言うと、主婦が家を守るような雰囲気で、少しほっこりした。
だけど、あの宗玄さんの奥さんなので、只者ではないというのは確かなんだと思う。
「陽向ちゃんは、真琴ちゃんがしっかりしてくれてるから、後ろを見ずに進めるんやと思うわ。」
「はい…ありがとうございます。」
真琴さんが少し恥ずかしそうに返事をする。気持ちはよく分かる気がした。
ハッキリと交際していることを公言しているわけではないと思うから、見透かされたようで恥ずかしい気持ちになったのかなと思った。
「静流くんは論理的で理知的が過ぎるから、ちょっとぼーっとした感じの野乃花ちゃんがええんや。」
「あらー、それは光栄ですね~。」
相変わらず間延びした感じの返事をする。彼女の特性なのでそれで良いと思っているけど、知らない人は不思議だろう。
千鶴さんの話を肯定的にとらえているのだろう、野乃花ちゃんはニコニコしていた。
そこから、千鶴さんは梓と澄玲ちゃんに話をする。
「そこの男の子二人と対になると思うんやけど、猪突猛進な子と、直感で動くタイプの子みたいやね。」
猪突猛進が朔弥君で、直感が礼音君の事だろう。
梓の関係もあり、朔弥君と境さんの関係性もあって、言っていることが的を射ているので少し可笑しくなった。
朔弥君も一見、冷静なタイプに見えるのだが、境さんの前では子犬のようになり、何か問題が起こると猪突猛進を絵に描いたようになる。
礼音君は深く付き合っているのではないのでイメージだけだけど、会話の中で直感的なところを指摘してくるイメージがある。
「せやから、どこかに行かないように手綱を握るのと、直感をいったん理性で受け取る必要があるさかいな。」
「はい、また詳しく教えてください!」
「分かりました。」
元気に質問するよって言う梓と、冷静に肯定の返事を返した澄玲ちゃんが印象的だった。
そこから、千鶴さんはそれぞれに細かいところを説明し、それぞれに自分の立ち位置を認識できるように話していった。
私は境さんの危うさをちゃんと見ることと、それをちゃんと自身でイメージできるようにすること。
真琴さんは、うっかりしている陽向さんのサポートと、ダメなところはきちんと叱ってあげること。
野乃花ちゃんは、静流さんの論理だけでは話が進まないと思うので、頑なにならないように思考をほぐしてあげること。
梓と澄玲ちゃんについては、後で朔弥君と礼音君もセットでちゃんと話をするということになった。
「それぞれに役割を説明はしたから、それをどう考えたらええか、じっくり考えてあとで教えてくれる?」
「分かりました、澪と野乃花ちゃんも一緒に話しながら考えようね。」
真琴さんを中心に、それぞれの役割と、相手の問題点について客観的に話をすることにした。
少し愚痴も混ざってしまっていたけど、自分の相手についてはどうしてもバイアスがかかった状態で見てしまうので、客観的な意見をもらえて嬉しかった。
そうしないと、自分の中でバイアスのかかったまま、間違えた方向に動いてしまっただろう。
ある程度自分の役割をしっかり理解し始めてくると、それぞれのパートナーについて、ちょっとした不満を暴露する大会になってしまった。
もちろん、朔弥君や礼音君から聞こえないタイミングでの話ではある。
自分たちの役割を整理すると、少しだけ結が近くに寄ってきた気がした。
彼女の本当の気持ちまでは分からない、だからこそ、今の立場を考えて、次に会うまでにはちゃんと話せるようにしておこうと思った。
—— 役割が役の持ち主に警告し始めているように感じていた。
『相補』でした。
今回は、
女性陣+高校生組を中心に、
“支える側”の話を書いてみました。
宗玄さんが世界構造や認識について語る人なら、
千鶴さんは“人としてどう在るか”を教える側なんだと思っています。
誰かが前へ進むなら、
誰かは帰る場所を守る必要がある。
ただ、
それは決して“後ろにいる側が弱い”という話ではなく、
むしろ前に進める理由そのものなんですよね。
澪、真琴、野乃花。
それぞれ役割が違っていて、
支え方も違う。
そして、
梓と澄玲も、
まだ明確ではないながら、
少しずつ自分の立ち位置を見つけ始めています。
最後の結の描写については、
“関係性が整理されるほど近づいてくる”
というイメージで書いていました。
次回以降、
男子側の修行も少しずつ本格化していく予定です。
引き続きよろしくお願いします。




