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始動

こんばんは、いつもありがとうございます。


今回は高校生組サイドのお話です。


合宿免許という、いかにも夏休みらしいイベントですが、

彼らにとっては“移動手段を得る”という意味でも、大きな転機になっています。


少しずつ、

自分たちの力で動けるようになっていく。


そんな空気を感じてもらえたら嬉しいです。


今回のタイトルは『始動』。


よろしくお願いします。


いつも境さんの車に乗せてもらって、憧れや羨ましさを感じていた。

だからこそ、夏休みに免許だけは取ろうと決めていた。

一人だとちょっと不安だったのもあり、礼音も道連れにした。


「朔弥は車決まってる?」

「いや、親父に相談しているところ。」


礼音に質問されたので正直に答えた。

境さんと同じようなスポーツモデルが良かったのだが、予算の出どころは親父なので、相談するしかない。

一応、某群馬県のメーカー縛りでお願いはしている。


合宿施設は高原の方にあるので、最寄り駅までは電車で移動し、そこからは施設の車になる。

結構遠くまで移動するが、折角なので道中も楽しもうということになり、車両の一番後ろの席を取った。

後ろを気にせずにリクライニングできるというだけの理由だが、外せない条件だ。


在来線で都内まで出て、特急車両に乗り換える。

特急車両に乗り込む前に、飲み物と、ちょっとした食べ物だけは調達しておいた。


「このスケジュールなら、大阪での合宿までに間に合いそうだね。」

「そうだな、車の手配も間に合えばいいんだけどな…」


丁度相談しているところだが、実際にはメーカーだけを指定して車両のチョイスは親父に任せることになりそうだ。

予算の問題もそうだが、車両の良し悪しも、手配の方法も今の自分にはわからなかった。

あと、親父のセンスを信用しているという部分もあるので、任せることに抵抗はなかった。


「最近はMTで取得する人少ないらしいねぇ。」

「MTの車自体あまり見かけないしな、時代の流れだろうな。」


車窓から景色を楽しんだりと旅行らしい空気があったが、合宿免許に向かう道中ということもあり、車の話が多かった。

ただ、普段見ない景色を車窓から眺められたのは、今日一番の思い出になるだろうと思う。

そこから数時間で最寄り駅まで到着し、駅前から教習所の車で宿泊施設まで送ってもらった。


「さて、ここから二週間、共同生活だね。」

「ああ、しばらくよろしくな。」


礼音はこういうところが軽くて融通が利くので、普段から色々と助かっている。

ツインルームにそれぞれの荷物を置いてから、近くの建物などを確認して回った。

近くに飲食店からドラッグストアまであったので、期間中の生活には困らなさそうだった。

消耗品など、使いきれなさそうなものは礼音と相談して共同で購入することにした。


翌日から、教習が開始された。

初めて車を運転するが、普段から知り合いの車に乗ることが多いためか、発進や変速以外の部分は拍子抜けなくらい簡単だった。

境さんや静流さんの隣で運転するほどの勇気はないが、友人や家族くらいなら抵抗ないだろう。

教習が開始されてから数日が経ったころ、礼音と二人で部屋の中で話し込むことがあった。


「そういえば、親父さんに相談していた件はどう?」

「ああ、車両は決めたから、免許が取得できる頃には持って帰るって連絡があった。」

「どんな車かは分かった?」

「いや、親父曰く、“楽しみにしておけ”だそうだ。」

「らしいねぇ。」


確かにうちの親父らしく、秘密主義というか、当日まで情報を教えてくれない。

とはいえ、趣味や傾向は分かっているので、心配するほどではなかった。

そんなどうでもいい話をしていると、礼音の部屋との境目の扉が開かれたまま、まるで閉じているかのような映像が見えた。


「ん…なんだ?」

「気のせいじゃないみたいだね。」


礼音も同じ状況になっていたようで、あたりの様子を窺っていた。

以前に境さん、陽向さんと一緒に出掛けた時に、心霊現象というやつに遭遇してから、俺たちも何かを感じたり見たりするようになった。

親父もそう言うオカルトを容認するタイプらしく、相談してみたら“そんなこともある”と一蹴されたことがある。


「特に何か害があるわけではなさそうだな。」

「そうだね。とりあえず放置しておいて問題なさそう。」


何かがあるという感じはあるのだが、特別、何かが起こっているわけではないので放置することにした。

今はそれよりも、ノーミスで免許を取得できるかどうかの方が重要だ。


そうこうしてながら毎日を過ごしていると、仮免許を取得し、卒業検定、学科試験と怒涛の如く過ぎて行った。

幸い、ノーミスだったので時間も料金も最初の予定通り進んでくれたので、二人して無事に免許を取得できた。

あの一件以外、特に気になるような事件も起こらず、無事に帰路につくことができた。

事件と言えば、一人だけ教習者を畑に落としたやつがいるという噂を聞いたが、その程度だったので、平和だったなと思う。


「礼音は車を買う予定はあるのか?」

「いや、しばらくはいいかなぁ。熟慮したいしね。」

「そうか、また検討するようになったら話を聞かせてくれ。」

「いいよ、しばらくはカーシェアとかになると思うけどね。」


そんなことを言いながら、それぞれの自宅に戻っていった。

近所なので、また明日、くらいの感覚で。


自宅に戻ると、親父から連絡があった。

あらかじめ、今日戻ってくることについては連絡していたので、手配した車を持ってきてくれるらしい。

小一時間ほどで戻るという事なので、一旦部屋に戻って荷解きを行うことにした。


本当に小一時間ほど経過したころに、外からエンジン音が聞こえてきた。

その直後に、親父が呼ぶ声が聞こえる。


「朔弥、ちょっと降りてこい。」


階下に降りると、玄関が開いたままだったので、その足で家の前に出ると親父が車を停めた後だった。

見覚えのある、深い青を纏ったSUVが停まっていた。

結構大きい車なのだが、安全装備が優れているというのを聞いたことがあり、運転の心配はしなくてもよさそうだった。


「もし何かあっても、みんな怪我をしないで済むように、SUVにしておいたぞ。」

「あ…ああ、ありがとう。近くで見ると結構デカいな。」

「乗ってみると意外と乗りやすいから、明日にでも乗ってみるといい。」


親父世代の人の運転しやすいというのは、俺たち世代の運転しやすいとは別物だろうと言いたくなったが、胸に収めておいた。

ガソリンも満タンにされており、勝手に乗り回せるようにと配慮してくれたのが分かった。

丁度いいので、明日は境さんのところに行って、大阪での合宿の話を聞いておこうと思った。


自宅に戻ると、車のマニュアルなどをテーブルに持ってきてくれていたので、操作類の説明を確認した。

実際に乗ってみた親父の感覚も聞いておいた。自分がのるときの参考にもなると思ったからだ。

結局、日付が変わるかどうかまでそんな話をして、眠気を感じたので翌日に備えて寝ることにした。


翌日、境さんに連絡を取って話を聞きに行った。

その時に、境さんの事務所に、見た目から超高級なミニバンを改造した車が停まっており、自分の車がかすんで見えてしまった。

車の話ができると楽しみに行っただけに、少し寂しい結果になってしまった。

とはいえ、皆さんよくできた方ばかりなので、事務所に戻ってから色々と聞いてくれたので、少しうれしくなった。

その勢いに任せて、大阪の合宿については自分も車を出すという話をしてしまっていた。

後悔するほどではないが、勢いに任せすぎたかなと、後になって少し反省した。



—— まだ知らない“向こう側”が、西で待っている気がした。

『始動』でした。


今回は朔弥&礼音の合宿免許回でした。


特急に乗って、共同生活をして、

車の話をして、教習を受けて。

かなり“青春”寄りの空気感になっています。


一方で、

彼らも少しずつ“向こう側”の気配を感じ始めています。


ただ、境たちとは違い、

まだ完全に異常へ踏み込んでいるわけではありません。


だからこそ、

少し慣れてしまっている感じや、

「とりあえず様子見でいいか」という空気感も意識してみました。


そして、ついに朔弥の車も登場です。


境への憧れと、

父親なりの実用性が混ざったチョイスになっています。


次回からはいよいよ、

大阪での合宿編へ入っていく予定です。


引き続き、よろしくお願いします。


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