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霧間

キャンプ回……のはずが、少しずつ妙な気配が混ざり始めました。

今回はBBQや肝試しなど、夏休みらしいイベントを楽しみつつ、結とは異なる“何か”が覗き込んできます。


日常の延長線上にある違和感や、山の空気感を楽しんでいただければ幸いです。

それでは、第42話「霧間」、よろしくお願いします。

二日目の朝は少しゆっくりしていた。

昨日の出来事が引っかかって、眠りが浅くなっていたのだろうか、いつもよりすっきりしない目覚めだった。

リビングに出てくると、朔弥も同じ状況らしく、もともとから少し乱れ気味だった頭をかいているので、されにぼさぼさになっていた。

逆に、静流や陽向については、特に気になることは無かったらしく、爽やかな感じだった。


修さんを含めた男性陣がコーヒーメーカーからコーヒーを淹れてテーブルについて雑談をしていると、女性陣が次々と集まってきた。

何かをしていたというわけではないらしいが、みんな朝は弱いらしく、目が覚めてから布団に座ったまま寝ている人も居たそうだ。

朝が弱いというのは何となくイメージがついた。

以前に澪が事務所に泊まった時も、上の部屋からパジャマのまま降りてきて慌てて止めた記憶がある。

自分は見たことは無いが、静流が野乃花ちゃんと大学で会ったときに、寝る時に使っていたと思われるヘアバンドが付いたままということもあったそうだ。

真琴さんだけは朝が弱いイメージはなかったが、布団の上から最後まで動かなかったのが真琴さんだったらしい…。


「今日は外でBBQをやろうか。」


修さんが冷蔵庫からBBQ用と思われる食材を取り出してきた。

発泡スチロールの箱に全てまとめて入っているあたりが、こういったイベントに慣れているなと感じた。

奥さんの恵さんも、食器などの細かい準備を進めているのを見ると、息の合った夫婦というのは良いなとしみじみ思った。


「父さん、焼き台とかは何を使う?」

「ブロックで組んでるやつを使おう。人数が多いから大きい方が良いだろ?」

「確かに、じゃあ大きめの網を出してくるよ。」


静流と修さんの掛け合いを見ていると、他にもこういったイベントをやっているのだろう。

準備も手早く、会話も慣れた感じだった。

自分たちも何か手伝おうと思っていたのだが、準備段階では手伝うことは無かったようだ。


「なぁ、静流、着火剤とかライターとかどこにあるん?」


陽向が、炭を準備された焼き台の火を準備しようとして静流に尋ねていた。

昼食には少し早い気がしたが、確かに今から準備しておいた方がスムーズだと思った。

このあたりの空気を読むところは流石だ。


「おう、陽向君、そんなものはないぞ!」

「へ?どういうことですか?」

「そこに着火用の木材があるから、それで火おこしをしてくれ。」


間抜けな顔をしている陽向に対して、修さんが指差した先には歴史の授業で見たような道具があった。

木の棒と板、それに乾いた藁か木くずのようなものがセットになっておかれていた。


「え…本気ですか?」

「当然だろう、これがアウトドアの醍醐味だよ。」

「陽向、うちの父さんはこれがデフォルトなんだよ…。」


まさか、という顔で固まっている陽向に対して、修さんはさも当然と言い放ってしまった。

更に硬直する陽向を見て、静流がフォローしてくれたことで、ようやく時間が流れ始めたようだった。

火おこしを始めて数分、陽向から礼音、朔弥と交代していき、朔弥が気合と根性で火おこしに成功した。

その火種を炭に持ってきて、ようやく炭の準備が完了した。


「さて、焼き始めるからみんな食べ始めろよー。」


修さんが焼いたり炒めたりとしてくれていて、その後ろにいつの間にか組まれたピザ窯で恵さんがピザを作ってくれていた。

みんなで食事をしているところで、朔弥と自分が昨日見たものについて、陽向と静流にも相談してみた。


「昨日の釣りで、川向こうにいた奴って何だと思う?」

「せやなぁ、いつも出てくる結ちゃんとは違う感じやな。オトン関係の心霊系とも違う感じがしたんよなぁ…」

「俺は見てなかったんだけど、何があったの?」


静流は、その時、修さんといたので、この話については全くわかっていなかったらしい。

なので、朔弥を呼んで、静流と礼音にも一連の流れを説明しておいた。

礼音も静流の向こう側に居たので、同じように話の流れを知らなかったので、説明しておいた。


「なるほど、父さんが野生動物の話をしていたのは、それでだったんだね。」

「うーん、先日の女の子とは違う感じですよね。なんていうか、接触しようという意思が感じられない気がするんですよ。」


礼音に言われてみて、確かに気になるなと思った。

今までは、結の方からアクセスしようという意思があって、それがうまくいかずにすれ違っていた感じだった。

それに対して、昨日のやつは何と言うか、隠れてこちらを窺っているように感じた。

少なくとも、自分の中では、これが結と同じ人物と考えることは不自然だという結論に落ち着いた。


「何の話をされてるんですか?」

「お兄さん、私たちも話に入れてくださいよー。」


澪と梓ちゃん姉妹が話に入りたくて後ろから近づいてきていた。

ついでなので、他の女性陣も呼んで軽く話をしておく。

静流や礼音に話をした時よりも、幾分かかいつまんで話をしておいた。


「…あの、境さん、怖い話はちょっと…」

「境君、わざとでしょ…?」


澪が階段とかが苦手なことは分かっていたので、そんなつもりで話していた訳ではなかったのだが、十分に怖がらせてしまったようだ。

それを見た真琴さんが少し楽しそうに話を拾いに来た。

そんな中、風雲児の紬ちゃんが現れた。


「ねぇねぇ、皆さん、肝試ししましょう!」

「お兄さん、紬ちゃんの提案に乗りませんか?」


とんでもないことを言いだすなと思っていたら、まさかの援軍が澄玲ちゃんだった。

さっきまで女性陣で話をしていたと思ったら、この話を聞きつけてか一番近くまで来ていた。

澪だけが少し嫌そうにしているが、他のメンバーは悪ノリもあるのか賛成していた。

まさかの反対ゼロで中立が一人という結果になってしまい、今晩にも肝試しが決行されることになってしまった。


修さんに相談すると、野生動物はいるが、あくまで草食動物がメインであり、危険を伴うものではないということで、肝試しはやってよいということになった。

むしろ、こういったときのメインイベントだろうと、推されてしまった。

その夜、男女ペアを決めて決行することになったが、ペアはくじ引きではなく、静流の独断と偏見で決められてしまった。

各ペアは、静流と野乃花ちゃん、陽向と真琴さん、朔弥と梓ちゃん、礼音と澄玲ちゃん、紬ちゃんと修さん、自分と澪という組み合わせだ。

紬ちゃんについては静流とという話もあったのだが、紬ちゃんが修さんと探検したいという希望を出したので、修さんとペアになった。


前のペアが出発してから、五分ごとに次のペアが出発していく。

最期の自分たちが出発するころには、最初に出発した静流が帰ってくるかと思ったが、意外と帰ってくる前に自分たちが出発することになった。


「境さん、離れないでくださいね…。」


本気で怖いらしく、少し震えているような気がした。

心霊現象に出会ったことはあるはずなのだが、どうもこういったものは苦手なようだ。

実際の現象は平気なのに、ホラー映画では盛大に悲鳴を上げてしまうのは、仲間内では有名な話である。

昔に、陽向が悪ふざけで事務所のスクリーンでホラー映画大会をやった日は、悲惨なことになっていた。


「しかし、思ったよりちゃんと整備された道があるんだな。」

「はい、でも、小枝がいっぱいあって困ります…。」


小枝を踏む音も怖い気がするようで、ぴったりくっついたまま離れようとしない。

可愛いところもあるなと思う部分でもあるが、少し心配になる部分でもあった。

予定されたコースを進んでいくと、昨日、何かを感じたエリアの近くを通りかかった。

記憶にあるあたりをじっと見ていても、特に何かが起こるわけではなかった。


「特に何もなさそうだな、澪も大丈夫だから…」


そう言っていると、昨日のエリアとは違うところから複数の視線を感じた気がした。

心霊現象とか、結が近くに来たとかそういった感じではない。

何かが霧の向こうからこちらを窺っている。

山の中なので薄い霧はずっとかかっていたのだが、気が付くと濃霧と言えるくらいに濃くなっていたことに気づいた。

その霧の向こうに、明らかにこちらを窺っている何かがいた。


「境さん…?」


澪が不安そうにこちらを見てきたので、ジェスチャーで静かにと伝える。

怖がらせるための動きではなく、何かを感じたということに気付いて、澪も動きを変えずにあたりを窺い始めた。

何事もなかったように予定のコースを進んで行くが、警戒は解かずにいた。


「あの崖の間、おかしくないですか?」


澪に言われてよく見てみると、崖の間、その先が全く見えなかった。

手に持っていたライトを向けても何も見えないというのは、何かおかしい。

結が現れる時のような、その空間が何か歪んでいるような感覚を覚えた。


「澪、指輪の方は何もないな?」

「はい、特に何も起こってませんし、結ちゃんの気配も…」


何かわからないが、不穏な空気が漂ったままだったので、二人とも少し足早にコースを進んだ。

そのまましばらくすると、ゴールに設定している別荘が見えてきた。

少しほっとしていると、先ほどまで濃かった霧が、ほとんどわからないくらいに薄くなっていたことに気が付いた。


「とりあえず、無事に帰ってこれましたね。」

「ああ、少し冷や汗が出た…」


一先ず無事に別荘まで戻ってこれたことに安堵し、事の詳細については気にする余裕がなかった。

肝試しは、全員が無事に戻ってきたことで終了となり、別荘の中に戻ることになったので、そこで情報を整理しようと思った。


「さあ、中に入ってくれー、夕食の後にスクリーンで映画をみるぞー。」


修さんがみんなを集めて、夜の予定を簡単に説明してくれた。

相変わらず、色々と豪快ながら気遣いの人だなと、ありがたく感じた。


夕食を摂りながら、先ほどの視線は何だったのだろう、それを整理しないとと思った。


—— あの視線、その気持ち悪さが残っていた。

今回は別荘二日目のお話でした。


火起こしから始まるBBQ、肝試し、夜の霧――と、かなり“夏休みイベント回”っぽい内容になりましたが、その裏で少しずつ別の異変も混ざり始めています。


これまで登場していた結とは、どこか違う気配。

接触しようとしてくるのではなく、“覗いている”ような感覚。

このあたりは今後の伏線にもなっていきます。


あと、修さんが思った以上にアウトドアガチ勢になりました。

着火剤禁止は流石に自分でも笑いましたが、あの世代だと本当にやりそうなんですよね……。


そして、澪は相変わらずホラー耐性が壊滅していました。

心霊現象は平気なのに、雰囲気系がダメというのは、案外リアルかもしれません。


次回は、肝試しの後に感じた違和感や、別荘周辺の空気感について、もう少し掘り下げていく予定です。

少しずつ、“境界”が曖昧になっていきます。

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