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余暇

少しずつ、見えてくるものが増えてきた。

けれど、だからこそ、こうした何気ない時間が大切に思えるのかもしれません。


今回は、そんな“合間”のような時間のお話です。

どうぞよろしくお願いいたします。


後日、陽向の方も真琴さんと話をする機会を設けたということを聞き、仲間がいたという安心感を感じていた。

そんな話をするのに、いつもの喫茶店にいつもの三人で集まっていた。

自分はここしばらく顔を出していなかったのもあり、妙な居心地の良さを感じていた。


「そういえば、二人とは少し違うけど、俺の方もちょっとした事件があったよ。」


静流の方は、野乃花ちゃんの父親と静流の父親が釣り仲間だということは知っていたので、釣りに行ったというところまではスッと入ってきた。

ただ、そこに野乃花ちゃんの兄弟が全員参加したというのは、また思い切ったなと陽向と二人でびっくりしていた。

その中で海中にまで異変が発生していたというのを聞いて、二度びっくりした。


「二人とも、何らかの異変に遭遇したんだな。」

「せやな、逆に境だけ遭遇せんかったのにビックリやわ。」

「そうだね、一番の当事者とばかり思っていたからね。」


言われてみれば、自分だけは何も起きなかったという、ちょっと疎外感を感じるようなものがあった。

とはいえ、あの話をしている最中に何かが起きても困っていただろうから、少女からの気遣いがあったのだろうと、好意的に解釈した。

逆に、陽向の方は話を聞いていると、異変が起こったからこそ言えたセリフだろうから、それも気遣いということでいいだろう。


「あ、思い出したんだけど、例の女の子の名前って聞いたっけ?」

「そや、聞いてへんわ!」

「名前を尋ねるそぶりはあったから、恐らくは聞いているだろうし、後で澪に確認しておく。」


静流に言われて思い出したが、確かに話をしている中で名前を聞いていたが、その名前自体を聞き忘れていた。

他にも情報が多かったので、そこまで気が回っていなかったのだろう。今の今まで忘れていた。

一先ず澪にチャットで確認のメッセージを送っておき、回答を待つことにした。


その後、取り留めのない話を続けていると、静流が話題を振ってきた。


「そういえば、境と陽向も釣りの方は行ってないんじゃない?」

「せやなぁ、前に行ったんも静流に誘われたときやったからなぁ。」


以前に陽向と、釣りに行って、そのままBBQとか良いなという話をしているときに、静流に誘われたことがあった。

静流の父親がクルーザーを持っていて、そのまま沖のほうまで釣りに出るというのは言った当日に聞かされるという、聞いてなかったことのオンパレードだったのもいい思い出だ。

かといってフルメンバーで行こうと思うと、流石に乗り切れない可能性がありそうだから、その時は別のプランになるだろう。


「父さんも、今回、人数が集まったのに触発されてるみたいで、声かけといてって言われたんだよ。」

「なるほど、それなら皆にも声をかけておくか。」


海なら釣りに行くメンバーと他の準備をするメンバーに分けることもできるだろうし、山ならグランピングのような感じで、渓流釣りになりそうな気がしていた。


「ええと思うけど、すぐには集まらんやろ?」

「そうだね、ちょっと先だけど夏休みに入ってからが良いかなと思うよ。」

「とりあえず、グループチャット作って連絡回しておくか。」


個別に連絡すると集計する側が大変だと思ったので、グループチャットを作っておくことにした。

いつもの六人のグループはあるのだが、高校生チームのほうまで含めたグループを作っていなかったからだ。

グループを作るとすぐにメンバーから挨拶が返ってきた。

それぞれの個性が出ていて、謎の動物のイラストから、短文で返してくる者まで様々なのが面白かった。


「礼音と朔弥は、いつもながら対照的でおもろいなぁ。」


男子ながらファンシーなキャラクターのアイコンで返してくる礼音と、軍隊かなと思うくらい固い短文を返してくる朔弥という構図だ。

二人も付き合いは長いらしいが、絵に描いたように両極端な性格をしている。

自分たちと普段から一緒に行動しているわけではないので、普段からそうかまではわからないところだが。


「さて、高校生チームは夏休み前まで成績を落とさないようにしてもらわないとな。」

「そうだね、補習でスケジュールの都合がつかないとか、カッコつかないもんね。」


万一、成績が危なそうなときは、澪と真琴さんにお願いしようと心の中で考えていた。

先ほどの静流の企画もそうだが、その先に勉強会という名の合宿が控えているのだから、補修になると非常に困る。

そのあたりも考えると、勉強会の計画も現実的に考えておかないとなと思えてきた。


そんなことを話していると、丁度澪から返事が来た。


「あの少女の名前だが“結”っていうらしい。」

「下だけみたいやけど、十分な進歩やと思うわ。」

「そうだね、名前が分かるって、それだけですごく近づいた気がする。」


澪の話によると、結という名前についても、少女本人はあまり自信がなかったらしい。

ただ、自分の役目として色々と伝える必要があるという使命感だけが強かったそうだ。


「なぁ、どうでもいい話やけど、境の服って暑くないん?」


唐突に陽向が話を振ってきた。

確かに、上から下まで真っ黒なので、今の時期だと少し暑いように見えるだろう。

自分としては上着を脱いだりして調整するので、そこまで気にしていなかったが。


「そうだね、今からちょっと見に行こうか!」


こちらの意見を聞く前に、二人に連れられて大型アウトレット施設に向かうことになった。

陽向の車に乗ってしばらく走ると、先日、澪と行ったところとは別の施設に到着した。

澪と行ったところは女性向けブランドが多く、男性向けブランドが少なかったから、こちらにしたということだ。

自分はこのあたりは詳しくないので、そのあたりが得意な静流に任せておくつもりだ。


「さて、向こうもそろそろ着くんじゃないかな?」


施設の入口辺りでショップリストを見ていると、入口の向こうから澪たち三人の姿が見えた。

静流が車の中で携帯を触っていたので嫌な予感はしていたのだが、案の定、女性陣もこちらに呼んでいたのだ。


「だって、境の服を選ぶなら澪ちゃんにお伺いを立てないと。」


そんな軽口をたたきながら、楽しそうに笑う静流を見て、確信犯だなと思った。

言わんとしていることは分かるが、皆で来るということは、ちょっと見世物的な側面が見え隠れする。

しかし、服のセンスが壊滅的だということは自認しているので、みんなに頼らざるを得なかった。


「やっぱり、境君は同じ服で来たわね。」

「一張羅~」


真琴さんと野乃花ちゃんが、ちょっと呆れたような、ちょっとからかっているような感じで話しかけてくる。

確かに、ほとんど同じデザインの服しか持っていないので、同じ服と言われても仕方ない。

流石の澪も、苦笑いを浮かべて様子を見ている事しかできなかったようだ。


どうやら、今回は自分の服だけではなく、陽向と静流も自分の服を買うつもりだったようで、色々な店に入って見て回った。

二人とも慣れているようで、色々な服を試着しては、女性陣の反応を見ているようだった。

女性陣もそのために来ているのが分かっているらしく、それぞれに忌憚なく意見を出してくれていた。

ただ、自分の服だけは自分で選ぶのではなく、女性陣が選ぶようになっていた。


「境君はどうしてもカジュアルが似合わないわねえ。」

「どうしてもモード系になるよねぇ~、チャレンジでゴシックカジュアル?」

「私が出しますから、良いと思うものは全部…」


女性陣が思い思いにお勧めの服を持ってきて試着させられる。

ある意味、着せ替え人形感覚だろうとは思うが、意外と何着もとなると体力を使うなと思った。

結果、十着と少しを購入することになったが、自分の好みは一切関係なく、女性陣に進められたものをそろえる形になった。

自分の趣味なのでということで、費用は澪(厳密には澪の両親)が負担してくれることになって、微妙に申し訳ない気持ちになった。


「さあ、思う存分買い物もできたことだし、夕食は食べて帰ろうか。」

「そうね、私たちも、いい気分転換になったわ。」


静流の言葉に真琴さんが反応する。

静流も大きめの紙袋にいっぱいの服を、陽向はいつも通り帽子を含めた衣類を買ってきたようだった。

女性陣は男性陣の試着を見て、いい気分転換になったという事なので、こんなことでも人の役に立ったという小さな満足感を得られた。

そのまま、それぞれの車で夕食を摂るのに飲食店に向かい、解散するころには日付が変わろうかとしていた。


解散前に見た、澪の指には例の指輪があった。

その色は前と変わらず蒼く輝いていた。


—— こういう日があっても良いなという思いの近くに、冷めた蒼い輝きがあった。

第39話「余暇」をお読みいただきありがとうございました。


今回は大きな事件というよりも、

それぞれが少し肩の力を抜いて過ごす日常回となりました。


結という名前。

少しずつ近づいていく感覚。

その一方で、まだ冷たく残る違和感。


買い物や雑談、アウトドアの計画など、

賑やかな時間を描きながらも、

どこかに“境界”の気配が残る回にできていれば嬉しいです。


そして、境の服装問題(?)も、ようやく周囲が本気を出し始めました。


次回以降も、よろしくお願いいたします。


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