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余熱

今回も少しだけ“日常”寄りのお話です。


……とはいえ、いつものメンバーが集まれば、

結局、何かしら騒がしくなるわけで。


補習騒ぎに、勉強会に、夏休みの計画。

そして、少しずつ深まっていく人間関係。


一方で、彼らの持つ装飾品は、

静かに、確実に“何か”へ近づいていました。


そんな、嵐の前の余熱みたいな回です。


「さて、言い訳はあるかな、礼音君、朔弥君。」


今まで見たことの無いようなオーラを纏った梓ちゃんが、二人の男子高校生の前で腕を組んで仁王立ちしていた。

対して男子二人は完全に萎縮してしまっている。

まあ、事情を聞いているだけに、梓ちゃんの怒りも尤もだと思った。


「まさか、こないだ言うてた話が現実になるとは思わへんかったなぁ。」

「そのあたりを調整してくれた梓ちゃんの手腕に惚れ惚れするね。」


先日、補習の話が出ていたが、二人とも学期末テストの成績が芳しくなかったらしく、補習の対象者になっていたらしい。

そこを、色々な事情を知っていた梓ちゃんが、再テストのクリアを条件に補習を免除してもらえるよう調整してくれた。

そのテストのサンプルを澪に作ってもらったのだが、この結果がまた悲惨なものだった。

結果、事務所で二人が正座させられて、梓ちゃんが仁王の如き威圧感を放っている構図を、いつもの三人プラス澪で見物していた。


「はい、勉強の仕方が分からず…」

「自分も同じです…」


二人してシュンとした雰囲気のまま、勉強の仕方が分からないということを言ってくる。

テストの結果を見る限り、確かにそんな気がする。

傾向も二人それぞれで、礼音は国語や英語といった語学は得意で、数学や物理は壊滅的。

朔弥は数学や物理など、論理思考のものは得意なのだが、国語や社会と言った部分が惨憺たるものだった。


「勉強の仕方が分からないって、中学生じゃないんだから、しっかりしてよ。」


怒りと呆れが含まれた感情のまま、梓ちゃんが二人を叱るように言った。

とはいえ、偏り方に特徴があるので、ちゃんと勉強させれば何とかなる気がした。


「まあまあ、朔弥君の勉強は梓が見てあげてくれる?」

「いいけど、礼音君の方はお姉ちゃんが見てくれるの?」

「いや、物理学とかそっち系のやつは、境に見てもらうのが良いんじゃない?」


澪が勉強を教える担当を采配しようとしてくれていたが、礼音の方についてはこちらに流れ弾が来た。

静流の悪ノリかとも思ったが、特にそんな様子もなく、それが良いといった感じだった。


「せやな、真面目な話、そっち系の勉強は境が一番強いわ。」

「社会とか民俗学みたいなところは、流石の陽向って感じなんだけどね。」


陽向と静流がそれぞれ好きなことを言っている。

一先ず、礼音のテスト結果と解き方を見てみることにした。


テストの結果を見る限り、暗記する部分などについては特に問題はなく正答しているのだが、複雑な公式が必要なものについては全然だった。

どうやら、暗記物は得意だが、どこにそれを使うかという部分や、暗記したものを応用する部分で躓いているようだった。


「なるほど、傾向は分かったから、再テストまで頑張ってみるか。」

「は…はい、お手柔らかにお願いします…。」


それからテストの前日まで、一日あたり二~三時間程度の勉強会を続けた。

初日こそ来なかった澄玲ちゃんも参戦し、勉強後のコーヒータイムがあったり、適度に息抜きをしながら勉強ができたと思う。

そしてテスト当日を迎え、翌日に結果を聞くことになった。


夕方に差し掛かるころに高校生チームが全員そろって事務所に入ってきた。

こちらは六人が揃っている状態で結果を待っていた。

結果的には二人とも危なげなく再テストをクリアしたらしく、心なしかホッとしているように見えた。


「とりあえず、このあいだの再現にならなくてよかったな。」

「全くです…。」


二人に声をかけると、朔弥が心の底からといった声で呟いた。

確かに、あの梓ちゃんの様子を見ると、もう勘弁といった気持にもなるだろう。

これで、憂いは取り除けたとばかりに静流が話し始めた。


「さあ、みんなの予定を確認しようか。」


静流が先日作ったグループチャットの結果を集計してくれていた。

結果的には夏休みに入ってすぐの土日辺りが一番都合が良いということで、静流が電話をかけ始めた。

話しぶりからして、静流の父親に電話をかけているようだった。

週末に山の方を借りるという話になったようで、数日分の着替えだけを準備して事務所に集合するということになった。


「みんなで出かけるなら、車はどうするんだ?」

「うちの方でミニバンを一台出すから、もう一台は誰かにお願いできるかな。」


静流の方で七人まで乗せられるとして、もう一台は誰の車でも問題なさそうに思えた。


「私の方で出すわ。荷物を考えるともう一台もミニバンの方が良いでしょ?」


真琴さんが名乗り出てくれた。

ミニバンが必要なときはいつも真っ先に協力してくれるので非常に助かる。

運転自体は交代してもいいだろうと思っていたので、その案に乗せてもらうことにした。

今日は来ていないが紬ちゃんも声をかければ参加すると思ったので、そちらの調整は梓ちゃんに任せることにして、今日のところは解散することになった。


一人になった事務所で、これまでの事とこの先の事を少し考えていた。

合宿までの間に、一度くらいみんなで出かけて、それぞれの距離をもう少し縮めた方が良いと思っていたので、静流の企画に助けられたと思う。

いつものメンバーの間で、それぞれにイベントもあったことだし、高校生チームとの距離も未だに微妙だと感じていた。

今後、何かがあったときのために備えておくことは正しい判断だろうと思った。

そんなことを考えているうちに、いつの間にか眠りに落ちていた。



「おはようございます。」


静流の企画当日、一番乗りだったのは澪だった。

楽しみだったというのもあるだろうし、最近の流れ的に少し不安に思ったという面もあるだろう。

小型のスーツケースを片手に事務所のソファに腰を掛けた。

続けて梓ちゃんも入ってくる。そこからは続けざまにメンバーが到着し、ものの半時間程度で全員が揃った。


「ちなみに、今日は何処に向かうんだ?」

「ああ、うちの別荘だよ。父さんの趣味全開だけどね。」


サラッといったが、普通に別荘があると言える、その感覚に少し羨ましさを感じた。

男女で別々になるような感じで車に乗り込み、荷物を全て載せると二台の車が出発した。

全員欠席せず、元気に出発できたことで、今回の企画が楽しみになってきていた。


女性陣の様子を見たが、指輪、イヤリング、チョーカーとみんなちゃんと身に着けていた。

今回も何か起こるような気もするし、静流の両親を巻き込むのもどうかと思いながら、車の揺れは絶妙な眠気を誘ってきた。

しばらく眠っていると、きっと現地に到着しているだろうと思いながら、睡魔に逆らえなくなった。


—— 別荘の中でも、それぞれのアクセサリが輝きを鈍らせることは無かった。

今回はかなり“青春群像劇”寄りの回になりました。


高校生組の補習騒ぎから、

全員での夏イベント準備まで、

ようやく「大人数作品」らしい空気が出てきた気がします。


特に、礼音と朔弥の凸凹感は、

書いていて楽しかったですね。


そして、静流家の別荘編へ突入。

ここからは、少しずつ“異変”の範囲が広がっていきます。


とはいえ、まだ今は、

皆で笑っていられる時間。


その空気感も大事にしていきたいと思っています。


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