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境界

関係性を進めるというのは、簡単なようで難しいものですね。


今回は陽向視点でのお話になります。

これまで曖昧だった関係に一つの答えを出す回となりました。


ただし――

その「一歩」は、日常の中だけでは完結しません。


少しずつ、確実に。

その“境界”は崩れ始めています。


どうぞ、お楽しみください。


境に色々言った手前、自分も腹を括るしかなかった。


境だけではなく、以前から静流にも言われ続けている、姐さんとの関係性だ。

俺自身の気持ちは分かっているし、二人も分かってくれている。

とはいえ、今の関係性を崩すのも嫌で、いつまでもズルズルしているという自覚はあった。


境を送り出した後、自分の中でどうしていいのか分からず、一先ず両親に相談してみることにした。


「なぁ、オトンとオカンが付き合い始めた時って、どんなんやった?」


居間にいた両親に直球で質問してみたところ、ハトが豆鉄砲を食らったような顔をしてた。


「何や、唐突に…」

「熱でもあるんちゃうか?」


両親ともに体調の事を心配するくらい意外だったらしい。

そこを理解してもらうのに、今の状況について両親に説明してみた。

最初は不思議そうに聞いていたが、なるほどと情けないといったような表情に移り変わっていく。


「母さんと付き合う時かぁ、何となく自然な流れで、付き合おかってなったからなぁ…」

「そうねぇ、特別な告白とかはなかったわ。ごめんな、参考にならんで。」


あまり期待していなかったが、予想通りの回答に少しがっかりしてしまった俺がいた。

その時にこんな告白がなんて話が聞けても参考になったかわからないが、ないのはないで残念だった。


「こんなん言うてええか分らんけど、静流君とか相談できへんか?」

「確かに、あいつやったら何かいいヒントくれるかも知れんな。」


うちの家族の間では静流はジゴロであるという位置づけにされている。

外見もそうだが、あのサラッとした、爽やかで人たらしともいえる性格は、他の友人では見たことがなかった。

内外共に、後輩たちには理想の先輩として憧れられ、先輩方には理想の後輩として可愛がられている。

特定の彼女がいるという話は聞いたことがないが、後輩たちの恋愛相談を受けることがあるという話は聞いていた。

本人は「俺自身が独り身なのにね~」なんて軽く言っているが、頼られるには理由があると思う。

とりあえず、父の勧めの通り、静流に話をしてみようと思った。


静流に電話すると、いつもの喫茶店の近くに居るということで、すぐに喫茶店の方に集合することになった。

しばらく歩いて喫茶店に行くと、奥のテーブルに静流が座って手招きしていた。


「突然、相談なんて珍しいね。」

「せやなぁ、ちょい相談しにくい話ではあるねんけども。」


静流に先日の話と、その経緯について簡単に説明した。

静かに聞いていたが、話の途中で少し苦笑いのような表情が見えてきた。

そう言えば、静流も俺と姐さんの関係について、じれったく感じている一人だった。


「難しく考えすぎなんじゃない?」

「どういうことや?」

「いや、お互い同じような気持ちなんだろうし、単純に関係性を進めようって話をするだけで解決すると思うよ。」


あまりにあっさりとした回答だった。

静流の目には俺と姐さんはお互いに同じような状況に陥っているという事らしい。

だとしたら言っている通りで、単純にどちらかが話を切り出せばそれだけで済むと思う。


「向こうの両親とも会うんだよね。今まで面識は?」

「あるで、弟さんとも仲良くさせてもうてるから、グループチャットもあったりするくらいやで。」

「なら、両親にも一緒に伝えたら歓迎されるんじゃない?」


静流らしくないくらい気楽で、気の抜けた回答を出された。

もはや悩むのが無駄だと言わんがばかりだった。


「何にせよ、フラッと遊びに行って、サラッと言ってみるくらいでいいと思うよ。さあ、今から行ってきな。」

「おおお…ちょい、押しなって…」


静流に背中を押されながら喫茶店を後にした。

いつの間に会計したのだろうと思ったが、マスターの表情からして、今日はマスターの奢りにしてくれたようだった。

喫茶店を出たその足で、姐さんの自宅に向かった。

いつの間にか、静流から姐さんに、俺が姐さんの家に向かうという連絡がされていたらしく、姐さんから気を付けてというメッセージが入っていた。


バタバタとして、何も考えを整理する暇もなく姐さんの自宅に到着した。

既に姐さんがスタンバイしていたようで、インターホンを押そうとしたタイミングでドアが開いた。


「珍しいわね、突然、家に来るなんて。」

「いやぁ、今朝まで境とおったんやけど、境を送るときに姐さんところに行こうって話になってん。」

「何かちょっとわからないけど、とりあえず上がって。」


姐さんに促されるまま、リビングのほうまで案内された。

リビングには姐さんの両親と弟の真也(しんや)君がソファに掛けていた。

真也くんがいつもなじみの格闘ゲームをしている。彼曰く、父親から習っている武術のイメージトレーニングになるとのこと。


「お、いらっしゃい、陽向くん。」

「おじゃましますー。」

「今日はどうしたんだい?」


既に歓迎ムードで話しかけてきてくれたのは、姐さんのお父さんである真二(しんじ)さんだった。

刑事さんというお仕事柄、土日に自宅にいないことも多いのだが、今日は都合よくお休みだったみたいだ。


「陽向くんはコーヒーで良かったわよね?」

「はい、ありがとうございます。」


コーヒーを勧めてくれたのが、姐さんのお母さんの清香(さやか)さん。

姐さんの家族は、俺の事も家族のように扱ってくれるので非常に居心地が良かった。

自身の両親と同席すると、大家族みたいになりそうだなとふと考えていた。


「いえ、昨日、境と話をしてたら、こちらに一度顔を出しておいた方がって話になったんです。」

「境くんたちと話をしていたということは、ようやくウチのを…。」


と言いながら、目頭を押さえるようなジェスチャーをしてきた。

真二さんは度々、姐さんと俺が付きあわないかな、という空気を出してくる。

姐さんがしっかりしすぎていて、色々と心配しているという話をチラッとされたこともあるので、少し気持ちが分かる気もしていた。


そのあたりの話は軽くいなし、先日の遠征の話をし、チョーカーの事についても説明した。

分かっていて送り出していたということで、特に何か責めるようなこともなく、無事に帰ってきて何よりという話をされた。


「なんで、ウチの爺ちゃんのとこで勉強会って話になりまして、夏休みにまた大阪に一緒してもらうことになるんです。」

「ああ、そこは構わないよ。で、話はそれだけではないね?」


流石、現職の刑事さんだ。

こちらがどう切り出していいか悩んでいる事さえお見通しだった。


「はい、いつもの連中に背中はたかれまして、姐さんとの関係をちゃんとしておけって。」

「……」


無言でこちらの言葉を待っている。

分かっているのだろうが、自分の口で言いなさいと言うことだろう。


「姐さんと、そろそろちゃんと、交際という形にさせてもらえたらと思てます。」

「…よし、及第点だけども、よく言ってくれたね!」


喜んでいる真二さんの向こうで、姐さんが何かを見て驚いている姿が見えた。

その先を見て、こんな時に…と思うような事象が起こっていた。

窓の向こうから、何かの影が近づいてきていた。それと共に、このリビングに揺れというか、歪みが見え始める。

姐さんの輪郭にノイズがのり始め、真二さん、真也くんの動きがスローモーションになる。

まさかとは思ったが、姐さんの家族まで巻き込んでしまったようだった。


「こいつら、何さらすねん!!」


流石にこのタイミングを台無しにされたことで、頭に血が上ってしまった。

いつもの少女ではない、関西に遠征したときに時々見えていた影や、女性陣の体調に悪影響を及ぼした何かだ。

少なくとも、こちらに対して害意のあるもので、父から教えられていた心霊現象の類だということは感覚的にわかった。


「姐さん、下がって!」

「…陽向くん、無理はしないでね…」


大丈夫だという風にジェスチャーで伝える。


「……来た…ニイさん、任せるね!」

「まかしとき!」


真也くんの期待に応えるためにも、父から教えられたやり方で追い返さないといけないと思った。

以前に分けてもらっていた人型を投げつけ、追い返すように念を込める。

帰れというよりも、来ることを拒絶するように、強い念を込めた。


「護られるんやない、護るんが俺の決意や!」


その言葉を言い放った次の瞬間、人型が黒く染まり、焼失した。

そして、リビングに発生した歪みも元に戻っていき、いつも通りのリビングの風景になっていた。


「陽向くん、決意は伝わったよ!」

「良かったね!姉ちゃん!」


真二さんと真也くんに、先ほどのセリフを聞かれていることに気が付き、顔から火が出るかと思った。

向こうで赤面している姐さんを見て、更に自分の顔も真っ赤になっていくのが分かった。


「さておき、これが陽向くんの日常なんだね?」

「いえ、日常とはちょっとちゃいます。これから遭遇することがあるかも知れやん、ある意味事件なんやと思います。」

「そうか…。」

「でも、真琴の事は守ってくれるのよね。」


清香さんが、そう言ってからかい半分で話をフォローしてくれた。

そこからはお祝いだと言い始めて、近所の焼肉屋さんまで強制連行されていった。

色々な感情が混ざったままだったが、結果的には全てが丸く収まり、一番いい結果になったんだと実感した。


—— その境界は、既に壊れ始めていた

37話「境界」、お読みいただきありがとうございました。


陽向の決意と、真琴との関係の前進。

そして、それを狙うかのように現れる“異変”。


今回のテーマはそのままタイトル通り、

「日常と異常の境界」、そして「関係性の境界」です。


守られる側から、守る側へ。

陽向の中で確かな変化が生まれた回でもあります。


また、真也も少しだけ顔を出しましたが、

今後の動きにもぜひご注目ください。


次回は静流視点へ。

“違う意味での理解者”としての一面が見えてくる予定です。


引き続き、よろしくお願いいたします。


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