選定
揃ったもの。
託されたもの。
そして、選ばれたもの。
これまで届かなかった声が、ようやく形を持ち始めます。
けれど、それは答えではなく、新たな問いの始まりでもありました。
どうぞよろしくお願いいたします。
呼びかけが始まって間もなく、強い光に包まれ、世界が真っ白になり、少女の姿が見え始めた。
ただ、いつもと様子が違っている。
それまで事務所に居たはずなのだが、あたりの風景はどこかの神社の境内になっていた。
「どういうことだ?」
今までと違った様相に、思わず声に出していた。
これまでも鳥居が現れたりといったことはあるが、ここまではっきりとした場所を認識できたのは初めてだ。
「ここは何処なんですか?」
自分たちが戸惑っている間に、澪が少女に尋ねていた。
澪の質問に少女が答えている様子は見えないのだが、澪が不定期に頷いている。
まるで、澪には少女の言葉が聞こえているようだった。
「ここが何なのかははっきりわからないのかしら?」
「住んでいるところというのは分かりますが、それがどこかは分かりませんか?」
澪の質問に続いて、真琴さん、澄玲ちゃんも会話に加わっているように見える。
ただ、その三人以外は何が何だかという調子で、少女の言葉は聞こえていないようだった。
そんなことはお構いなしに、三人は言葉を続ける。
「わかったわ。今までも色々伝えてくれようとしていたけど、本質は何処かしら?」
真琴さんが先の話題にキリを付けて、次の話題を振ってくれた。
今回、確認しようとしていた話につないでくれたのは、流石、真琴さんだと思った。
ただ、その話を出した次の瞬間、三人の顔色が少し曇った。
「どういう事でしょう?」
澪が言葉自体は聞き取れているが、内容について理解できないような反応をしていた。
人一倍、他人の機微に鋭く、気遣いも誰よりも優れていると言える彼女が、言葉の内容に戸惑っているようだった。
真琴さん、澄玲ちゃんも反応は少し違うが、不安というか、不穏な空気を感じているようだった。
「異物って何の事です…?」
何となくの感覚でしか伝わっていないのだろう、もしくは言葉としては理解できても頭が拒否しているのだろう。
少なくとも澄玲ちゃんは、その感覚を拒否しているようだった。
逆に、真琴さんは冷静に受け止めているように見える。澪に至っては、ただ言葉通りに受け止めているようだ。
「先ほどの、“隣”という言葉と一つになるんですね。」
澪の言葉に少女が少し反応したように見えた。
言葉は聞こえないし、大きく感情が動いたようにも見えない。
ただ、澪の言葉が少女の何かに触れたのだろう。
「なぁ、境、何となく置いてけぼりにされたみたいやけど、あの様子見る限りは正解やったみたいやな。」
「ああ、今は見守るしかないな。」
「そうだね、この後のフォローのためにもね。」
少女の様子を見て陽向が声をかけてきた。
それまで蚊帳の外になっていた自分たちだが、陽向の言う通り、彼女らに任せるのが正解だと思う。
その後にすかさずフォローを考えていた静流は、そういうところも静流らしいと思わせてくれた。
「貴女は何者なんですか?」
この状況に最も緊張を感じているように見える澄玲ちゃんが質問を続けた。
恐らく無意識ではあっただろうが、こちらも聞いてほしい内容だ。
ただ、質問としては漠然としているので少女に本質が届いているかどうかは少し怪しい。
「そうなのね…、せめて名前くらいは教えてもらえる?」
少女が少しだけ顔を上げたように見えた。
言葉こそ聞こえなかったが、少しだけ、強い意志がそこに見えた気がした。
「また、お話しできますか?」
澪が優しく問いかける。
今までの緊張感とは異なる、どことなく少女との関係に雪融けを感じるものだった。
その言葉に少女は頷いていた。それだけは自分にもはっきりと分かった。
三人が少し満足そうに、また、少女も満足そうな雰囲気を出したと思った次の瞬間だった。
また世界が真っ白になったと思ったら、元の事務所に戻っていた。
「ふぅ、今回はええとこなしやったなぁ。」
陽向が冗談めかして言った。
みんなに気を遣わせないための、彼なりのやり方だというのはみんな分かっていたので、肩の力が少しだけ抜けていい感じになった。
その空気のまま、先ほどのやり取りを聞いてみるのに非常に助かるパスだった。
「今回は、色々と聞けたんじゃないか?」
「はい、何となくですが、次の指針になるんじゃないかと思います。」
澪が少し悩ましげだが、自信ありげに言った。
「結局、あの神社みたいなんって何やったん?」
「彼女が住んでいるところという事みたいね。」
陽向の質問に真琴さんが答える。
先ほどの会話の流れから、そこまでは何となくわかっていた。
そこに、澪がフォローを入れる。
「言っていたのは、私たちの隣にある場所で、彼女はそこに住んでいるという事だそうです。」
「“隣”ってのはまた難儀な表現をしよるなぁ…。」
確かに、自分たちの隣と言われても、隣の建物とか、隣の市区町村とか色々あるので難しい。
ただ、あそこまで明確に見えるもので“隣”と言える距離にあれば何かわかりそうなものだが思い当たらない。
「話の流れ的に、“異物”と“隣”というのがセットなんだね?」
「はい、私はそう聞き取りました。」
静流の言葉に澪が肯定する。
そうだった、話の流れ的に“異物”の話をされていて、その時に“隣”が組み合わされていた。
「私だけかも知れないんですけど…、“私たちの世界に異物が混ざりこんでいる”と言われたときに、まるで悪魔みたいなのが入ってくるイメージが見えて…」
澄玲ちゃんの言葉に、澪と真琴さんも少々驚いていた。
恐らく澄玲ちゃんの言葉通り、イメージが見えたのは彼女だけだったのだろう。
確かに、先日の遠征でも、それらしい現象が発生していることは確認していた。
陽向とつるむようになってから、心霊現象というものに遭遇することは増えていたので、それかと思っていたが違うのだろうか。
「そういう事ね…、澪の言葉から考えても、“隣”というのは“隣の世界”じゃないかしら?霊界とかそういうのじゃなくて。」
そこまで聞いて、自分の中にもあった仮説を肯定できた。
霊界かどうかというのはこの際、おいておくとして、単純に自分たちの世界の隣に何らかの世界があるのだろう。
だから“異物が混ざりこむ”という話になると、自分の中で一つの結論が出た。
「なるほど、せやったら、隣が霊界でも何でもええけど、何かがこっちに来てるっちゅうんだけは確かみたいやな。」
「そうだと思うわ。」
その何かが何なのかが問題ではあるが、一先ず今後の指針を決める鍵は揃った。
そのあたりの話をしなければと思っていると、礼音が話に入ってきた。
「今回は僕と鬼塚も入れてもらえますか?」
前回の遠征の時に声がかからなかったのが引っかかっていたのだろう、今回の件に関しては彼らも一緒でいいか確認を取られた。
朔弥の方も同じ気持ちだったのだろう、彼の視線にも仲間外れは御免ですと言う意思を感じた。
「ああ、今回はそのつもりだ。」
「まぁ、せやけど、まずはウチのオトンとオカンに話、聞いてもうた方がええやろ。」
「そうだね、一旦は俺たち三人で陽向の家に行ってくるから、週明けにまた連絡するよ。」
二人に肯定の声をかけたが、その前に情報を整理する必要があると思ったのだろう。
陽向と静流が、陽向の両親に色々相談してから連絡するという形にした。
静流の言う通り、色々と整理する必要があるのは確かだったので、自分のミスをフォローしてもらえた感じだった。
その後、皆で夕食を摂って、その日は解散した。
解散後、自分は色々と気になることがあったので、世界の情勢を確認する意味も込めて両親に電話をしてみた。
父は連絡がつかなかったが、幸い、母の方には連絡がついた。
—— 母からもたらされたのは、思いもしない情報だった。
第34話「選定」をお読みいただきありがとうございました。
今回は、三つのアクセサリを持つ者だけが少女と対話できるという、新たな条件が明らかになりました。
前話まで積み重ねてきた「選ぶ」という言葉が、ようやく形になった回でもあります。
そして語られた、“隣”にある場所。
そこから混ざり込む異物。
世界に起こり始めている変化は、想像以上に大きなものかもしれません。
少女との距離が近づいた一方で、謎はさらに深まっていきます。
次回は、家族へと繋がる新たな情報が動き出します。
引き続き見届けていただければ嬉しいです。
今後ともよろしくお願いいたします。




