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委任

揃ったはずの三つ。

けれど、それだけでは足りませんでした。


少女が残した言葉を手がかりに、もう一度考え直すことになります。

選ぶべきものは何なのか。変えるべきものは何なのか。


第33話「委任」

どうぞよろしくお願いいたします。


「さて、礼音と朔弥は何か話を聞いているか?」


梓ちゃんや澄玲ちゃんから、はたまた紬ちゃんから何か聞いていないかと思って確認してみた。

が、二人とも首を横に振るだけだった。


「となると、喫茶店での話からだな。」

「せやな、俺からざっと話してみよか。」


陽向が一旦話を引き取る形で、喫茶店から見えた少女の話を説明し始めた。

最初は陽向と自分だけが見えるものだったこと。

喫茶店だけで見えていたものが事務所でも見えるようになったこと。

東北、関東甲信越、関西に分かれて色々と調べてみたこと。

その結果として、集まったアクセサリのこと。

一通り説明してから、テーブルの上の指輪が以前よりも蒼くなっていたことを付け足した。


「そういえば、深紅、蒼、翠ってまた、三原色になっているね。」


ふと気づいたように静流が言った。

たった三つの装飾品がそれぞれの原色になるとは、偶然にしてはできすぎている。

だからこそ、このアクセサリたちは同じところに集まることに意味があると思った。


「せやけど、揃ったけどちゃうって言うたんやろ?」

「そうだな。選ぶとも言っていた。」


三つ揃わないと意味がなさそうなのだが、選ぶと言われたもので困惑している。

そんなところに、不思議そうな表情の紬ちゃんが出てきた。


「別にアクセサリってわけじゃないんじゃないっすか?」


確かにそうだ、選ぶのはアクセサリだけじゃない、それを持つ人間や、場所ということもあり得る。

今回、新しく集まったアイテムだっただけに、少し視野が狭くなっていたようだ。

ただ、今度は選ぶものが何かというところが広すぎて迷ってしまう、という結果になってしまった。


「この三つはそのままとして、何を選ぶんだろうね?」


思慮深い静流にしては珍しく、疑問をそのまま口にしていた。

特にヒントがあるわけではなかったので、色々と組み合わせを試そうとすると途方もなくなる。

しばらく考え込んでいると、横から声をかけられた。


「境さん、少しいいですか?」


珍しいことに、朔弥が一番に意見を述べてきた。

普段なら、最初はしばらく様子見をするタイプなのだが、何か思いついたのだろう。

とはいっても、その表情は疑念を浮かべたままだった。


「自分は、“持つ人”を指しているような気がします。」

「何か思うところがあるのか?」

「何となくですが、あの少女が伝えやすい相手である必要があるのかと。」


確かに、その部分は盲点だった。

指輪については自分が渡されたという意識があり、別の人間に渡すということを考えていなかった。

逆に、イヤリングやチョーカーについては拾った本人ではなく、無意識に一緒に居た女性に渡している。

それを考えると、この指輪も女性に渡すべきなのではないかと思い始めた。


「そっかー。確かに女の子だから、同じ女の子の方が話しやすいとかありそうだよね~。」

「そういえば、一緒に居た狐面の娘も小さい子供だったから、女性の方が安心できたりするかも知れませんね。」


野乃花ちゃんの言葉に、梓ちゃんが続く。

言われてみれば、小さな少女が、こんな大きな男性を前にしたら話しにくいというのも分かる気がした。


「しかし、俺の場合は、この指輪を拾ったときに一緒に居た女性がいなかったからな…」


そうなのだ。他の二つと違って、指輪は女子の誰かが同席しているときに受け取ったわけではない。

なので、誰かに自然に渡すというのは難しいものがあった。

そうしていると、視界の端で梓ちゃんが澪を小突いているのが見えた。

何を言いたいかは何となくわかるのだが、自分の方からは言いにくい雰囲気だ。


「境さん、アクセサリの一つくらいいいんじゃないですか?」

「そうですね。お兄さん。」


礼音がさも当然かのように爽やかに言い放った。

それに澄玲ちゃんが「わかってるよね」と言わんがばかりの目力で追い討ちをかける。

若者にここまで言われてしまうと、気づかないふりをするわけにもいかなかった。


「…澪、預かってもらえるか?」


みんなの前でこういったことになると流石に恥ずかしかった。

二人も澪と自分の微妙な関係性は分かっている。

そして、言われた通り、澪にアクセサリを渡したことは無かったのだ。


「え…」

「色々思うところはあるだろうけど、これは澪にあずかっていてもらうのが良いと思う。」


戸惑っている澪に、いつもより優しく語り掛けた。

お互いに色々と思うことはあるが、一先ずは受け取ってもらってから前に進むことに決めた。


「はい、お預かりしますね。」


澪の満足げな笑顔と、“返しませんよ”という意思を感じながら指輪を渡すことができた。

何故か嬉しそうな女性陣が澪の向こうに見えていたが、あえて気づかないふりをした。

次の飲み会の時には、恐らく真琴さん辺りに絡まれてお説教されることだろう。


「さて、ひと段落ついたことやし、リトライしてみよか?」


陽向が助け舟を出してくれた。

この雰囲気のままだと話が進まないというのも事実だから、助け舟だけではなかったと思いたい。


「だね、一先ずティータイムにしてから、もう一度呼んでみよう。」


静流がティーポットとコーヒーメーカーを取り出して、ティータイムの準備を始めていた。

もう一度、少女を呼ぶ前に色々と整理しておいた方が良いという判断らしい。

男性陣と真琴さんにはコーヒー、他の女性陣には紅茶を配り、野乃花ちゃんが茶菓子をかごに入れてきた。


「まず、確認したい内容を整理しておこうか。」

「メモに取りますか?」


澄玲ちゃんの言葉に静流は首を振る。

メモを見ながら少女と対話というのは考えにくいので、当然かと思ったが、そうではなかった。


「整理をするだけで、実際にはその場の流れでいいと思うんだ。」

「どういうこっちゃ?」

「今整理しても、実際に呼び出せるかどうかも分からないよね。」


確かに、言われてみれば呼び出せて当然という空気になっていたが、その保証はなかった。

その言葉に全員が思わず頷いていた。

静流が言うには、ただ、再会できたときにどうしようというのを整理しておくということだ。


整理した内容としては、何を伝えたかったのか、少女は何者なのかの二点を優先するということだった。

野乃花ちゃんの意見ではあるが、せめて名前くらいないと呼びにくいという話もあり、名前も聞いてみることになった。

誰かがちゃんと意識していて、少女との会話が成立すれば、今よりは前に進むことができると思う。

もしかすると、一連の事件は解決することになるかもしれないと、微かな期待もあった。


「…そろそろ夕方になりますね。」

「そうだね、そろそろ始めない?」


澪が外を見ると、少し日が傾きかけていた。

時間的にも夕方になってきて、時間もあまりない感じがしたので、真琴さんが先に進めることを促した。


「さあ、始めようか。」


今度こそはという気持ちと、少女に対する期待が入り混じった中、少女への呼びかけが始まった。


—— 持ち主を変えた指輪が、更に蒼く輝いた。

第33話「委任」をお読みいただきありがとうございました。


前回の「示唆」を受け、今回は一度立ち止まり、集まった情報を整理する回となりました。

何を選ぶのか。何が足りないのか。答えの形はまだ見えていません。


そんな中で行われた、指輪の持ち主の変更。

小さな変化ではありますが、物語にとっては大きな一歩になったかもしれません。


それぞれの想いが少しずつ動き出し、再び少女との対話へ向かっていきます。


次回、今度こそ何かが変わるのか。

引き続き見届けていただければ嬉しいです。


今後ともよろしくお願いいたします。


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