示唆
全てが揃った――そう思っていました。
各地で受け取ったもの。
それぞれが持ち帰った体験。
そして、全員が集まったこの場所。
けれど、答えはまだ少し先にあるようです。
第32話「示唆」
どうぞよろしくお願いいたします。
結局、昨日は物件を買っただの独占しただの騒いでいたはずが、気づけば全員が寝落ちていた。
朝起きてみると、ソファや床やで寝こけており、死屍累々と言った感じだ。
何だかんだ言っても緊張しているのだろう、こんな事になるのはいつかのクリスマス以来だ。
目を覚ましたもののボーっとしていると、静流がコーヒーを淹れ始めた。
当然と言わんがばかりに三人分のカップを持ってくる。
それを見ながら、まだ寝こけている陽向の脇腹をつついてやった。
「何や~…」
「そろそろ起きるぞ、真琴さんが来たらどうするんだ。」
その名前にパッと上体を起こす。
陽向に真琴さんの名前はよく効く。
実際のところ、全員が集合するように声をかけているなら、真琴さんが最初に来るだろうと思っているのも確かだ。
そんなことをしていると、意外なことに最初に到着したのは澪だった。
それも、男三人が集まると、朝食なんてろくに摂らないだろうことを見越して、行きつけのパン屋で買い込んできてくれていた。
「おはようございます。大変なことになってますね…」
「ああ、幸い、全員二日酔いにはなっていないみたいだ。」
苦笑いする澪が見える。
テーブルの上に雑に置かれた空き缶を見れば、当然だろうと思った。
「皆さんが来る前に片づけますね。」
澪がテーブルの上からシンクまで、片づけ始めてくれた。
その間に、それぞれ顔を洗ったり、乱れた服装を整えたりし始めた。
そうしている間に、真琴さん、野乃花ちゃんと順々に事務所に入ってきた。
「おはよう、相変わらず荒れるわねぇ。」
「みんならしいね~。」
それぞれに惨状を指摘する。
とはいえ、このメンバーだと見慣れた光景だろうから、抵抗がある感じはなかった。
「それにしても、都合よく土日が近くて良かったわね。」
「せやな~。高校生チームも来てもらおうと思たら、休みやないと上手くはまらんでなぁ。」
二人の言う通りで、自分たちは単位を取れるようにしておけば問題ないのだが、高校生チームはそれに合わせるのは難しい。
今回のように連休が明けて間もなく週末になるスケジュールだったのは非常に助かった。
そんな話をしながらテーブルを囲んでいると、高校生チームが入ってきた。
「おはようございます!」
「おはようございます。姉さんもおはよう。」
紬ちゃんと梓ちゃんが入ってくる。
それに続いて、男子二人が入ってきた。
「おはようございます。今日もやってますね。」
「ああ、礼音も相変わらず元気そうだね。」
静流と相性がいいのだろう。二人で独特な雰囲気を出しながら挨拶を交わしていた。
この金髪碧眼の美形は白銀礼音、梓ちゃんの同級生で、時々うちの事務所に遊びに来る男子だ。
「ご無沙汰してます。」
「お前も相変わらずだな、調子はどうだ?」
「お陰様で、親子とも元気にしています。」
この少し不愛想に見える方が鬼塚朔弥。
梓ちゃん、澄玲ちゃんと、この二人がよくつるんでいるメンバーらしい。
女子高校生二人に対して、男子高校生二人は癖が強いなとは前々から思っている。
「境さん、何か事件らしきものがあったとか聞きましたが。」
「ああ、その辺の情報共有で集まってもらった。始めようか。」
朔弥が少し心配そうに声をかけてきた。
少し昔の話ではあるが、朔弥が荒れている時に色々とフォローしていたことがある。
その時のことを恩義に感じているようで、こうして所々に気遣いをしてくれる。
見た目は綺麗ながら怖い感じがすると言われるが、中身は気のいい優しいやつだ。
ひとしきり挨拶も終わり、全員がテーブルを囲む形で落ち着いた。
自分の持っていた指輪がテーブルの中央に置かれる。
勘の鋭い真琴さんは気づいたようだった。
「境くん、この指輪ってこんなに蒼かった?」
「ずっと持っているので分かりにくかったんですが、やはり深くなってますよね。」
少し目を離していた真琴さんなので分かったのだろう。
思ったよりもはっきりと色味が変わっているようだった。
それとは別だが、真琴さんの首元に赤いチョーカーらしきものが見えた。陽向の言っていたものだろう。
同じように、澄玲ちゃんの耳にも、前になかった翠のイヤリングが見える。
こちらは静流が言っていたイヤリングだろう。
分かっていてか、そう導かれたのか、指輪の両サイドを囲む形で二人が座るようになっていた。
「なぁ境、一回呼んでみた方がええんちゃうか?」
陽向が状況を見て提案してきた。
ちょうど同じことを考えていたところだったので、その提案に乗ることにする。
アイコンタクトで肯定を返し、件の少女を呼びかけてみた。
ふと、事務所内の空気が冷え込んだ気がした。
それと共に、周りの風景が歪む。
歪んだ風景の奥に、幾重もの朱色の鳥居が立ち並び、その中から少女が狐面の小さな少女を連れて来た。
昨日、陽向と静流の三人で情報交換した内容が全て揃った状況だ。
この状況を何も経験していない礼音と朔弥が、少し狼狽え
「……は?」と礼音が固まり、朔弥は無言で立ち上がりかけていた。
『…やっと…集まった…』
いつも通り、少し意味を捉えるのには不足する少女の言葉だ。
ただ、“集まった”というのが、このアクセサリたちの事であろうことは想像がついた。
「ああ、ここに三つ揃っている。」
『…でも…違う…』
「どういうことや?」
受け取ったものは確かに揃っている。ただ、それを否定されている。
陽向の言葉も当然の疑問だと思った。
『…もう少し…選ぶ…』
「選ぶ?三つ揃うんじゃ?」
静流もこの声は聞こえていたようで、言葉の意味を計りかねるという疑問を返した。
『……きっと分かる』
それだけを残して、鳥居の向こう側に帰っていった。
今回は少女自身が掻き消えるような感じではなく、明確に鳥居の向こうに歩いて行った。
少女の姿が目視できなくなりそうなところで、歪んでいた風景が元の事務所に戻っていた。
「何だか、お爺ちゃんの時よりも曖昧な感じがしなかった?」
真琴さんが最初に口を開いた。
それも、先日より今回の方が曖昧な感じがするという、予想に反する内容だった。
それぞれに受け取ったアクセサリが揃ったということは、何かが前に進むと思っていたので、その言葉にハッとさせられた。
このアクセサリの意味も分からない状態なのに、勝手に解釈していたことに気が付いたのだ。
「せやな、確かに爺ちゃんが話してた時は、もっとはっきり意思みたいなもんを感じたわ。」
「そうか、まだ何か忘れていることがあるんだろうな…」
「そうだね、一度整理して考えようか。」
陽向にその時の感触を伝えられ、静流に思考の整理を促された。
そう言われて、自分が少し焦っていたのかも知れないと思い、改めて周りを見た。
「境さん、僕と鬼塚は何も知らないので、最初から教えてもらっていいですか?」
礼音が言っていることに朔弥が頷いていた。
言われて思い出したが、礼音と朔弥には何も詳しいことを説明していなかった。
これはちょうどいいと思い、状況を整理するために、二人に事の仔細を説明していくことにした。
ちょうど昼に差し掛かろうとしていたので、簡単に昼食を摂りながら説明を始めた。
—— 三つのアクセサリだけが、答えを知っているように淡く輝いていた。
第32話「示唆」をお読みいただきありがとうございました。
ついに全員集合となり、三つのアクセサリも揃いました。
ここから何かが始まる――そう思えた矢先に告げられた「違う」という言葉。
答えが近づいたようで、まだ届かない。
今回はそんな一話になりました。
そして、新たに加わった礼音と朔弥の二人にも、この不可思議な出来事が共有されていきます。
人が揃えば進むわけではない。けれど、人が揃わなければ辿り着けない。
次回は一度立ち止まり、これまでの出来事を整理していく回になる予定です。
今後ともよろしくお願いいたします。




