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授与

これまで積み重ねてきた出来事が、

少しずつ意味を持ち始めています。


点だったものが線になり、

その先に何があるのかが、わずかに見え始めた——


今回は、その一端に触れる回になります。


「自分は何なんや…?」


無意識に少女に向かって尋ねていた。

恐らく期待した答えはないであろうことは分かっていた。

ただ、それでも、少女が何者…いや、どういう存在なのかを尋ねずにはいられなかった。


『…ここなら…話せそう…』


思ったよりも、はるかに確かな言葉を交わせそうな手ごたえを感じた。

“ここなら”ということは、この場所に何かあるということだろうか。


「ここならっちゅうんは、どういうことや?」

『…少し…近づけてる…』


期待した答えを得ることはできていない。

やはり、ほとんど一方通行のような会話になってしまっている。

会話というよりは、向こうの言葉を聞き取っているだけだ。


「嬢ちゃんよ、ワシと話そうか。」


ここにきて、祖父が前に出てきた。

この状況でも、何か考えがありそうだった。

祖父母は俺たちの常識では測れないと思っているので、ここに一縷の望み託すことにした。


「嬢ちゃんは何を伝えたいんや?」

『…私…ここに…』

「なるほど、この角度では見れんっちゅうことやな?」

『……』


少女が沈黙した。

沈黙は是であるということが、少女の纏う空気から伝わってくる。


「ほな、どうしたら見れるんや?」

『…三つ…揃えば…見える…』

「ほぅ、何か揃うことになるんか。」

『……』


また、少女が沈黙した。

祖父のやり取り、解釈している内容が理解できないが、何かの方法で対話できているようだ。

後で説明してもらいたいところだが、祖父の事なので、ぼんやりしたことしか教えてくれないと思う。


「わかった、後は陽向たちが帰ってからやってもろとくわ。」

『……』


表情はハッキリ見えないのだが、少女が少し満足そうにしているように感じた。

祖父もそれを見ながら満足そうにしている。

しばらくすると、長い廊下や鳥居はなくなって、壁などが全く見えない和室に移動していた。

いや、移動したというよりは、空間そのものが変わったようだ。


少女が翻って離れていく。

狐面の少女たちもそれに続いて、暗闇の奥に進んでいった。

その姿が見えなくなるころには、元あるべき断崖の手前に立っていた。


「陽向さん、あそこに何か見えませんか?」


梓ちゃんが転落防止の柵らしきものを指差す。

よくよく見てみると組み紐のようなものが括り付けられていた。

少し暗い赤、深紅というより、血のように濃い赤だった。


「何やろ?」


何の気なく、その組み紐を手に取ってみた。

瞬間、背筋に冷や汗が流れる。恐怖とかではなく、圧迫感というか威圧感のようなものを感じていた。

そこに悪意は感じられないが、只々、何か大きな存在のようなものを肌で感じる。

柵から組み紐をほどいてみようと思っていたが、とてもではないが、そのまま触り続けることはできなかった。


「陽向やと無理やろ。お嬢ちゃんでもいいけど、今回はお姉ちゃんの方やな。」


祖父はそう言うと、組み紐のところまで姐さんを連れて行った。

姐さんが組み紐をほどくのに手を触れたが、特に何も感じないらしく、そのままほどけてしまった。

祖父の話しぶりから考えて、梓ちゃんでも問題はなかったということだろう。

“今回は”という表現をしていたのが少し気になったが、今それを気にするべきではないなと思い、そのまま様子を見ていた。


「これ、長さ的には首飾りみたいね。チョーカーみたいなものかしら?」

「せや、首飾りやで、普段からつけといたらいいと思うわ。」


祖父が軽い感じで姐さんに伝えた。

俺としては、あんなものを姐さんにつけさせることに抵抗はあったが、祖父の事だから考えがあるのだろう。


「ちょっと愛想ないから、家に戻ったら少し珠飾りするわ。」


祖母も軽い感じだった。思わず“そこちゃうやん!”と突っ込みを入れそうになった。

確かに、単なる組み紐だけだと少し殺風景にも見えるので、こういった装飾が得意な祖母に任せるのが良い。

どんな飾りにするのか少し楽しみにしなっていた。


「姐さん、それ着けて何ともないん?」

「え?何もないわよ?」


案の定、姐さんは何も感じていないようだった。

普段は第六感みたいなのが鋭い人なのに、この組み紐には何も感じないらしい。

それが逆に、少しだけ引っかかった。


「今回は陽向やないってことやな。お姉ちゃんの方が合うたって話や。」

「爺ちゃん、また詳しいとこ教えてもらえる?」

「いんや、今回のは多分やけど、時期が来たら分かるようになると思うわ。」


やはり、祖父には何か思うところがあるらしく、はぐらかされてしまった。


色々収穫はあったのだが、それだけ疲れてしまったのも確かで、帰り道の雑談は少し控えめになった。

普段から運動していないことがこんなところで響くのかと実感しながら、駐車場まで戻っていった。

最年長の祖父が一番元気だったのは、仲間内には見られたくない現場だ。


「とりあえず、一通りの用事は終ったんやな?」

「ん、ああ、せやね。今回用事のあったポイントは全部終わったで。」

「ほな、折角やで、寄り道して帰ろか。」


祖父に促されるまま進んでいくと、川湯温泉にたどり着いた。

先日も熊野古道に行ったところなので、何となく親近感を感じるところになっていた。

祖父と二人で川に温泉を作る。

女性陣の水着は祖母が近くのお店で手配してくれたらしく、事実上の混浴状態で浸かることになった。

もちろん、祖父と俺も水着着用である。


「ちょっと珍しいやろ?」

「そうですね、ちょっと気恥しいところですけど、こういうのもいいですね。」


祖父と姐さんが普通に世間話をしている。

さっきまでの出来事は頭からクリアして話をしているといったところだろう。


「梓ちゃんも大丈夫なん?」

「はい、水着を着ているから平気です。」


そりゃそうだと思いながら、梓ちゃんの言葉を聞いていた。

祖父母も、女性陣も今日の疲れからかゆったりした状態になっている。

祖母が近くにある旅館をとってくれたらしく、この後は食事を摂って休むだけだった。


「陽向、今日の話も東に戻ったら分かると思うで、気にしたらあかんで。今はな。」

「お、うん、分かった。」


祖父は俺が気にしてしまうことは分かっていたのだろう、またボヤっとしたヒントと共に励ましの言葉をもらった。


食事のあと、流石に疲れが出たのか、女性陣はすぐに寝着いてしまった。

祖父と俺は二人で将棋を指していたのだが、後で姐さんに怒られそうなので二人の秘密にしておこうという話にしてもらった。

実は祖父も、夜更かしをすると祖母に起こられるらしく、微妙な表情で笑っていた。


明日、明後日と少し休ませてもらってから、東に戻ることになっていた。

数局指した後に布団に戻ったのだが、祖父の“戻ったら分かる”という言葉が少し気になって考えていた。

が、疲れのせいか、考え事もまとまらないまま眠ってしまった。



—— 組み紐の赤みが深く、何かを示そうとしているように見えた。

「授与」、いかがだったでしょうか。


これまでにも“渡されたもの”はありましたが、

今回のそれは、少し意味合いが違うものになっています。


誰に渡されるのか。

なぜ渡されるのか。


まだはっきりとは見えませんが、

確実に何かが進んでいる感覚はあるのではないでしょうか。


ここから先は、それぞれの役割が

少しずつ浮かび上がってくるかもしれません。


引き続き、お付き合いいただければ嬉しいです。


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